グリーンインフラとは、樹木や草地、土、水辺といった自然が持つ働きを、暑さ対策や雨水の処理、生きものの住みかづくりなどに生かす、まちの基盤(インフラ)の考え方です。街路樹や公園、屋上・壁面の緑化、雨水をしみ込ませる庭などが具体例で、ひとつの緑がいくつもの役割を同時に果たす点が特徴です。
コンクリートの堤防や下水道のような従来のインフラとの違い、暑さ・大雨・生物多様性への効果、ベランダや地域の活動など暮らしの中での関わり方を、身近な例とあわせて解説します。
グリーンインフラとは
グリーンインフラ(Green Infrastructure)は、「グリーン=自然」と「インフラ=社会を支える基盤」を組み合わせた言葉です。道路や上下水道、堤防と同じように、木や草、土、水辺もまちを支える設備のひとつととらえ、計画的に配置して管理していく考え方を指します。
大きな特徴は、ひとつの緑がいくつもの役割を同時に担うことです。たとえば一本の街路樹は、夏の日差しをさえぎって歩道を涼しくし、根元の土で雨水を受け止め、鳥や虫の休み場所になり、まちの景観もととのえます。
グレーインフラとの違い
コンクリートやアスファルト、鉄などの人工物でつくる従来のインフラは、グレーインフラと呼ばれます。堤防や排水路、下水道は、決められた量の水を確実に流すといった特定の目的に強く、効果を計算しやすいのが長所です。一方のグリーンインフラは、効果が天候や植物の育ち具合に左右されやすいものの、多くの機能をあわせ持ち、植物が育つにつれて働きが大きくなっていきます。
この二つはどちらかを選ぶものではなく、組み合わせて使うものです。雨水を下水道で流しつつ、公園や庭の土にもしみ込ませて下水道へ一度に流れ込む量を減らす、といったように互いの弱点を補い合います。
| 項目 | グレーインフラ | グリーンインフラ |
|---|---|---|
| 主な素材 | コンクリート・アスファルト・鉄など | 樹木・草地・土・水辺など |
| 得意なこと | 特定の目的を確実に果たす | 暑さ・雨・生きもの・景観など複数の役割を同時に担う |
| 時間による変化 | 完成時の性能が高く、年月とともに劣化する | 植物の成長とともに働きが大きくなる |
| 手入れ | 点検・補修・つくり替え | 剪定・草刈り・水やりなど、生きものとしての管理 |
これは一般的な傾向をまとめたものですが、実際の効果は場所や設計によって変わります。
「緑化」や「自然を活用した解決策」との違い
「緑化」は、植物を植えて緑を増やすこと自体を指す言葉です。グリーンインフラはそこから一歩進んで、緑に暑さ対策や雨水の処理といった機能を持たせ、まちの基盤として計画に組み込むところまでを含みます。花壇を置くことは緑化ですが、雨水が流れ込むように地面より低くつくった花壇は、グリーンインフラとしての役割も果たします。
また、気候変動や災害といった社会の課題に自然の力で対処する考え方は「自然を活用した解決策(NbS:Nature-based Solutions)」と呼ばれます。グリーンインフラは、この考え方をまちや施設の整備に当てはめたものです。川や池、水路など水辺の働きに注目するときは、「ブルーインフラ」「グリーン・ブルーインフラ」という言い方もします。
グリーンインフラの主な働き
暑さをやわらげる
舗装された地面や建物は日中に熱をため込み、夜になっても熱を放ち続けます。そのため都市部は周辺の地域より気温が高くなりやすく、これをヒートアイランド現象と呼びます。樹木は葉で日差しをさえぎって日陰をつくり、葉や土から水分が蒸発するときに周りの熱を奪います(蒸発散)。緑の多い公園や木陰が涼しく感じられるのはこのためです。
大雨を受け止める
アスファルトやコンクリートの地面は雨水をほとんど通さないため、強い雨が降ると水が一気に排水路へ集まり、道路の冠水や浸水の原因になります。土や植え込みは雨水をしみ込ませて一時的にため、ゆっくりと地下や川へ流すので、雨のピーク時に流れる水の量を抑える助けになります。地下にしみ込んだ水は地下水を養い、晴れた日の蒸発散にもつながります。
生きものの住みかをつなぐ
都市の中の緑は、鳥や昆虫、小さな生きものの住みかや移動の通り道になります。公園、街路樹、庭やベランダの植物が点々とつながることで、生きものがまちの中を行き来できるようになり、生物多様性の回復に役立ちます。
人が集い、くつろげる場所をつくる
木陰のある広場や緑の多い道は、散歩や子どもの遊び、近所の人との立ち話の場になります。暑い日に逃げ込める涼しい居場所が近くにあることは、高齢の人や小さな子どもにとって特に大切です。
身近なグリーンインフラの例
- 街路樹・並木:歩道に日陰をつくり、根元の土で雨水を受け止める
- 公園・緑地:まとまった緑で周辺の気温を下げ、雨水をしみ込ませ、災害時の避難場所にもなる
- 屋上緑化:建物の屋上に植物を植え、屋根に届く日射をやわらげ、雨水を一時的にためる
- 壁面緑化・緑のカーテン:つる植物などで壁や窓を覆い、室内に入る熱を減らす
- 雨庭(あめにわ):屋根や道路から流れてくる雨水を、くぼ地にした植え込みに集めてしみ込ませる庭
- 透水性・保水性の舗装:雨水を通したり、ためたりできる舗装で、地面の熱や水の流れをやわらげる
- 農地・水田・ため池:雨水をためる働きと、生きものの住みかとしての役割をあわせ持つ
パリで進む、校庭を「オアシス」に変える取り組み
グリーンインフラの考え方がよく分かる例のひとつが、フランス・パリ市の「OASIS(オアシス)」プログラムです。舗装された校庭を緑ゆたかな涼しい空間に変え、熱波の影響を受けやすい人たちも使える場所にする取り組みです。対象は子どもだけでなく、高齢の人や体調のすぐれない人、赤ちゃんを連れた母親なども含まれます。
背景には、2003年と2017年の深刻な熱波と、今後さらに熱波が頻繁に、長くなるという予測があります。パリは人口密度が高く、中心部の住民一人あたりの緑地は平均で約6平方メートルにとどまります。建物の密集や水を通さない建材などによって、まわりの農村部より気温が高いヒートアイランドになっており、それが熱波の影響を強めています。そこで目が向けられたのが、市内の学校にあわせて73ヘクタールある、アスファルトや舗装で覆われた校庭でした。校庭はどの地域にもまんべんなくあり、熱波の影響を受けやすい人たちの暮らしの場に近いからです。
改修では、樹木や芝生、果樹、菜園を植えて緑の面積を増やしたほか、地面には明るい色で水を通しやすい素材を使いました。雨水で地面をぬらして蒸発散による冷却効果を高め、水遊びや学校の菜園にも雨水を使っています。計画づくりには、児童や教員、学校職員も一緒に加わりました。
試験段階では10か所の校庭が緑の空間に改修され、その成果と提言をもとに、ほかの校庭へと対象が広げられています。2022年までに、パリ市内で75か所の校庭が改修されました。暑さ対策、雨水の活用、生きものの住みか、地域の居場所づくりを一度に進める、グリーンインフラの多機能さがよく表れた例です。
暮らしの中のグリーンインフラ
グリーンインフラというと、行政や企業が整備する大きな事業に聞こえるかもしれません。けれど庭やベランダの一鉢、地域の花壇も、まちの緑のネットワークの一部です。
ベランダや窓辺に緑を置く
夏の窓辺でつる植物を育てる緑のカーテンは、日差しをさえぎり、葉からの蒸発散で室内に入る熱をやわらげます。エアコンに頼りすぎない夏の過ごし方につながり、花や実の成長を眺める時間は暮らしの余白にもなります。集合住宅のベランダは避難経路を兼ねていることが多いので、管理規約を確かめ、避難はしごや隔て板の前をふさがない、排水口に土や落ち葉を流さない、といった点に気をつけましょう。プランターの土づくりには、生ごみからつくる堆肥も役立ちます。始め方はコンポストについてのコラムで紹介しています。
庭や駐車場で雨水を受け止める
戸建ての庭なら、地面をすべて舗装せず、土や砂利、植え込みを残すだけでも雨水がしみ込む場所が増えます。雨どいから流れる水を植え込みに導けば、小さな雨庭になります。雨水タンクにためた水を植木の水やりに使えば、水道水の節約にもつながります。
地域の緑づくりに参加する
公園の清掃や花壇の手入れ、植樹のイベントなど、地域の緑にかかわる活動は各地で行われています。公園や街路樹の計画について、自治体が住民の意見を募ることもあります。パリの校庭の改修で子どもや先生が計画づくりに加わったように、使う人がかかわることで、緑は長く大切にされる場所になります。
住まいや毎日の道を「緑」の視点で見る
引っ越し先を探すときや、通勤・通学の道を選ぶとき、木陰のある道や近くの公園、雨の日の水はけにも目を向けてみると、暮らしやすさを測る新しい物差しになります。暑い日に木陰の多い道を選んで歩くことも、グリーンインフラの恵みを受け取るひとつの方法です。ごみを減らす工夫など、身の回りからできる環境への配慮をもっと知りたい方は、ゼロウェイストのガイドもあわせてご覧ください。
【参照サイト】Paris Oasis Schoolyard Programme, France|Climate-ADAPT
