農業は天候に影響を受けやすく、収穫や収入が不安定なイメージがつきまといます。関心があっても、そのことが不安要素のひとつになっている場合もあるでしょう。
今海外で広がっている「CSA」という取り組みを知っていますか。消費者が前払いで農家に野菜の購入金額を支払い、その金額で農家が栽培を行うというもの。そうすることで、天候不順や災害などによる不作の際にもリスクを共有することができる取り組みです。
今回は大阪の能勢町で、CSAを通して有機野菜を広めたいと活動する「成田ふぁーむ」の成田周平さんにお話を伺ってきました。
CSAとは
CSAとは「Community Supported Agriculture(地域支援型農業)」の略で、1980年代にアメリカで始まり、欧米を中心に世界的に広がりつつある農業生産システムです。
農家は、消費者から数ヶ月分など一定額を前払いで受け取り、その資金で野菜を栽培。収穫した野菜を消費者のもとへ定期的に届けるという仕組みのことを指します。
農家にとってのメリットは、天候不順により収穫量に変動があっても収入が安定することや少量多品目生産ができること、消費者との交流を通して不作の状況でも理解を得られやすいことが挙げられます。
一方で、消費者は交流のある農家さんから安心で質の高い、採れたての農作物を受け取ることができます。これはコロナ禍以降、食べ物を意識して選ぶ人が増えた近年のニーズとも合っているのではないでしょうか。また農業体験や農業を知るプログラムなどが開催されることもあり、食育の一環にもなります。
デメリットとしては、農家にまだCSAが浸透していないため、参加者が募りにくい点。そして、買いたいものをいつでも買えることに慣れている日本の消費者にとっては、収穫物の種類や数に変動があることはデメリットとなるのかもしれませんね。
CSAは日本ではまだ認知度が低いのが現状です。要因としては認知度の低さから参加者が集まりにくいこと、そして農家の高齢化が挙げられています。
有機野菜でCSAに取り組む大阪能勢の「成田ふぁーむ」
大阪府最北端の能勢町で有機野菜を栽培し、国内のオーガニック認証システム「JAS」の認証も受けている「成田ふぁーむ」では、より多くの人に手間暇かけて育てた有機野菜を食べて欲しいという想いから、CSAを始めたそうです。
21年にスタートしたCSAの「のせすく」プランでは、まず会員を募り、彼らが前払いした代金をもとに野菜を生産し、月2回、野菜セットを能勢町や大阪市内のピックアップステーションに届けます。会員は各自、都合の良い場所、時間帯を選び、そこに野菜を取りに行きます。
成田さんの野菜の受取所となるステーションは、現在大阪に7、8ヶ所。いずれも成田さんの行きつけや信頼する知人からの紹介だそうで、人とのつながりが生きているのがわかります。
能勢で大切に育てられた成田ふぁーむの有機野菜
実は成田さんは、最初から有機栽培に関心があったわけではないと言います。「それよりも私にとっては、右も左もわからない農業の世界に飛び込み、最初の修行先「原田ふぁーむ」の原田さんの有機農業にかける想いや情熱に魅せられ、深く共感したことが大きいですね」。
約1年半の研修を経て、2011年の秋に独立。「能勢という土地はいったん入り込むと人の交流がとても温かく、応援してくれる人が増えたおかげで土地を借り、さらに拡大することができました」。原田さんから学んだ、化学系肥料や農薬は使わず、あぶらかすや動物性堆肥を使用した有機農法で、3年目には有機JAS認証を取得しました。
「いつもふざけた話しかしないのですが、原田さんが一度だけ真面目に言った『生まれ育ったこの土地を残したい』という一言が、ずっと胸に残っています。だから一緒に能勢の農業を盛り上げて行きたいと思っています」と成田さん。
有機農業のノウハウだけではなく、師の意思も一緒に受け継いだ形で、野菜の栽培をされています。
消費者と直接つながる
CSAのシステムを利用した「のせすく」と一般的な野菜の宅配との違いは、農家と直接やり取りができることではないでしょうか。
成田さんは公式LINEを活用して畑の状況を発信。2月頃に種まきの様子を発信し、その野菜が6月に届くなど、会員さんたちは自分の元に届く野菜の成長を知ることができます。都市部で暮らしていると、畑の状態を想うことはそうありませんが、会員さんは遠隔で畑を見守るような感覚になるようで「災害などのときには『大丈夫ですか』と心配してくれる人がいるのです」と、笑顔で言う成田さん。
「会員数は初年度の35名から今年は65名となり、私ひとりに対してはいい規模感です。これくらいだと目が届き、交流することもできますしね」。成田さんがコミュニケーションを大切にしているのがよく伝わります。
会員が増えたことで、知人が自ら宅配業務を申し出てくれたことも。「とてもうれしくはありますが、私は自分が届けることに意味があると思っているのです。ステーションを訪れるたび、野菜の反応を聞いたりしてステーションの方とお話するのも楽しいひとときです」。
さらに大阪市内に出てくる際には、規格外の野菜を子ども食堂に届けるなど、廃棄野菜を作らないための活動もされています。
ステーションのひとつ「発酵玄米かふぇ 公」
「のせすく」のピックアップステーションのひとつが、大阪駅の徒歩圏内にある、スカイビルのお膝元に位置する「発酵玄米かふぇ 公」です。
店名の通り、発酵玄米を扱い自然食を提供する健康志向のカフェですが、実は以前は居酒屋さんだったのだそう。コロナ禍でいくつもの制限の中、今まで店主の方が家で食べていた食事のランチ提供を始めたところ、人気が出たため、夜の営業を止めてコンセプトも今のものとなりました。
今では提供するメニューに成田ふぁーむの有機野菜も使います。もともと成田さんとは家族ぐるみの交友関係もあり、一度食べてみたら想像以上においしかったため、自宅用とお店用に購入を始めたとのこと。
こんな風に、そのおいしさで周りに影響を与えてしまう成田ふぁーむの野菜。豊かな土壌と誠実な成田さんの人柄が伝わる、温かくも力強い味です。
『すくすく』を軸に、CSAを広めていきたい
今後の目標を伺うと、「すくすく」という言葉をあげた成田さん。
「『すくすく』という言葉には、子供や有機野菜がすくすく育ち、能勢をすく=好きになってほしいという想いが込められています。この『すくすく』を軸に、有機野菜の良さを広め、能勢町の農産物ファンをもっと増やしていきたい」とのこと。
コロナ禍が落ち着いたら、実際に能勢町で「収穫体験イベント」などをたくさん行いたいと言う成田さん。「オンライン上でのコミュニケーションも大事ですが、実際に土地を訪れ、体験をしてもらいたい」とのことです。
イベントに参加すれば、私たちの食卓に野菜が届くまで、どれほどの手間がかかっているかに気づけるのではないでしょうか?
日本ではまだまだ知名度も参加者も少ないCSAですが、そのメリットは大きいと考えられます。便利な買い物に慣れ過ぎている私たちにとって、柔軟性や臨機応変なあり方が求めれられる側面は確かにあるかもしれません。
しかし、顔の見える農家とのつながりで得る安心感は、はかりしれないものがあるのではないでしょうか。
【参照サイト】成田ふぁーむ Instagram
【関連ページ】大阪にゼロウェイストショップ「WAKKA」オープン!量り売りでごみが出ない
【関連ページ】野菜をプラスチックフリーで購入しよう!おすすめの産直通販5選
mia
最新記事 by mia (全て見る)
- 京都の秋の風物詩、循環フェス!2024年のユニークな取り組みを紹介 - 2024年12月4日
- 不用品は捨てずにリサイクル!おすすめのフリマアプリや人気のオークションサービス5選 - 2024年11月14日
- 子ども服の宅配買取サービスおすすめ8選!捨てるにはもったいない服を循環させよう - 2024年11月14日