洗って、乾かして、資源ごみの日に出す。プラスチックの容器を前にして、ふと「これ、本当に意味があるのかな」と思ったことはないでしょうか。分別のルールは自治体ごとに違うし、細かいし、正解がわからないまま何年も続けている。そんな方は少なくないはずです。
ギリシャ・エーゲ海に浮かぶ小さな島、ティロスが出した答えは、少し意外なものでした。住民にもっと頑張ってもらうのではなく、島から公共のごみ箱を全部なくしてしまったのです。
まちから、ごみ箱が消えた
ティロス島はかつて、丘の斜面にごみを埋め立てていました。処分場は年々大きくなり、風でプラスチックが下のビーチに散らばっていったといいます。小さな島にはよくある話です。住民も観光客もごみを出しますが、島の外へ運んでリサイクルするのは経済的に割に合いません。だから多くの島は、限られた土地の一角を差し出して、問題を埋めてしまいます。
ティロスが選んだのは、そこではありませんでした。ギリシャのサーキュラーエコノミー企業Polygreenと組み、南エーゲ地方の支援を受けて、島は街頭のごみ箱を全面的に撤去し、戸別回収に置き換えました。各世帯と事業者には、資源ごみと生ごみを分けるための袋が配られます。袋にはQRコードが付いています。
ここが、この事例のいちばん重要なところだと思います。分別を「呼びかけた」のではありません。分別せずに捨てられる場所そのものを、島から消したのです。
家庭がやることは、むしろ減っている
ごみ箱を撤去すると聞くと、住民の負担が増えたように感じるかもしれません。ですが実際は、逆に近いことが起きています。家庭で分けるのは、資源ごみ・生ごみ・その他の3種類だけ。曜日ごとに、回収する側が家の前まで来てくれます。
複雑な仕分けは、その先で行われます。集められたごみは、旧埋立処分場の跡地に建てられた「サーキュラー・イノベーション・センター」に運ばれ、そこで15の分類に仕分けられ、圧縮されて本土へ資源として出荷されます。生ごみは堆肥になり、島の農家に無償で渡されます。リサイクルできないものは代替燃料になります。
プロジェクトマネージャーによれば、年間の廃棄物は約330トン。うち60%が資源、30%が生ごみ、残る10%がセメント工場の燃料に回るそうです。埋め立てられるものは、ありません。
つまりティロスは、住民に高度な分別を要求する代わりに、「3つに分ける」という誰にでもできる作業だけを残し、面倒な部分を仕組みの側が引き受けたことになります。意識の高さで解こうとしなかったことが、結果を出した理由に見えます。
数字で見ると、何が変わったのか
| 指標 | プロジェクト前 | 認証取得時(2023年) |
|---|---|---|
| 埋立処分に回る割合 | 約87% | 0%(処分場は閉鎖) |
| 住民1人あたりの年間ごみ量 | 770kg | 440kg(約43%減) |
| うち最終的に残る残渣 | — | 54kg |
| リサイクル・堆肥化率 | — | 約90% |
この実績に対して、Zero Waste Europeとミッション・ゼロ・アカデミーが運営する欧州の第三者認証「Zero Waste Cities」は、5段階中4つ星を与えました。ギリシャで初、島としては世界初の認証取得です。自己申告の「頑張っています」ではなく、外部の監査を経た評価であることに意味があります。
なお島の人口は、資料によって約350人から約745人まで幅があります。認証機関は「約500人」としています。いずれにせよ、多くの自治体が目標として掲げる数字を、数百人規模のコミュニティが実績として示したことになります。
続いた理由は、たぶん「善意」ではない
こうした事例を読むとき、私たちはつい「住民の意識が高かったのだろう」と考えてしまいがちです。ですがティロスの説明は、もっと現実的でした。
市長は、まず学校に行って子どもたちを説得したと語っています。子どもが親に伝え、そこから広がっていった。大人に正論を届けるより、この経路のほうが速いと判断したわけです。
もうひとつは、お金の話です。報道によれば、立ち上げにかかった費用は25万ユーロ未満。運営費も、通常の自治体の廃棄物処理費と、ギリシャが導入した埋立税(1トンあたり20ユーロ)を合わせた額を超えないとされています。埋め立てにコストがかかるようになれば、埋め立てない仕組みのほうが経済的に成立する。善意ではなく、条件設計の問題なのです。
「小さいからできた」は、どこまで本当か
とはいえ、この話を無条件に持ち上げるのはフェアではありません。人口数百人の島と、数十万・数百万世帯を抱える都市とでは、前提が違いすぎます。
ウィーンの社会生態学研究所で島嶼部の持続可能な移行を研究するDominik Noll氏は、技術的な解決策は規模を拡大できても、社会経済的・社会文化的な文脈は地域ごとに常に異なると指摘しています。小さな自治体では住民と個人的なレベルで関わることができますが、大都市で自治体の要職と何百万もの世帯を巻き込むのは、まったく別の難しさがあるということです。
実際、拡大はこれからが本番です。2024年にミツォタキス首相が島を訪れ、その後ティロスモデルをギリシャ国内の15の島へ広げることが認められました。海外ではアブダビで、15万人規模の地区への展開が計画されています。こちらは住民をトレーナーとして育成し、その住民がさらに他の世帯に教えていく方式が想定されています。「量」を試される段階に、ようやく入りつつあるところです。
日本に住む私たちに引き寄せるなら
日本には、もともと世界的に見ても細かい分別文化があります。ですからティロスの事例は、「もっと分別しよう」というメッセージとしては、あまり刺さらないかもしれません。
むしろ受け取るべきは、別のことだと思います。分別が続かないとき、原因は個人のやる気ではなく、たいてい仕組みの側にあります。ルールが複雑すぎる。集積所が遠い、あるいは出せる時間が限られている。生ごみを分けたくても、受け皿がない。ティロスがやったのは、その動線を全部つくり直すことでした。
できることは、たとえばこのあたりでしょうか。自分の住む自治体の分別ルールをあらためて確認してみる(数年ごとに変わっていることがあります)。生ごみだけでも家庭用コンポストに回してみる。集合住宅なら、管理組合で回収動線の話をしてみる。そして、分別が徹底されない理由が「ルールの複雑さ」や「回収の不便さ」にあると感じるなら、それは自治体への提案の余地でもあります。
ティロス島に、新しい技術があったわけではありません。あったのは、続けられる設計だけです。ごみ箱をなくすという、一見すると逆行しているように見える判断が、埋立ゼロという結果につながりました。私たちの暮らしのなかにも、「頑張り方」ではなく「仕組み」を変えたほうが早い場所が、まだいくつも残っている気がします。
【参照記事】
Euronews「No more landfill: how Tilos became the world’s first zero-waste island」(2026年9月4日)
Mission Zero Academy「Tilos becomes the first Zero Waste City certified in Greece and the first island of the certification」(2023年7月6日)
European Circular Economy Stakeholder Platform「Just Go Zero: how the Greek island of Tilos became a certified ‘Zero Waste’ City」
Reasons to be Cheerful / Thomson Reuters Foundation「Greece’s Islands Are Zero-Waste Laboratories」(2022年8月)
University of Minnesota Carlson School「Zero-waste project in Greece shows promise, says UMN, INSEAD researchers」(2024年7月)
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