自然資本とは、森林・水・土壌・大気・生きものといった自然を、経済でいう「資本(元手)」になぞらえてとらえる考え方です。元手から利子が生まれるように、自然からは食べもの、きれいな水、安定した気候などの恵みが毎年生まれます。
元手を取り崩しすぎれば利子が減るのと同じで、自然も使いすぎれば恵みが細っていきます。この「使えば減り、手入れをすれば保てる」という見方が、自然資本という言葉の核にあります。
自然資本とは
自然資本(Natural Capital)は、森や川、海、土、そこに暮らす生きものなど、自然そのものを「ストック(蓄え)」として見る言葉です。工場や機械を「物的資本」、人の知識や技能を「人的資本」と呼ぶのと同じように、自然も社会や経済を支える資本のひとつとして数えます。
この蓄えから毎年生まれる恵みは「生態系サービス」と呼ばれます。自然資本が元本、生態系サービスが利子、と考えると両者の関係がつかみやすくなります。
「資本」と呼ぶ理由
自然を資本と呼ぶのは、お金の元手と似た性質を持つからです。
- 使えば減る:木を切りすぎた森や、魚を獲りすぎた海は、次の年に得られる恵みが小さくなります。
- 手入れをすれば保てる・増やせる:間伐された森や、有機物を補った畑の土は、長く恵みを生み続けます。
- 減りすぎると取り戻しにくい:一度失われた生きものや、流れ出た表土は、元に戻るまでに長い時間がかかります。
自然の恵みの多くには値段が付いていないため、これまでは減っていても帳簿には表れませんでした。自然を「資本」と呼ぶことで、どれだけ使い、どれだけ残っているかを意識しやすくなります。
生物多様性との違い
生物多様性は、生きものの種類の多さ、同じ種の中の遺伝的な違い、森・湿地・干潟といった生態系の多様さを表す言葉です。自然資本は自然全体を蓄えとしてとらえる見方で、生物多様性はその一部であり、同時に自然資本の質を支える土台でもあります。多様な生きものがいる森や土ほど、環境の変化に強く、恵みを生み続ける力が保たれます。
ネイチャーポジティブとの違い
ネイチャーポジティブは、自然が失われていく流れを止め、回復へ向かわせることを目指す目標・考え方です。自然資本が「何を守り、育てるのか」という対象を示す言葉だとすれば、ネイチャーポジティブは「どちらの方向へ進むのか」というゴールを示す言葉です。自然資本を減らさず、むしろ増やしていく状態が、ネイチャーポジティブの姿だといえます。
グリーンインフラとの関係
グリーンインフラは、樹木や水辺、土が持つ働きを、防災や暑さ対策などの社会の基盤として活かす取り組みです。自然資本という蓄えを、まちづくりの中で使いこなす方法のひとつと位置づけられます。
自然資本から生まれる恵み
自然資本が生み出す恵み(生態系サービス)は、大きく4つに分けて説明されます。
- 供給の恵み:米や野菜、魚、木材、飲み水、薬の原料など、暮らしに直接届くもの。
- 調整の恵み:森が雨水を蓄えて洪水をやわらげる、植物が二酸化炭素を吸収する、虫が作物の受粉を助けるといった、環境を整える働き。
- 文化的な恵み:森林浴や海辺の散歩、季節の風景、地域の祭りや食文化など、心や文化を豊かにするもの。
- 基盤となる恵み:土をつくる、栄養や水を循環させるなど、ほかの3つを下支えする働き。
たとえば一杯のご飯の背景には、田んぼの土、山から流れる水、受粉や害虫を抑える生きものの働きが重なっています。暮らしのほとんどは、何らかの形で自然資本の恵みに支えられています。
自然資本が注目される理由
企業の事業は、原材料となる農産物や木材、製造に使う水など、多くを自然に頼っています。自然資本が減れば、原材料が手に入りにくくなったり、品質が不安定になったりして、事業そのものが続けにくくなります。そのため企業の環境の取り組みでは、自社が自然にどれだけ頼り、どれだけ影響を与えているかを把握し、減らした分を補う活動が「自然資本」の言葉とともに語られるようになっています。
具体的には、原材料の産地や水源の森を守る活動、事業所やオフィスビルの敷地の緑を、生きものが住める場所として育てる取り組みなどがあります。
都市の緑も自然資本
自然資本は、遠い山や海だけにあるものではありません。都市の公園、街路樹、ビルの緑地、学校の校庭の木々も、身近な自然資本です。木陰や植物の蒸散は夏の暑さをやわらげ、土の地面は雨水をしみこませ、まとまった緑は鳥や昆虫が行き来する足がかりになります。都市の緑を「眺めるもの」から「恵みを生む蓄え」として見ると、まちの木一本の意味も変わって見えてきます。
暮らしの中の自然資本
自然資本は大きな話に聞こえますが、日々の選択の中にも、蓄えを減らさない・育てる側に回る方法があります。
生ごみを堆肥にして、土に返す
土は、時間をかけて少しずつつくられる自然資本です。家庭の生ごみをコンポストで堆肥にすれば、燃やすごみが減り、栄養を土に戻す小さな循環をつくれます。ベランダのプランターや家庭菜園で使えば、その土からまた野菜やハーブが育ちます。始め方や容器の選び方はコンポストのコラムで紹介しています。
使い切る・長く使うで、取り崩しを減らす
食べものや服、日用品は、どれも自然資本から取り出した資源でできています。食材を使い切る、詰め替えや量り売りを選ぶ、壊れたものを直して使うといった習慣は、自然から取り出す量そのものを小さくします。ごみを減らす暮らしの工夫はゼロウェイストのガイドにまとめています。
地域の緑に関わる
近所の公園の清掃や植樹の活動、地域の森の手入れのボランティアに参加すると、身近な自然資本を手入れする側に加われます。ベランダや庭に、その地域にもともと生えている植物や、虫や鳥が立ち寄る花を植えるのも、小さな生きものの居場所を増やす方法です。まずは家の近くの公園や緑地の活動の案内を一度のぞいて、参加しやすそうなものから選んでみてください。
