一着の服になる前に、布は捨てられている。それを「我慢」ではなく型紙で解く日本の会社

服を買うとき、「長く着られるかな」と考えることはあっても、「この服になる前に、どれだけ布が捨てられたか」まで想像することは、あまりないかもしれません。

けれど実際には、一着の服がかたちになるより前に、布の一部は切れ端として床に落ちています。その割合は15〜30%。Synflux(シンフラックス)という日本のソフトウェア企業が、自社の実証をもとにそう説明しています。5着分の布を用意して、1着分が服にならずに終わる計算です。

意外だったのは、その理由でした。誰かが手を抜いているからではないのです。

【四角い布に、曲がった線を置くから】

布は四角く織られています。いっぽう、人の体は曲面です。肩は丸く、腰はくびれ、袖は筒になる。だから服の設計図である型紙は、どうしても曲線になります。

四角い布の上に、曲線のパーツを並べていく。すると、パーツとパーツのあいだにどうしても隙間が生まれます。その隙間が、そのまま端切れになります。パタンナーがどれだけ巧みに配置しても、隙間をゼロにすることはできません。腕の良し悪しの話ではなく、四角と曲線という形どうしの問題だからです。

そしてこのやり方は、200年近くほとんど変わっていません。産業として洗練されてきた一方で、前提そのものは問い直されてこなかった、ということでもあります。

【型紙のほうを、布に合わせる】

Synfluxがつくっている「Algorithmic Couture(アルゴリズミック・クチュール)」は、この前提をひっくり返します。人の体の3Dデータから服の形をつくったあと、機械学習と3Dシミュレーションを使って、布の形に収まるように型紙のほうを設計し直すのです。曲線を四角い布に押し込むのではなく、テトリスのピースのように、隙間なく敷き詰められる形へ。

しかも、生成されるのはそのまま工場で使えるデータです。設計の見た目や着心地を損なわないまま、自動で変換されます。

アパレル業界の脱炭素を支援する非営利団体Apparel Impact Institute(Aii)が2026年9月に公開した年次レポートでも、この技術は世界の注目事例として取り上げられました。ザ・ノース・フェイスやイッセイ ミヤケ、doubletといったブランドとの実証で、生地の使用量を最大15%減らせると報告されています。同社は2026年、Global Fashion AgendaのTrailblazer Programmeにも選ばれました。

この技術のいちばん面白いところは、誰も我慢していないという点です。デザイナーがデザインを諦めたわけではない。工場が余計な手間を負ったわけでもない。作り手の意識が高まったから減ったのでもない。設計の順番を入れ替えただけで、捨てられる布が減る。がんばりに頼らない解決策は、こういう形をしているのです。

【それでも、業界全体では増えている】

ただ、同じAiiのレポートは、もう一つの事実も伝えています。世界のアパレル業界の温室効果ガス排出量は、2年続けて増え、過去最高になりました。

主な原因は、使われる繊維そのものが増えていること。とくに石油からつくられるポリエステルで、いまや世界の繊維生産の59%を占めています。

Synfluxのような技術は、「一着あたり」の無駄を減らします。けれど業界全体の数字を決めるのは、「何着つくるか」のほうです。この二つは、別々に動いています。だから、技術が進んでいるのに総量は増える、という一見ちぐはぐなことが同時に起こります。

これは技術に失望する話ではありません。むしろ逆で、作り手側の設計が変わりはじめたのと同じように、使う側にも設計の余地が残っている、という話です。

【私たちの側にも、設計できることがある】

意識を高く保ち続けるのは、正直しんどいものです。がんばりに支えられた選択は、どうしても長続きしません。だからここでも、変えたいのは意識ではなく設計のほうです。

たとえば、買う前にタグの素材表示を見る。これだけなら意識ではなく習慣です。ポリエステルが悪いわけではなく、再生ポリエステルという選択肢もありますが、「何でできているか知ってから買う」だけで、選び方は静かに変わっていきます。

カートに入れてから一晩おく、というのもいい仕組みです。自分の意志の強さに頼らず、時間に判断を手伝ってもらう方法だからです。

そして、着なくなった服は捨てずに古着買取やリユースへ。Aiiのレポートも、レンタルやリセール、修理といった循環型の仕組みについて、新品の生産を実際に置き換えられるなら、生産量を減らすうえでおそらく最も重要な手立てになると位置づけています。

服が一着できるまでに、私たちの見えないところで、たくさんの選択が積み重なっています。その一部を、誰かがすでに設計し直しはじめている。それを知ったうえで自分のクローゼットを開けてみると、少しだけ景色が違って見えるかもしれません。


【参照記事】

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Life Hugger 編集部

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