量り売りを通して買い物を考える、暮らしに寄り添うマルシェ主催の想いとこれから

宮城県仙台市の「量り売りマルシェ」は、買い物客自らが繰り返し使える容器を持参し、食材や惣菜を量り売りスタイルで購入できる完全予約制のイベントです。

2019年6月以来、毎月1回のペースで行われてきたマルシェは、2023年3月を以って、拠点とする北仙台の会場での開催を終えました。休止期間を挟み、新たな場所に拠点を移した上で、2023年6月からの再開を予定しています。

今回は、量り売りマルシェでのごみの出ない買い物体験をレポートするとともに、マルシェの運営に携わる渡辺沙百理さんにインタビューを実施。4年近くにわたる活動を経て、一つの転換点を迎えた量り売りマルシェのこれまでの取り組みと、今後の展開についてお話を伺いました。

仙台の量り売りマルシェでごみの出ない買い物を体験

「必要なものを、必要な分だけ」をテーマに、食品ロスやプラスチック容器ごみの削減を目指す量り売りマルシェには、毎月8~9店舗が参加。欲しい枚数分をその場でスライスするハム・ベーコンをはじめ、パン、焼き菓子、惣菜、味噌、有機野菜などの作り手が集まります。

ハムやベーコンは1枚単位でオーダー可能で、その場でスライスしてくれる。

出店者の約半数が毎月入れ替わり、その季節ならではの旬の食材を使った商品のラインナップを楽しめる点も魅力の一つです。

「何をどれだけ買うのか」を立ち止まって考える

ごみを出さない買い物は、何をどれだけ買うのかを考えるところから始まっています。

量り売りマルシェの開催前に、Instagramで紹介される販売予定商品の写真を見ていると、「どれも食べてみたい」とつい欲張ってしまいそうに。

焼き菓子などのスイーツを求めて足を運ぶ人も多い。

しかし、よく考えるうちに、「一人では食べ切れないかな」「今回は2種類だけ買おう」などと思考が整理されていき、当日を迎えるまでに自分なりの買い物プランを決めることができました。

一部の商品は購入の事前予約を受け付けているため、あらかじめ買う量を決めて予約をすれば、出店者側も仕入れや当日準備する量を調整しやすく、食品ロスの削減にもつながります。

何気ないきっかけからの会話と交流が生まれる場

量り売りマルシェ当日、北仙台駅近くの小さな会場には、タッパーやアルミ製のバット、ガラスの空きビンなど、思い思いの容器を持った買い物客が集まります。

グラノーラを持参したガラスタッパーに入れてもらう。

慣れた様子でおしゃれなバスケットにぴったりと保存容器を収めている人がいたり、購入したカヌレやパウンドケーキをお菓子の空き缶に綺麗に詰めている人がいたりと、買い物のスタイルは人によってさまざまです。

パッケージごみを減らすための工夫を、一人ひとりが楽しみながら実践している様子がうかがえました。

色とりどりの旬の野菜も、袋詰めされていない状態で並ぶ。

「この前買ったパン、おいしかったです」「そのみつろうラップ、便利そうですね」と、出店者と買い物客の間や、その場で出会った人たち同士で自然と会話が生まれるのも、顔の見える範囲でのコミュニケーションを大切にしている量り売りマルシェならではの光景です。

いつもの買い物を見直すきっかけに

24時間営業の店舗やオンラインショップなど、欲しいものがすぐに手に入る環境のおかげで、私たちの生活の利便性は格段に高まりました。

しかし、その手軽さゆえに、本当に必要かどうかを深く考えないまま衝動的にモノを買ってしまうことも少なくありません。また、袋詰めになった食材を手に取るケースが多い普段の買い物では、商品の量が自分にとって適切なのか、なかなか意識を向けられていないことにも気づきます。

まずは、何がどれだけ必要なのかを自分自身に問いかける。買うものを決めたら、家にある保存容器の中でどれが使えそうかを考えてみる。量り売りマルシェでの買い物は、日々の購買行動を改めて振り返る機会を与えてくれた体験でした。

量り売りマルシェを主催する渡辺沙百理さんにインタビュー

話者プロフィール:渡辺沙百理(わたなべさゆり)さん

フードクリエイターの佐藤千夏さん、ハムの製造を手掛ける有限会社ジャンボン・メゾンの髙崎かおりさんとともに、仙台で「量り売りマルシェ」を運営。「ごみを減らし、暮らしを楽しむまちづくり」をコンセプトとする「tsugi」プロジェクトを主催し、循環型の暮らしを実現するための各種ワークショップの企画も行っている。

自分の頭で考えて判断することの大切さ

渡辺さんは、袋詰めにされた商品を買うことが当たり前となっている世の中について、「便利な反面、何も考えずに選択ができてしまう怖さもある」と話します。

「量り売りマルシェでは、食品ロスやプラスチック容器ごみの削減だけでなく、『自分にとって本当に必要な量はどれくらい?』と立ち止まって考えることも大切なテーマの一つとして捉えています。何をどれだけ買うのかに加えて、誰が・どこで・どんな材料を使って作ったのかにも意識を向けるなど、モノを選ぶ時の基準を自分の中できちんと持っている状態が理想ですね。」

量り売りでは、欲しいものを「何グラム」「何個」単位で買うのか、自分で一から考えて選択します。あらゆる商品がパッケージ化され、他の誰かが用意した選択肢の中だけで買い物をしていると、本当にその食材を無駄なく使い切れるかどうかを深く考えなくなってしまうこともあるでしょう。

「これくらいの量がちょうどいい、という気づきや、容器の持参によってパッケージごみが出ない気持ちよさは、実際に体験してみないとわからないものです。量り売りをきっかけに、自分の頭で考えて物事を判断する力が身に付くと、買い物だけでなく、あらゆる生活の場面での『生きる力』が湧いてくるのではないかと思います。」

日常に寄り添った場づくりを大切にしたい

量り売りマルシェのほかにも、渡辺さんが主催するtsugiプロジェクトでは、環境負荷の少ない石けんを暮らしに取り入れるための講座、トートバッグ型の「LFCコンポスト」を使って生ごみの堆肥化を始めたい方向けの相談会など、毎月複数のワークショップを開催しています。

「量り売りも、tsugiプロジェクトでのワークショップも、実はすべてがつながっています。それぞれ異なるテーマを扱っているようにも見えますが、環境のことや、自分の身体に取り入れる食べものについて、改めて考えてみるという点は共通しているのかなと。

ワークショップを通じて自宅でコンポストを始めた方からは、『余計な添加物が入っていない食品を意識して選ぶようになった』というお話もよく聞きますね。そんな風に、暮らしの中でのさまざまな気づきが見つかる場所になればいいな、と思いながら企画をしています。」

新たなスタートを切る仙台の量り売りマルシェ

4年近くにわたって続いてきた量り売りマルシェは、2023年3月の開催を最後に休止となり、6月のリスタートを見据えた準備期間に入りました。

北仙台の会場での最後の開催日には、常連客から多くのメッセージが寄せられた。

「長く続けてきたことが一度終わると聞くと、寂しいイメージもあるかもしれませんが、主催の3人はとても前向きに捉えています。現状のスタイルを変化させていきたいという話は以前からしていたので、開催場所が変更となる今回のタイミングを活かして、新しいことにチャレンジできるわくわく感もありますね。量り売りでの買い物だけでなく、食と暮らしに関わる体験の場を用意するなど、今は色々なアイデアを出し合っているところです。」

量り売りマルシェは、暮らしを豊かに彩るヒントが得られる場として、多くの人たちの日常に寄り添ってきました。仙台を拠点に、どんな新しい取り組みが生まれていくのか、今後の展開が楽しみです。


【参照サイト】量り売りマルシェ
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Life Hugger 編集部

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