世界的にサステナブルなファッションへの関心が高まる中、ファッションブランドの脱炭素への取り組みはどれほど進んでいるのでしょうか?
この冬、「ファッション透明性インデックス 脱炭素編 – WHAT FUELS FASHION? -」の日本語版が発表されました。これは、世界の主要ファッションブランド250社を対象に、環境負荷や人権への取り組みの情報開示の度合いをランキングする「ファッション透明性インデックス」の特別版です。今回は、特にファッション業界の脱炭素化に焦点を当てたレポートになっています。
【参照サイト】ファッション透明性インデックス 脱炭素編 – WHAT FUELS FASHION?
レポートの日本語翻訳を担当したのは、FASHION REVOLUTION JAPAN(運営:一般社団法人unisteps)の翻訳チームです。翻訳を担当したマルティンメンド有加さん、一般社団法人unisteps共同代表の鎌田安里紗さんに、レポートの読みどころや、日本語版の意義について伺いました。
- マルティンメンド有加さん
- 鎌田安里紗さん
ファッション業界は気候変動の加害者であり、被害者でもある?
「気候変動というと、日本では「地球にやさしく」という緑を守るようなイメージが強いように思います。しかし、気候変動によって人命に関わるような事態が世界中で起きていて、わたしたち自身の生活を守るために気候変動対策が必要です。」と鎌田さん。
バングラデシュやカンボジア、インドなど、ファッション産業が盛んな地域では、すでに熱波、モンスーン、干ばつなどの深刻な気候災害が発生しています。また、モンゴルでは気候変動の影響で、カシミヤやウールの生産が難しくなりつつあります。
一方で、ファッション業界自体がCO2排出の一因となっていることも事実です。ファッション業界は気候変動の加害者であり、被害者でもあるのです。
レポートには、衣類生産国の現状や、どのような変化がどこの誰に影響を及ぼすのかを可視化する写真やストーリーが掲載されています。
日本語で読むことができることの意味
「ファッション透明性インデックス」は、FASHION REVOLUTIONの本部があるイギリスで2017年から発行されているレポートで、今回でシリーズ7作目となります。これまで、人権や水資源の利用など包括的な視点でまとめられてきましたが、今回は気候変動の深刻さを踏まえ、「脱炭素」に焦点を当てて作成されました。
専門用語や脱炭素に関する特有の考え方が多く含まれており、これまでの透明性インデックスの翻訳実績があったとはいえ、日本語版の制作は非常に大変な作業だったそうです。
翻訳チームの8人は、専門的な内容や考え方の多い英語版レポートを深くまで読み込み、レポートの持つ熱量を保つと同時に、日本の読者にもわかりやすい形で伝えることを目指しました。
「少し難しそうに見えるかもしれない。でも、専門的ではありつつも、頑張って読んでいただいた方には、持ち帰ることが必ずあるレポートに仕上がっています」と、翻訳を担当したマルティンメンドさんは語ります。
また、翻訳を手がける意義について、鎌田安里紗さんは次のように話しました。
「日本語での情報が少ないことで、議論の機会が減ってしまうことを実感しています。
もちろん、英語圏の情報がすべて正解ではありませんが、すでに世界で議論されてきた情報があるのなら、その積み重ねが共有されないことはすごくもったいないことです。最新の情報を得ることで、議論の深さが変わってくると思っています。
日本でもこうしたテーマについて積極的に議論されるべきだと考えており、日本語版を作成することで、このレポートが議論を促進するための一つのツールとして活用されるといいな、と思っています」
語気の強さに惑わされずに
このレポートが読みづらいと筆者が感じたところは、強めの言葉づかいにあります。時には、「怒っているのかな?」と思うほどの語気の強さに、違和感を抱く方もいらっしゃるかもしれません。
背景には、緊急性だけでなく、お互いにはっきり主張することで議論を活性化させる、個人的な攻撃や悪者扱いをしているわけではない等の前提が定着している、ヨーロッパでのアクティヴィズムのあり方が起因しているそうです。
「こうした言い回しは、日本ではあまり馴染みがないため、少しでも違和感を和らげるために、日本語版には「日本の皆様へ」というメッセージを加えました。これがアクティビズムであること、そしてその語気の強さに惑わされずに、それぞれの役割を果たし、できることをやってきましょう、と伝えたかったのです」とマルティンメンドさん。
例えば、こんな風に読んでみて
初心者におすすめの読み方としては、まず冒頭の「日本の皆様へ」を読み、その後は自分が興味のあるセクションを選んで読むことです。その際、脱炭素に関する単語集や解説も非常に役立ちます。
例えば、「公正な移行」セクションは、日本語にすると少し堅苦しく感じるかもしれませんが、気候変動にさらされている人々がどんな影響を受けているのかが詳しく書かれています。
また、「原材料と過剰生産」セクションは、ファッション産業特有の問題で、「こんなに作り続けるの?」や「素材をどうすべきか?」といった疑問を提起しています。企業の成長のためには生産量が増えることが推奨されてきましたが、この成長を続けるべきなのかという、価値観に関わる話です。そのため、読む人によって感じ方が異なるかもしれません。
「ファッション産業は、どう気候変動に与える影響を減らすか、という加害者の視点で語られることが多いですが、その産業で働いている特に立場が弱い人が気候変動の被害者になっているという、二面性をこのレポートで扱っていることが非常に重要だと感じています」と、鎌田さん。
さらに、ファッション業界に限らず、企業や行政のサステナビリティ担当者からは、脱炭素やカーボンニュートラル、サステナビリティに関して何を行うべきかのチェックリストとして参考にしたという声が届いています。「チェックすべきポイントが網羅的に示されているため、何をやらなければならないのかが明確に把握でき、非常に役立ちます」(鎌田さん)
まず「透明性」が重要
FASHION REVOLUTIONが掲げている最も大きな目標の一つは、ファッション産業の透明性を高めることです。
透明性とは、服を製造しているブランドが、自らの製品がどのように作られているのか、サプライチェーン全体でどこで誰が作業をしているのか、そして脱炭素に向けた取り組みがどこで行われているのかを把握し、その情報を公開することです。この「公開すること」も含めて、「透明性」または「トランスペアレンシー」と呼ばれています。
「透明性を高めることに注力している理由は、どこで誰が作っているのかを知らなければ、問題が見えてこないからです。そのため、まずは透明性を高めることが最優先です。その後に、サステナビリティや公正さを高めていく、という順番で進めていこうと考えています」と鎌田さん。

また、このレポートは、ブランドの脱炭素化への影響を測定するものではなく、各ブランドが自社の事業やサプライチェーンにおいてどのように脱炭素に取り組んでいるか、どのような情報開示を行っているかを評価することを目的としています。このため、レポートの結果をもとにお買い物をすることは推奨していません。
ファッション産業はCO2排出量の削減目標をオーバーしている状況
今回の調査では、世界規模のファッションブランドがパリ協定で示された「1.5度目標」に対して、どの程度精度の高い目標を設定し、その成果を公表しているかを、アンケートや公開されている情報をもとにランキングしました。
主な調査結果の一部を紹介します。
・調査したほぼ半数のファッションブランドが排出削減目標を開示する一方で、脱炭素化に特に重要とされるスコープ3(生産や輸送、消費などの過程)排出量は依然として増加している
・世界の主流ファッションブランドのほぼ4分の1(24%)は、脱炭素化に関する情報を何も開示しておらず、気候危機が彼らにとって優先事項ではないことを示している
・大半の主流ファッションブランドおよび小売業者の95%が、サプライチェーンで使用されている燃料について明らかにしていないため、どのような燃料が使われているかがわからない
本編では、さらに詳しいレポートを読むことができます。Puma、Gucci、H&Mなどのブランドが上位にランクインする中、アシックス、GU、ユニクロ、ユナイテッドアローズ、MUJIなど、日本のブランドも調査対象となっています。知っているブランドを探してみるのもよいかもしれません。
ファッションのこれからをよくするために
「脱炭素に向けて、ブランドができることは、例えば、工場の再エネ化を進めること。消費者ができるのは、服を買うときに本当に必要なものを見極めることです」と鎌田さん。
「自分が着てみたいと思ったその服が、実は気候変動などとつながっていること。世界中ではファッションによって楽しい思いをする人と生活が脅かされている人がいることを考えるきっかけになれば、このレポートを訳した甲斐があります」とマルティンメンドさん。
レポートの中では、よく購入する・好きなブランドに対して、年間売上高の2パーセントを生産国での脱炭素やサプライチェーンの脱炭素活動に投資するよう、メールなどで要請する方法も紹介されています。日本人には少し難しく感じられるかもしれませんが、ぜひ一度目を通してみてください。また、市民以外にも、さまざまなセクターの方々に向けたアクションの提案も行っています。
編集後記
レポートの公開の知らせを聞いて「とても意味のあるレポートだから、専門家だけではなく、より幅広い人にも知ってほしい」と思い、インタビューをお願いしました。
お話を伺ったことで、実際に私は、ファッション透明性インデックス脱炭素編を読むハードルが下がり、その翻訳を通して私たちに対話を促すFASHION REVOLUTION JAPANの皆様の想いに触れることができました。
ぜひ、マルティンメンドさんや鎌田さんの言葉を辿るように、まずは気負わずに本編を開いていただければ嬉しく思います。
【参照サイト】ファッション透明性インデックス脱炭素編 ーWHAT FUELS FASHION?ー
一般社団法人unisteps

牛嶋麻里子

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