フェアトレード商品を扱うアパレルブランド「シサム工房」が、今年から古着の回収を、京都、大阪、神戸、東京の直営店で、本格的にスタートさせました。できるだけ1着を長く着ることができるように、リメイクやアップサイクルで生まれ変わらせます。
このリサイクルプログラムができた背景について、シサム工房代表の水野泰平さんに取材しました。
フェアトレードの服は環境に優しい?
シサム工房はアジアの生産者とつながり、フェアトレードにこだわったものづくりをしているブランドです。商品を作るときには、オーガニックコットンなどの自然素材のこだわり、人権や環境に対して十分な配慮をしています。また、生産者の自立支援につなげているのも特徴です。
しかし、アパレル産業がもたらす環境負荷は、生産から販売までの前半と、使用から廃棄までの後半とに分けられます。
人と環境に優しい服作りを行ってきた中で、代表の水野さんやスタッフは、「商品をつくって販売したその後にも責任を持ちたい。」と思うようになったと言います。
後半の服を手放す手段は、大きく分けて三つあります。一つ目は、リサイクルショップやフリマアプリ等を通じた譲渡や売却。二つ目は地域や店舗での回収。そして、現状で最も割合が高いのが、三つ目の可燃ごみ・不燃ごみとして廃棄する方法です。
2022年度の調査では、手放された衣料の68%がゴミとして廃棄されており、焼却・埋め立てられた量は44万5,000tにものぼると言います。
途上国への寄付に潜む課題
シサム工房で、古着の回収後について検討された時に、最初に浮かんだ案は「途上国への寄付」でした。しかし、この方法には課題があると水野さんは指摘します。
「難民キャンプなどの物資が不足している場所では、古着の寄付が必要なこともあります。しかし、途上国に大量の中古衣料が無償または極端に安価で供給されることで、現地の繊維産業が窮地に立たされてしまう現象も起きています。特に、アフリカを中心に、かつて服作りや販売で生計を立てていた人々が自立できない状況が広がっています。」
さらには古着が結局埋め立てられ、大規模な環境汚染を引き起こしているとの報告もあり、善意の寄付であっても、海外へ送る方法については再考されることとなりました。
古着のリサイクルも難しい
回収した古着をリサイクルに回すことについても検討が行われましたが、ペットボトルや空き缶、紙と比べて繊維のリサイクルは遅れていることが明らかになりました。この遅れの背景には、衣料品には多様な素材が混在していることが挙げられます。
ファッション性や機能性を向上させるために、綿、麻、絹、毛などの天然繊維と、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維が、混紡されて使用されています。
さらに、ボタンやファスナーなどには金属やプラスチックなど、多種多様な素材が使用されているため、これらの素材を分離・分解することが難しく、一様に粉砕や溶解することが難しいそうです。
さらに、繊維は加工・裁断するほど短くなるため、同じ品質の繊維として再活用するのが難しくなることがわかりました。※たまに見かける“リサイクルコットン”は、古着などの衣料品を原材料にしたものではなく、紡績工場などでの落ち綿を使用したものです。
つくった1着を長く生かす
これらのことから、シサム工房では、寄付やリサイクルに回すのではなく、回収した古着に再び手を加え、新たな製品として生まれ変わらせるアップサイクルの仕組みをつくることになりました。
古着の素材は一点一点が異なるため、丹精込めた手仕事が必要です。関西のリメイク作家の方々や、視覚などに障害のある方が働く就労支援事業所である京都市社会福祉法人 京都ライトハウス FSトモニーのメンバーに、リメイクを依頼しています。
ハンドプリントや手織りなどの生地も、新しい視点で作品に取り入れられ、一点一点が新しい製品へと生まれ変わっています。
この取り組みにより、環境への負荷を最小限に抑えながら資源を有効に活用し、使い切ることを目指します。
先んじて古着回収・リメイクに取り組んでいた大阪・なんばCITY店でリメイクされた服は毎回反応が良く、すぐに完売するほどの人気だと言います。
「今後、リメイクされた製品は店頭で順次販売され、古着や端切れ生地を裂いた紐はオンラインストア等の包装にも活かされる予定です。」と水野さん。
古着回収に出す前に考えてほしいこと
夏にスタートしてから約1ヶ月間ですでに衣料53点、約19kgの衣料が寄せられたそうです。出番の少なくなったコートやパンツ、破れたり、日焼けしてしまったりしたものなど、集まった衣類はさまざまです。
「なかには10年以上着古された衣類も寄せられ、いかに私たちの服を大事に着てくださっているのか、実感する機会にもなりました。」と水野さん。
同時にほとんど着用されていない新品同様の衣料も寄せられたそうです。
「衣類の寄付では喜ばれるかもしれませんが、現状では解体してアップサイクルの素材として活用することになります。状態のいい服は誰かへお譲りするか、古着として販売するなどして、できるだけ一着の服として十分に着てほしい。」と水野さんは語りました。
編集後記
2013年にバングラデシュの縫製工場では1,100人以上の死亡者を出したラナ・プラザ崩壊事故が起こりました。また、2019年には国連貿易開発会議が環境汚染産業の2位に繊維・アパレルを挙げたことで、アパレル産業がいかに人権と環境の課題を抱えている産業かがメディアで取り上げられ、私たちが知る機会も増えました。
現在、さまざまな企業がそれぞれに解決策を模索していますが、今回はそのなかでも少し珍しいシサム工房の取り組みをご紹介しました。
完全ではないけれど、現状でできる最善の取り組みとして「”モノづくりから廃棄まで”責任を持ちたい」という想いのもとにスタートしたそうです。服を買うときにも、そして手放すときにもその後のイメージを巡らせ、優しい社会につながるような選択ができるといいなと思いました。
【参照サイト】◆古着の回収をスタートしました! 【シサムの ロングライフ プロジェクト】
【関連ページ】京都のゼロウェイスト認証ショップ「シサム工房」のごみを減らす仕組みとは
牛嶋麻里子
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