都市に住みながら、農業を身近に感じられると人気の貸し農園サービス。そのなかでもマイファームの体験農園は化学肥料を使わず、畑で使う堆肥は半年に一度マイファームが仕入れたモノを配って使用してもらうなど、土づくりにこだわっています。
そんなマイファームの体験農園のなかに、コンポストを取り入れた「循環の農園」をコンセプトにした「マイファーム松戸千駄堀農園」が開園しました。
今回は、そんな循環の農園づくりを進める、マイファームの運営本部の柗村(まつむら)さんと青才さん、そして農園の場所を提供してくださった地権者の安蒜(あんびる)さんの3人にお話を伺いました。
「畑のモノは畑で」のコンセプトではじまった循環の取り組み
元々環境に配慮して体験農園を運営しているマイファーム。環境に良い取り組みをもう一歩先に進めたいと願っていたときに、LFCコンポストを販売・普及し、持続可能な栄養循環を伝えるローカルフードサイクリング株式会社さんと出会い、循環の農園の着想を得たそうです。
柗村さん:購入した堆肥が入っているプラ袋は全てごみになります。また、畑に運ぶにはエネルギーを消費します。「自分たちの畑で堆肥を作って使えないだろうか」と考えていたところ、ローカルフードサイクリングさんと話をする機会によって、お互いの長所を生かし課題の補完することで、循環の農園が実現できるのではという考えに至りました。
ご自宅では使い道のないユーザーの方の堆肥を農園で回収し、追加熟成を行い、畑に還元することで、コンポストをつくる人と野菜をつくる人を畑で繋いでしまえば良いのではないかという「循環の農園」の企画が生まれました。
畑で生ごみコンポストの回収を行うことについて、開園担当の青才さんから、地権者である安蒜さんに相談したそうです。
青才さん:地権者さまに一般の家庭で生ごみを堆肥化させたものを畑に持ち込むことを了解していただくのは難しいと考えていました。しかし、安蒜さんからは「よし、わかった、やってみましょう!」と前向きなお返事をいただけました。今回のような循環の農園が誕生したのは、地権者さまとの思いが合致したことも大事な要素です。
安蒜さん:「循環」「コンポスト」の話を聞いて、モノを無駄にしない、生ごみを資源として循環するところも理にかなっている。そして環境に良いことなら「やってみよう!」と思いました。また、マイファームとして初の試みというところにも惹かれました。環境に配慮した先進的な取り組みを、ここ松戸・千駄堀農園から発信すると思うとわくわくします。「あの畑で何か面白いことがはじまっているらしい」と、地域の人が関心を持ってくれたらうれしいですよね。
地域の誰もが循環の輪に参加できる農園として
マイファームの理念にある「自産自消」という言葉。野菜も草も自然に育つということに気づいて欲しいという思いがあるのかも。それを形にしたのがコンポストだと言います。循環の農園のコンポスト回収はいたってシンプルです。自宅で出た生ごみをコンポスト化し、それを決められた回収日に畑に持ってくるという仕組みです。(※今後は配送で農園に送るという取組を予定)畑を持っていない人も野菜作りの循環の輪に加わっています。
一方で、自宅の生ごみコンポストから実際に畑に使用できる状態かどうかの見極めも必要です。
柗村さん:回収会には、各家庭で丁寧に作られた堆肥が集まりますが、未熟な状態がないように、念の為、追加の熟成を行います。その追加の熟成作業は、ローカルフードサイクリングの公認アドバイザーさんが行い、使用可能かを見極めていただきます。土をダメにしてしまうことがあるので慎重になります。
農園で作付けされた野菜は出荷するわけではないので、収穫する野菜のサイズや数に規格はない。出荷されている規格のような野菜をつくる場ではなく、食物を育てる・食べる・捨てる・そして再び育てる。そうした循環を体験してもらえる場にしていきたいのだそう。
柗村さん:「コンポストに野菜の種が混じってしまうが、どうしたらいいか」と聞かれますが、種は取り除かなくてもいいし、気になるのであれば取り除けばいい。あまり神経質にならずに寛容に取り組むのもコンポストを続けるコツではないでしょうか。
地域の人と人とがつながっていく「循環」の場として
松戸千駄堀農園には「ここがマイファームの農園になってよかったよね」となるような、地域の人が集まるコミュニティの場になってほしいという願いが込められています。自身もLFCコンポスト実践者で、日頃は別農園でのアドバイザーも務める柗村さんは、回収会の様子を見守ります。
柗村さん:「千駄堀」=「マイファームの循環の農園」と言われるような場所になってほしいです。家庭から出る生ごみや畑の残渣(ざんさ)を資源として捉え、畑の中で循環できるようにしたいです。
青才さん:この千駄堀農園を出発点として、農業に関わる人々が幸せになれたらいいなと思います。利用者さん、地権者さん、我々マイファームスタッフ、そして地域の方々、みんながいい思いができる場所として、行政と連携して貸し農園の制度、仕組みを整え、貸し農園をいろいろな地域に広げていきたいです。
安蒜さん:シニア世代が引退し、市場もなくなるなかで、農業を続けるのは難しいのが現状です。このエリアにある総合病院の場所も、ひと昔前はすべて畑でした。でも、できれば昔からある畑を畑として、緑として残したいという思いがあります。また、この自分の住む土地の土で、自分が育てたものを食べたときの感動を多くの人に体感してほしいです。
柗村さん:「ここ(千駄堀)に農園があってよかった」と、地域の方々にも思ってもらいたいです。この農園の「循環」は地域社会を含み、みんなで作り、守っていくものだと感じています。
LFCコンポスト回収会レポート
LFCコンポスト回収会の取材当日は、松戸担当のLFC公認コンポストアドバイザー・小林さんが来園。回収会に参加された方に、持参されたコンポストについて丁寧に話してくださいました。
参加者が家庭で熟成させたコンポストは、その後、農園内に設置された木枠のコンポスターに集められ、追加熟成にて利用可能になります。松戸千駄堀農園の野菜たちは、そのようにして追加熟成されたコンポストで生長していきます。
LFCコンポストを通して農園では生ごみを資源に変えたい、購入する肥料に頼らずに作物を育ててみたいという農園利用者が増えてきているそう。松戸千駄堀農園の利用者の多くは、自宅で出た生ごみを持ち寄ったり、農園で出た残渣、落葉、緑肥を使ってコンポストづくりと野菜づくりをはじめている。
農園という場所で野菜づくりをしない人とする人を繋ぎ、そして、また自分でつくったコンポストで野菜をつくる。松戸千駄堀農園では循環の形として一層コンポストを提案していく。
編集後期
都市で暮らしながら、農業体験をできるところが魅力の貸し農園。筆者の地元の貸し農園は、高齢となり、ご自身で畑の管理が難しくなった地権者の方の「昔からの農園風景を少しでも地域に残したい。地域の農業を未来につなげたい」という思いでできたと聞きました。
松戸千駄堀農園も、そうした地元の地権者さんの思いからはじまり、それが地域の資源循環の取り組みとしてのコンポストへとつながり、新しい地域のつながりを育む「場」として生まれ変わっていく。こうした千駄堀農園の様子に、これからの都市農園の未来を感じました。
「畑のモノは畑で」というコンセプトから生まれた松戸・千駄堀の「循環の農園」のこれからに期待したいです。