不要になった衣類の回収を行うアパレル企業は増えていますが、回収した衣類の行方まで語り、それを新たな商品として店頭に戻すまでの取り組みを行う企業は多くありません。
今回は、株式会社AOKIが展開する「OKAERI エコ プロジェクト」と、その取り組みから誕生した「ウールエコシューズ」について、AOKI取締役の小出大二朗さんにお話を伺いました。

スーツだけじゃない、AOKIの衣類回収とは?
AOKIの衣類回収はスーツだけにとどまりません。AOKI以外で購入した衣類も幅広く回収しており、下取りとして買い物に使えるクーポンがもらえる点も魅力です。タンスに眠る衣類をAOKIに持参してみるのもよいかもしれません。
下取り対象アイテム
スーツ・フォーマル・ジャケット・スラックス・セーター
スカート・ワンピース・コート・シャツ・カットソー
※傷や汚れがあっても、クリーニングなしで回収可能
※AOKI以外で購入した衣類も対象
下取り対象外
ビジネス小物・肌着・靴下・シューズ・ネクタイ・ベルト・バッグ
※カビが付着しているもの、極端に汚れがひどいもの、濡れているものは不可
【詳細】AOKI 下取りキャンペーン

店舗には「OKAERI エコ BOX」という専用回収ボックスが設置されています。このボックス自体も回収された衣類を原料としており、さらにリサイクル可能な素材で作られている点が特徴です。衣類は直接ボックスに入れることもできますが、多くの場合、スタッフが受け取ってくれるそうです。
「服には多くの思い出が詰まっています。ただ捨てるのではなく、誰かの役に立つ形で再利用されることは嬉しいものです。そうしたストーリーをお客様に伝えることも大切にしています」と小出さん。
衣類の回収にとどまらず、回収後の再利用方法まで明確に示しているAOKIの取り組みなら、温かい気持ちで安心して手放すことができそうです。
回収した衣類から生まれたスニーカー

店頭で回収したスーツや礼服をリサイクルし、新たに誕生したのが「ウールエコシューズ」です。2023年に販売を開始したこのスニーカーは、ビジネスカジュアルから普段使いまで、幅広いスタイリングにマッチする洗練されたデザインが特徴です。
「AOKIの強みであるスタイリストが、ディスプレイだけでは伝えきれないこの靴のストーリーをお客様にしっかり伝えています」と小出さん。
ウール製品のリサイクルは技術的な課題が多く、それをどう解消するかが鍵となりました。ウールを再び生地にするためには、細かく裁断し、ほぐして綿状に戻す「反毛(はんもう)」という工程を経る必要があります。
しかし、反毛を重ねるほど繊維が短くなり、強度や品質を維持するのが難しくなります。そのため、再生ポリエステルを混ぜて糸を作ることで強度を確保しました。また、スーツと礼服のみに限定することで、高品質なブラックの色味を維持することにも成功しました。糸の開発には約1年を要したといいます。

「スーツに使われるのは、非常に細く長い繊維です。再生ウールでは、同じ品質の糸を作るのが難しいため、試行錯誤の末にシューズのアッパー素材として活用することを決めました」

再生ウールには環境面でのメリットもあります。天然繊維のため環境負荷が少なく、リサイクルすることで廃棄物削減につながります。さらに、ウールは再利用しても保湿性や柔らかさが比較的保たれるため、蒸れにくく快適な履き心地の靴に仕上がりました。
現在、実店舗を中心に販売されており、好評を得ています。ぜひ店舗で実物を手に取ってみてください。
AOKIがエコに取り組む理由

AOKIの衣類回収の歴史は1996年に始まります。当初は「AOKI ウール・エコ・サイクル®プロジェクト」として、ウール製品のみの回収を行っていましたが、2023年には回収対象を広げ、「OKAERI エコ プロジェクト」として再スタートしました。現在では、リサイクル企業と協力し、回収した衣類を車の吸音材にするなど、素材に応じたリユース・リサイクル・アップサイクルの仕組みを整えています。
「AOKIの企業理念は、社会性・公益性・公共性の追求です。環境配慮やサステナブルという言葉が一般的でなかった時代に、”不要になった衣類を捨てるのではなく、回収して再利用できないか”という考えから、この取り組みを始めました。これはAOKIの理念に基づいた行動の一つです」と小出さん。
衣類の再活用を進めるには、十分な量を回収することが重要です。POPや接客を通じて認知を広げた結果、現在では毎年平均20万着の回収に成功しています。
「衣類は捨てるのではなく、回収に出すもの。そうした認識を広めていきたいと考えています。そのための環境を整えるべく、店頭での回収と製品化に取り組んでいます」と広報担当の石津さん。
スーツや衣類は重くかさばるため、持ち運ぶのが大変ですが、AOKIは郊外店舗が多く、駐車場も完備されています。そのため、車でまとめて持ち込むお客様も多いそうです。
「OKAERI エコ プロジェクト」の意味
最後に、印象的なプロジェクト名の由来を伺いました。
「”おかえり”という言葉には、ただ捨てるのではなく、衣類を回収し、新たな形で生まれ変わらせるという意味を込めました」
衣類の回収を行う企業は増えていますが、回収品が再び消費者の目に見える形で戻ってくるケースはまだ多くありません。回収された衣類がどのように活用されるのかを知ることで、より安心して衣類を託すことができます。環境問題への配慮だけでなく、消費者が納得しやすい透明性のある取り組みが、AOKIのエコ活動の大きな特徴といえます。
今回の取材を通して、天然繊維リサイクルの難しさと、それを乗り越えて商品化したAOKIの本気を感じるとともに、このプロジェクトは、衣類を持ち込んだ消費者にとっても、再び店頭で「おかえり」と再会できる、とても素敵な取り組みだと感じました。

牛嶋麻里子

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