世界的に深刻な課題となっているプラスチックごみ問題。国によっては使い捨てプラスチック製品を禁止するなど、積極的に対策に取り組んでいます。日本も対策に力を入れていますが、世界的にはやや遅れが指摘されているのが現状です。日本のプラスチックごみリサイクルの現状や課題、今後の対策について解説します。
日本のプラスチックごみリサイクルの現状と問題点
2022年における日本国内のプラスチックの生産量は951万トン、国内消費量は910万トン、廃プラスチックの総排出量は823万トンと推定されています。これらは約87%がリサイクルなど有効利用され、約7%が単純焼却、約6%が埋め立て処理と推計されています。
【参照】環境省 令和6年版 環境・循環型社会・生物多様性白書
プラスチックごみ排出量のうち8割以上がリサイクルなどを通じて有効利用されているのなら、日本はリサイクル優等生なのでは? と思われる方も多いかもしれません。しかし、そこには次のような問題が隠されています。
1. リサイクルの半分以上を占める熱回収
国内におけるプラスチックごみの有効利用率は約8割以上ですが、実はすべてがプラスチック資源として循環しているわけではありません。プラスチックごみのリサイクル方法にはいくつか種類があり、その内訳は以下のようになっています。
- マテリアルリサイクル:22%
- ケミカルリサイクル:3%
- サーマルリサイクル:63%
【参考】プラスチック循環利用協会 2022年 プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況
マテリアルリサイクルとは、プラスチックからプラスチックへ生まれ変わらせるリサイクルのこと。たとえばペットボトルごみがペットボトルに生まれ変わらせるような場合を指します。また、ケミカルリサイクルとはプラスチックごみを分解し、プラスチック素材へ生まれ変わらせるリサイクルのことです。
問題となるのは、サーマルリサイクルです。サーマルリサイクルとはプラスチックごみの焼却の際に発生する熱エネルギーを利用することを指し、火力発電や温水プールなどに使われています。
埋め立てごみを減らすなどのメリットもありますが、プラスチック資源として循環しているわけではありません。また、燃焼する際に二酸化炭素を排出し、地球温暖化の一因となってしまいます。実際、多くの国でサーマルリサイクルはリサイクルとみなされていません。最近では国内でも「サーマルリサイクルはリサイクルではない」という考え方が広がりつつあり、サーマルリサイクルへの依存から脱却することが期待されています。
2. 廃プラスチックの海外輸出停止
日本は、これまでアジア諸国へ廃プラスチックをリサイクル資源として輸出していました。しかし、これらを受け入れる国の多くは低所得国であり、廃プラスチックを管理する仕組みの整備が遅れている受け入れ先もあります。輸出されている廃プラスチックの中には汚れているものも多く、リサイクルの際に引き起こされる河川の環境汚染などの面から、2017年度末に中国が輸入を停止しました。他の国々も追随し、2019年にはバーゼル条約締約国会議でバーゼル条約の改正案が採択され、リサイクルに適さない汚れたプラスチックごみの輸出は、実質的に不可能となりました。これにより、国内では多くの廃プラスチックが行き場を失っていると考えられています。
プラスチックごみ削減に向けた対策
2020年「レジ袋有料化」でマイバックの携帯が日常に
2020年7月1日より、プラスチック製買物袋が有料化になりました。それまで何気なくもらっているレジ袋が有料になったことで、多くの人がエコバッグやマイバッグを持ち歩くようになりました。環境省が実施した「環境省 令和2年11月レジ袋使用状況に関するWEB調査」でも、レジ袋有料化をきっかけに、マイバッグを使用する人の割合が3割から7割以上に増えたことがわかります。レジ袋有料化は、プラスチックごみについて考え、ライフスタイルを見直すきっかけになったと言えるのではないでしょうか。
有料化の対象外となるサステナブル素材
プラスチック製買物袋の有料化は、過剰な買物袋の使用を減らしていくことが目的です。一方で、環境性能が認めらたものは、有料化の対象外となります。対象外となる買物袋は以下の3点です。
- プラスチックのフィルムの厚さが50マイクロメートル以上のもの
- 海洋生分解性プラスチックの配合率が100%のもの
- バイオマス素材の配合率が25%以上のもの
【参考】経済産業省 プラスチック製買物袋有料化 2020年7月1日スタート
2022年「プラスチック新法」がスタート
国内のプラスチックごみの問題を受けて、2021年6月に成立した「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」は、プラスチックごみの削減とリサイクルの促進を目的とする新たな法律です。略して「プラスチック資源循環促進法」または「プラスチック新法」とも呼ばれています。特徴は、「そもそもごみを出さないよう設計する」というサーキュラーエコノミー(循環経済)の考えが取り入れられていること。プラスチック製品の設計や製造の段階から廃棄まで、プラスチックを扱うすべての自治体や事業者を対象に、包括的にプラスチック資源が循環する仕組み「3R+Renewable」の構築をめざして制定されました。
プラスチック新法は、2022年4月に施行されました。自治体や企業は、この法律に沿って、プラスチック製品の製造・使用・廃棄に取り組んでいます。
プラスチック新法では、プラスチック製品の製造や廃棄について具体的な措置が盛り込まれています。主な対象は主に自治体や事業主です。プラスチック製品の購入、使用、廃棄のそれぞれのアクションに沿って、どんな措置があるのか見ていきましょう。
【購入】プラスチック製品の環境配慮設計を推進
国が積極的に企業を後押しし、環境に配慮された製品を増やすために、プラスチックの使用量が少ない・リサイクルしやすい構造など、環境に配慮して設計や製造された製品を国が認定する仕組みが作られます。さらに、環境負荷が低い優れた製品は公表されます。また、環境配慮設計に取り組む事業者には、リサイクル材を使用に関わる設備への支援も行われています。
【使用】使い捨てプラスチック製品の削減
プラスチック新法では、コンビニやスーパー、ホテル、クリーニング店、ネットショップなどに対し、無料で提供している使い捨てプラスチック製品の削減目標を設定し、使用量を減らすことを求めています。特に使い捨てプラスチック製品を年間5トン以上使う大手事業者には、有料化や再利用といった対応を義務づけられています。
今回の規制により、事業者は国が指定する「特定プラスチック使用製品」を有料化するか、受け取らなかった場合のポイント還元、受け取る意思の確認、再利用、代替素材への転換などで対応することが求められています。取り組みが不十分な場合は社名を公表し、さらに命令に従わない場合は50万以下の罰金を科されます。ただし、年間5トン未満の中小業者や輸入品には強制力がありません。
無償提供が見直される「特定プラスチック使用製品」とは?
法案成立を受け、2022年4月から国が「特定プラスチック使用製品」として定めた12品目を提供する対象事業者は、使用の「合理化(=環境負荷にならないように、提供方法を工夫すること)」を求められるようになりました。対象となった使い捨てプラスチック製品は以下の12品目です。
- ストロー
- フォーク
- ナイフ
- スプーン
- マドラー
- ヘアブラシ
- くし
- かみそり
- シャワーキャップ
- 歯ブラシ
- ハンガー
- 衣類用カバー
【廃棄】プラスチックごみのリサイクル促進
家庭のプラスチックごみを分別回収している自治体の多くは、ペットボトルや食品トレイなどをリサイクルプラスチックの対象にしてきました。プラスチック新法では、これらに加えて文房具や子どものおもちゃなどもリサイクルプラスチックに含め、一括回収を行うよう自治体を促しています。
「プラスチック新法」の今後の課題
プラスチック新法のもと、使い捨てプラスチック製品の無償提供の見直しも盛り込まれており、コンビニなどで無料で配られていたストローやスプーンなどが有料化されました。ただし、この見直しは規模の小さな事業者に対する強制力はありません。そのため、これまでと変わらず使い捨てプラスチックを無償で提供する事業者もいます。規模の小さな事業者への対応は、今後の大きな課題の一つです。
また、同法では紙や木でできた容器やスプーンなどプラスチック以外の素材への代替や、バイオプラスチックの利用促進が提案されていますが、これらも結局は使い捨てである点が指摘されています。
プラスチックごみ削減のために身近なことから始めよう!
世界的には「プラスチックごみはまずリデュース、次にリユース、最後にリサイクルという優先度で処理されるべき」という共通認識があり、日本ではまだ法整備などが追いついていない面もあります。
まずは、私たちがプラスチックごみ削減に対する意識を高めることが必要ではないでしょうか。マイボトルやマイ箸などを活用して使い捨てプラスチック製品をできるだけ使わないなど、身近なことでもできることはたくさんあります。プラスチックごみ削減のためにできることは何か考え、行動していきたいですね。
【参考ページ】プラスチック循環利用協会 2022年 プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況
【参考ページ】環境省 プラスチックを取り巻く国内外の状況
【参考ページ】日本自然保護協会 政府のプラごみ問題施策方針への NGO 共同提言
【関連ページ】プラ新法から1年、私たちの暮らしはどう変わった?【ファストフードチェーン各社の対応まとめ】
【関連ページ】プラ新法から1年、私たちの暮らしはどう変わった?【 コーヒーチェーン各社の対応まとめ】
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