新しい車のカタログや家電メーカーのサイトを眺めていると、「グリーンスチールを採用」という一文が目に留まることがあります。グリーンスチールとは、鉄をつくる過程で出るCO2(二酸化炭素)を減らしてつくられた鉄鋼のことです。
鉄としての役割はふつうの鉄と同じです。違うのは「どうやってつくったか」と「CO2の削減をどう数えたか」です。このページでは、製鉄でCO2が多く出る理由と、電炉・水素製鉄・割り当て方式という減らし方の違い、車や家電、住まいを選ぶときの見方を説明します。
グリーンスチールとは
グリーンスチールは、製造時のCO2排出を大きく減らした鉄鋼を指す言葉です。英語の「green steel」をカタカナにしたもので、「グリーン鋼材」「低炭素鋼材」と呼ばれることもあります。鉄の成分が特別なわけではありません。特徴があるのは、つくり方やCO2削減の数え方です。
GXスチールとの違い
GXスチールは、日本で使われている呼び名です。GXは「グリーントランスフォーメーション」の略で、化石燃料に頼ってきた産業や社会の仕組みを、脱炭素に向けて変えていく取り組みを指します。GXスチールも、CO2を減らしてつくった鉄を表す言葉として使われています。ただ、どのつくり方や数え方までを「グリーン」「GX」に含めるかは、国や業界、企業によって線引きが違います。名前だけで判断するのではなく、どの方法で減らした鉄なのかを見ることが、この言葉を読み解くポイントです。
鉄づくりでCO2が多く出る理由
鉄の原料になる鉄鉱石は、鉄と酸素が結びついた「酸化鉄」です。鉄を取り出すには、酸素を引きはがす「還元」という工程が欠かせません。これまで主流だった高炉では、石炭を蒸し焼きにしたコークスを使い、コークスの炭素に酸素を受け取らせて鉄を取り出します。このとき炭素と酸素が結びついて、CO2が生まれます。
製鉄のCO2は、燃料を燃やした分だけでなく、鉄を取り出す化学反応そのものからも出ています。省エネで燃料を減らすだけでは足りず、つくり方そのものを変える必要があるのはこのためです。鉄は建物や車、家電など社会のあらゆるところで大量に使われる素材なので、鉄鋼の脱炭素は温暖化対策の大きなテーマになっています。
グリーンスチールのつくり方と、削減の数え方
CO2の減らし方は、大きく「つくり方そのものを変える方法」と「削減量を計算で割り当てる方法」の2つに分かれます。
電炉でスクラップを溶かす
電炉(電気炉)は、使い終わった鉄のスクラップを電気の熱で溶かし、もう一度鉄にする設備です。鉄鉱石から酸素を取り除く工程がいらないため、高炉に比べてCO2の排出を抑えられます。ただし、使う電気が火力発電中心であれば、その分のCO2は発電所で出ています。電炉の鉄がどこまで「グリーン」かは、電気を再生可能エネルギーでまかなっているかどうかにも左右されます。
鉄は磁石で集めやすく、溶かせば何度でも鉄に戻せるので、リサイクルに向いた素材です。家電や車、解体された建物から出た鉄がスクラップとして回収され、新しい鉄に生まれ変わります。電炉は、この循環の流れを活かした方法です。
水素で鉄鉱石を還元する
コークスの炭素の代わりに、水素を使って鉄鉱石から酸素を取り除く方法です。水素が酸素と結びつくと、出てくるのはCO2ではなく水です。鉄鉱石から新しく鉄をつくりながら、CO2を大きく減らせる方法として開発が進められています。水素を再生可能エネルギー由来の電気でつくれるかどうかで、削減の大きさは変わります。
削減量を割り当てる「マスバランス方式」
製鉄所全体で、省エネや原料の工夫によって減らしたCO2を集計し、その削減量を特定の製品に割り当てる考え方です。たとえば工場全体で減らした分を一部の鋼材にまとめて振り分けると、その鋼材は「CO2を大きく減らした鉄」として扱えます。鉄そのもののつくり方が変わるわけではありません。帳簿の上で削減量を配分する方法です。
この考え方は、電気の「実質再エネ」とよく似ています。家庭に届く電気は、発電方法を問わず同じ送電網を流れてきます。そこに非化石証書などで「再エネの環境価値」を組み合わせた電気が、実質再エネと呼ばれます。電気そのものが再エネで発電されたわけではなく、環境価値を計算の上で割り当てているという点で、マスバランス方式と共通しています。
大きな設備はすぐにはつくり方を切り替えられません。マスバランス方式には、それまでの削減の取り組みを製品の価値として届けられるという役割があります。一方で、物そのものは変わらないため、これを「グリーン」と呼んでよいかには国や立場によってさまざまな見方があります。表示の言葉と中身がずれると、実際以上に環境にやさしく見せるグリーンウォッシュにつながりかねません。どの方法で減らしたのかをはっきり示すことが大切です。
3つの方法を、電気の実質再エネと並べると次のようになります(一般的な特徴の整理です)。
| 方法 | 何が変わるか | 見ておきたい点 |
|---|---|---|
| 電炉でスクラップを溶かす | 原料(鉄鉱石→使い終わった鉄)とつくり方 | 使う電気が再エネかどうか |
| 水素で還元する | 還元に使うもの(炭素→水素) | 水素を何でつくっているか |
| マスバランス方式 | 削減量の数え方・割り当て方 | 製品そのもののつくり方は変わらない |
| (参考)電気の実質再エネ | 環境価値の割り当て | 電源そのものが再エネとは限らない |
暮らしの中のグリーンスチール
鉄鋼を直接買う家庭はほとんどありません。それでも、車や家電、住まいを通して、私たちは毎日たくさんの鉄を使っています。選ぶときや手放すときに、次のような見方ができます。
車や家電の説明で「どの方法か」を見る
メーカーのサイトや製品の説明に「グリーンスチール」「GXスチール」とあったら、電炉の鉄なのか、水素などで新しくつくった鉄なのか、マスバランス方式で削減量を割り当てた鉄なのかに目を向けてみてください。どれも削減の取り組みですが、中身は違います。つくり方や数え方まで説明しているかどうかも、メーカーを比べるときの手がかりになります。
長く使い、手放すときは循環に戻す
製品をつくるときに出たCO2は、長く使うほど1年あたりの負担が小さくなります。手入れや修理をしながら使い続け、手放すときは自治体や販売店の回収ルートに出しましょう。そうすれば鉄はスクラップになり、電炉で新しい鉄に生まれ変わります。モノを長く使い、資源として戻す考え方は、ゼロウェイストのガイドでも紹介しています。
住まいの鉄にも目を向ける
住宅の鉄骨、ベランダの手すり、スチール製の棚や家具など、住まいにも鉄はたくさん使われています。家を建てるときやリフォームのときに、住宅会社が建材の環境への配慮をどう説明しているかも、パートナーを選ぶ材料のひとつになります。
