「ケルン」は、神戸の地元で愛される創業76年の老舗ベーカリーです。ゼロウェイストなど環境に配慮した取り組みを行い、サステナブルベーカリーとして神戸・JR摂津本山駅に位置する「日々ケルン」を、以前Life Huggerでも取材をしました。
【関連ページ】パンで社会を幸せにする!地域の課題に取り組む老舗ベーカリーの挑戦
今回は三宮店が場所を新たにオープン!新しい取り組みも含め、サステナブルのステージがまた一段階アップしたベーカリーのプレオープンに参加し、代表取締役の壷井豪さんにお話を伺いました。
チョコッペが街の新シンボルに⁉
阪急神戸三宮駅から徒歩1分、JR三ノ宮駅から徒歩3分という好立地に新店を構えたケルン。入口では圧倒的な存在感を放つ、パンのオブジェが迎えてくれます。そのオブジェは「チョコッペ」。48年間で2,000万本以上売れ続けている、ソフトフランスにミルクチョコをサンドしたケルンの愛されベストセラーです。神戸っ子で知らない人は少ないのではないでしょうか。
高さ160cmのチョコッペ、お店の存在感をプラスするのと同時に、新しい待ち合わせスポットになればという想いで設置したそうです。
「ツナグパン」で食品ロス対策と社会的支援
「フードロス削減と社会的弱者支援を誰もが疲弊しないかたちで循環させたい」という想いで2021年末に誕生した「ツナグパン」。全店舗で取り入れており、もちろん三宮の新店でも販売されています。
「ツナグパン」は、売れ残りのパンのなかから痛みにくいものを厳選、アソートして製造翌日の営業で販売するというもの。「食べるタイミングを考えてみたら、必ずしも焼いた日とは限らないですよね。最近では、有名ベーカリーの通信販売では冷凍で届くのがデフォルトです。ですから翌日にリーズナブルな価格で販売することは、私たちにもお客さんにもメリットがあるはず、と思ったんです」。
購入者にはケルン全店で使える木製のエシカルコイン(100円相当)が渡されます。さらには同額のエシカルコインが、福祉施設を介して支援対象者にも贈られるという仕組み。エシカルコインを受け取った支援対象者の消費行動を促し、社会的自立を応援する狙いがあると言います。
ツナグパンの実施で消費者も支援対象者にもメリットがあるのはもちろん、お店でもフードロス率が11%から1.2%まで減少したそうです。
エシカルコインの存在価値
今のデジタル化の流れに反して、エシカルコインはアナログな木製。「どれだけデジタル化が進んでも、私たちがしたいのは『体験』だと思うのです。実際にお店に足を運んで買い物をしたり、スタッフと交流したり…。それに高齢化社会になる今の世の中で、年配の方にも簡単に使って欲しくて木製を採用しています」。
「ツナグパン」ゼロを目指す
食品ロスという問題解決と利益が同時に出るからといって、ツナグパンは万能ではありません。そもそもツナグパンとはケルンで出た売れ残りのこと。「ゴールはツナグパンをゼロにすること」だと壷井さんは言います。
社会課題に取り組む生産者の商品を販売
日本各地の社会課題に取り組む生産者さんとケルンのお客さんとのあいだに架け橋を作ることも、三宮店の新たなチャレンジのひとつ。壷井さん自らがセレクトした、環境や社会課題の解決に繋がるさまざまな商品を店頭に並べています。商品にはそれぞれQRコードがついているため、お客さんはそこから生産の背景やストーリーをその場で知ることができます。
例えば、規格外のため廃棄予定だった糸島産の天然真鯛を丸々使った株式会社やますえの「真鯛めしの素」や、害獣とされている鹿の捕獲から販売まですべて行うジビエブランド「RE-SOCIAL」の「笠置鹿と丹波高原豚の特製ソーセージ」など、壷井さんのベーカリー運営にも通じる無駄のない、社会課題にも貢献するような「本当にいいもの」です。なにより、どの商品も美味しいものばかり。「美味しくて面白い取り組みが、セレクトの基準」だそう。
「いいものは高いからとハードルが高く思われがちですが、私は最後に残るのは『想いのあるもの』だと思っているので、生産の背景を知ってもらいたいと考えました。まず数社からのスタートですが、今後事業としても拡大していく予定です。応援し合える仕組みを作り、社会課題解決の地域ハブとなることで、循環型経済を構築したい」と壷井さん。
伐採された街路樹を店内の内装に活用
店を訪れてチョコッペと同様目に入るのが、天然木を活用した内装です。使われているのはユリノキで、実は整備のために伐採された神戸市北区小倉台にあった街路樹でした。それを大阪の街工場「安多化粧合板株式会社」により、一枚一枚丁寧に突板(化粧合板)加工されたものを使っています。工場の安多さんには直接会いに行き、想いを伝えてそれをカタチにしてもらったという特別なものです。
店舗の設計を担当したのは、壷井さんと親交のある建築士で、「関西建築家新人賞」や、大阪建築コンクール「渡辺節賞」など、数々の賞を受賞している阿曽芙実氏(阿曽芙実建築設計事務所)。
「建築士に私からリクエストしたのは『近くの樹を使ってほしい』ということ、カーボンニュートラルをカタチにすることでした」。本来捨てられるはずだった街路樹を、「ベーカリー」という新たなステージで利用することで、カーボンニュートラルに取組む重要性を可視化することに繋がっています。
ケルンをサステナブルなパン屋さんに
想いがあってカタチになる。その当たり前のことが難しいとされるなか、76年続く老舗ベーカリーケルンの3代目壷井さんのお話からは溢れる「想い」が伝わってきました。
一生懸命作ったパンを捨てたくない!
サステナブルベーカリーと呼ばれるのに相応しい取り組みを次々と行うケルン。壷井さんにお話を聞くと「とにかく一生懸命作ったパンを捨てたくないんです」と。
幼少期から感じてきた違和感、それは当たり前のようにそこにあったベーカリーの日常でした。「早朝からパンを焼き、売れ残ったら捨てる。売れる分だけ焼くということは難しく、雨の日も風の日も同じように用意して、結局売れ残って捨てる。このサイクルにずっと違和感がありました。昔からの『こうあるべき』を忠実に守ることで、新たな無駄を生み出していないだろうか、と感じていました」。
その想いがずっと根底にあるため、壷井さんが行うことはサービスでも商品でも、見事なまでに無駄がなく、循環・再利用されているのでしょう。
誰もが疲弊しない仕組み作り
壷井さんは「疲弊しない仕組み作り」の重要性を何度も口にされました。「私たちがしたことは、パンを捨てることを止めただけです。捨てるのを止めたらいいことだらけでした(笑)!」。パンの廃棄をやめたことで、利益も上がり豊かさまで循環し始めたそうです。
チャリティーやボランティアなど「環境や人に良いこと」に突っ走り過ぎると、必ずどこかが疲弊するのだと壷井さんは言います。中途半端にならないよう優先順位を明確に、ケルンの場合は「捨てないこと、使い切ること」に最も価値を置いています。「なにかを成し遂げるのに誰かが犠牲にならない、皆にとっていい状態でこそ、うまくいくのではないでしょうか」。
SDGsを意識し、捨てない工夫をカタチにしてきたケルンですが、その道中は平たんではありませんでした。ただ「一見難しく見えることでも、僕のなかで“仕方ないからしない”はないんですよ。諦めなければ実現できるんです」と、壷井さんは力強く断言しました。
想いやチャレンジを次々とカタチにする、サステナブルベーカリー「ケルン」。人や環境にいいことやいいものも、人に知られ実践することで初めてその役割を果たすことができるのだと、お話を聞いて感じました。ケルンはそのきっかけを作る場所になるはず!ベーカリーの枠を飛び越えた取り組みも含め、今後のケルンに期待が高まります。
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