私たちが口にする食べ物のうち、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品ロス。この問題は、地球環境や食料問題に大きな影響を与えています。
そんな中、近年注目されているのが「てまえどり」という行動です。スーパーなどで買い物をするとき、賞味期限が近い商品を積極的に選ぶことで、食品ロスが減らせます。このてまえどりが、なぜ注目されているのでしょうか。その背景や、私たちにできることについて、詳しく見ていきましょう。
てまえどりとは
てまえどりとは、スーパーなどで買い物をするとき、すぐに食べるものなら、賞味期限が近い商品棚の手前に並んでいるものを選ぶ行動のことです。
食品ロスを減らすために、近年注目されている言葉で、2022年には「現代用語の基礎知識選ユーキャン新語・流行語大賞」トップ10にも選ばれました。
てまえどりをすることで、まだ食べられる食品が捨てられるのを防ぎ、食料の無駄を減らすことにつながります。てまえどりは、地球環境にも優しい、簡単な取り組みと言えるでしょう。
てまえどりが必要な背景や社会的意義
まずは、てまえどりが必要とされている背景や、てまえどりの行動自体にどのような意味があるのかについて確認していきましょう。
食品ロス問題
てまえどりが注目される背景には、食品ロス問題があります。
食品ロスが発生する原因はさまざまですが、その多くは消費者の購買行動に起因しています。例えば、一度に大量の食品を購入してしまい、余らせてしまうことや、賞味期限を気にせず食品を保存することなどが挙げられます。
日本政府は、2030年までに、2000年度比で、事業系食品ロス(547万トン→273万トン)と家庭系食品ロス(433万トン→216万トン)の両方を半減させる目標を掲げ、国を挙げて対策を進めています。
農林水産省によって2024年6月に発表された2022年度の食品ロス推計値は、472万トンでした。そのうち、事業系食品ロス量と家庭系食品ロス量はそれぞれともに236万トン。事業系食品ロス量の半減目標は達成しています。
一方で家庭系食品ロスの目標達成はできていません。私たち一人ひとりの日々の生活での小さな行動から食品ロスに取り組む必要性があることがわかります。
環境への影響
てまえどりが注目されるもう一つの理由は、食品ロスが環境に与える大きな影響です。
食品を生産するためには、大量の水やエネルギーが必要になります。しかし、捨てられる食品は、生産過程で費やされたこれらの資源を無駄にしてしまうだけでなく、ごみとして処理される際にさらに環境負荷を増大させます。食品ロスを含む一般廃棄物の処理には、年間約2兆円もの費用がかかっている状況です。
また、食品の多くは海外から輸入されており、輸送過程で大量の二酸化炭素が排出されます。さらに、ごみを燃やす際に発生する二酸化炭素や、焼却後の灰を埋めるための土地の確保も大きな課題となっています。
店舗の商品管理における「3分の1ルール」
日本の食品業界に根付く「3分の1ルール」の存在も、てまえどりが注目される背景にはあります。
3分の1ルールとは、食品の賞味期限を3等分し、製造から小売店への納品、小売店の販売、消費者の消費というように、それぞれの段階で均等に期間を分けるという商慣習です。このルールは、新鮮な食品を消費者に届けることを目的としていましたが、一方で、賞味期限まで十分な期間が残っている商品が廃棄されるという食品ロスの一因になっています。
3分の1ルールが食品ロスにつながる理由は、納品期限が厳しく設定されているため、賞味期限まで十分な期間が残っている商品でも、小売店が仕入れを控えがちになるためです。結果として、食べられるはずの食品が廃棄され、食料の無駄が生じてしまいます。
現在は、3分の1ルールの見直しへの取り組みがなされていますが、状況が大きく変わるのはまだ先の話かもしれません。私たち個人として、てまえどりなどの小さな行動を通じて少しずつ食品ロス削減に取り組む姿勢が重要です。
【関連ページ】食品の「3分の1ルール」とは? 食品ロスを防ぐために私たちができること
てまえどりをしない理由
てまえどりに多くの人が取り組む一方、てまえどりに対する消極的な意見も挙がっています。てまえどりをしない人の理由を見ていきましょう。
賞味期限への過剰な不安
買い物時に賞味期限を気にして、てまえどりを控えるという声が寄せられています。
千葉県が2022年度に実施した食品ロス削減の調査では、てまえどりの実施に関する質問に対し、「あまり実施していない」「実施していない」と回答した人が全体の約22%ほどいました。
てまえどりを実施しない理由については、「少しでも消費期限や賞味期限が長い商品が欲しいから」の回答が75.0%と最も多い結果となりました。
また、京都府で2022年実施されたてまえどりの調査では、9割以上が購入時に消費期限・賞味期限を確認すると回答。期限の確認後は、「期限までの期間が長い商品を買う」と回答した人が過半数を占めています。
【参照ページ】食品ロス削減の推進について(令和4年度第3回インターネットアンケート調査の結果について)
【参照ページ】令和3年度 地方公共団体及び事業者等による食品ロス削減・食品リサイクル推進モデル事業
「新鮮な商品」を選びたいという心理
品出し時には新しい商品を奥に配置することから、手前にある商品は新鮮ではないという印象を持つ人が一定数いらっしゃいます。
前述した千葉県の調査で、「てまえどり」を実施していない理由の二番目に多く挙がったのが、『鮮度や味が落ちると感じるから』(31.7%)でした。
店舗側のアプローチ不足
消費者庁によって行われた2021年度消費者の意識に関する調査では、てまえどりの認知度が調査され、49.4%、約半数が「知らなかった」と回答。次いで27.5%が「取り組みは知っていたが、店舗で掲示物を見たことはない」と回答しています。
てまえどりの取り組みが2021年からスタートしたことを考慮すると、仕方のない結果だと言えますが、店舗側が消費者へてまえどりを呼びかける工夫が重要となります。
商品陳列棚に掲示する帯POP、アテンションPOP、ポスターなどが消費者庁、農林水産省などのサイトから簡単にダウンロードし、使えるようになっているため、活用するのがおすすめです。
【関連ページ】令和3年度消費者の意識に関する調査
買い物の習慣や慣れ
多くの人がこれまで、買い物時には当然のように奥から商品を取っているかもしれません。そうした人は、てまえどりの存在を知っていたとしても、購入時に意識できず、単に慣れで、てまえどりをしていない可能性もあります。
もちろん、てまえどりをして期限が短いものを購入しても、結局自宅で無駄にしてしまっては意味がありません。「すぐ食べる」と分かっている食材に関しては、積極的にてまえどりの実践を意識するとよいでしょう。
てまえどり以外にできる食品ロス削減
てまえどり以外にも、日々の生活の中でできる、食品ロス削減への取り組みはたくさんあります。最後に、生活に簡単に取り入れられる食品ロス削減行動について確認していきましょう。
買い物まえに確認
食品ロス削減の取り組みとして効果的なものの一つは、買い物前に冷蔵庫やパントリーの中身を確認することです。
すでに家に食材があるにもかかわらず、同じものを買い足してしまうことはよくあることです。買い物前にしっかりと在庫を確認することで、無駄な買い物を防ぎ、食品ロスを減らせます。
さらに、買い物リストを作成することも効果的です。必要なものだけをリストに書き出すことで、衝動買いを防ぎ、計画的な買い物ができます。リストを作成することで、旬の食材や栄養バランスの良い食材を意識して選ぶことも可能です。
食材の適切な保存
野菜は種類によって、冷蔵庫の野菜室や常温、さらには新聞紙に包むなど、最適な保存方法が異なります。例えば、葉物野菜は湿気を避けるため、新聞紙に包んで冷蔵庫の野菜室で保存すると長持ちします。
調味料も、開封後の保存方法が大切です。湿気や酸化を防ぐために、密閉容器に移し替えるなど、適切な保存方法を選ぶことで、風味を長く保てます。
食品の保存方法を工夫するだけで、無駄な廃棄を減らすことが可能です。少し手間はかかりますが、ごみ減量につながるだけでなく、経済的にもメリットがあります。
食材を使い切る工夫
冷蔵庫にある食材を最後まで使い切ることも、食品ロスを減らす上でとても重要です。
新しい食材を買ってきたら、つい新しいものから使いたくなってしまうかもしれません。しかし、そうすることで、冷蔵庫の奥で忘れられていた食材が傷んでしまう可能性があります。冷蔵庫にある食材を、先に使い切るように心がけましょう。
また、料理を作って余ってしまった食材は、リメイクレシピを活用して、別の料理に生まれ変わらせるのもおすすめです。例えば、余ったご飯はチャーハンに、野菜はスープに、といったように、工夫次第でさまざまな料理が作れます。
賞味期限・消費期限の理解
食品には、消費期限と賞味期限の2種類の表示があります。
消費期限は食べても安全な期限を、賞味期限は、美味しく食べられる期限を表示しています。
どちらも未開封で、表示されている保存方法を守った場合の期限ですが、賞味期限の場合は、過ぎてしまったとしてもすぐに廃棄する必要はありません。食材の色、匂い、味などの状態を確認し、異常がなければ、まだ食べられます。
【関連ページ】「消費期限」と「賞味期限」とは?違いを理解して食品ロスを減らそう!
訳あり品、見切り品、規格外品などの購入
前述した3分の1ルールなどがあり、店舗では、まだ食べられるのに捨てられる食材があります。消費者としては、期限が近くなった見切り品コーナーでの購入も積極的に行えると良いでしょう。
また、見た目が悪く市場での取り扱いが難しいと判断されるものの、品質には問題がない野菜や果物、未利用魚などが存在します。一部の店舗やショッピングサイトでは、「訳あり品」「規格外品」の販売が行われています。
お得な値段で購入でき、食品ロス削減にも貢献できるため、食材の見た目を気にしない方は、ぜひ購入してみてください。
【関連ページ】食品ロス削減に貢献できる!購入できる商品別に、訳あり品サイト15個を比較してみた
3010運動の実施
「3010運動」とは、飲み会が始まって最初の30分間と、終わる前の10分間は、自分の席で料理を楽しもうという呼びかけを行う取り組みのことです。
大人数での食事の際は、食品の廃棄量も増えてしまいがちですが、この時間帯に、料理を取り分けて自分の皿に盛り付け、残さずに食べるようにすることで、食べ残しを大幅に減らせます。
フードドライブへの参加
フードドライブとは、家庭で余っている食品を、食品を必要としている人たちに寄付する活動のことです。例えば、賞味期限が近い食品や、買いすぎて余ってしまった食材などを、集積所やイベント会場に持ち寄ります。集められた食品は、フードバンクなどの団体を通じて、生活困窮者や子ども食堂などに届けられます。
フードドライブへの参加は、食べ物を無駄にしないだけでなく、地域や困っている人にも役立てるためおすすめです。
【関連ページ】食品ロス回収を実施している企業や店舗まとめ!フードドライブとフードバンクの違いも
まとめ
今回はてまえどりについて解説しました。てまえどりは、食品ロスを減らすための第一歩として、誰でも簡単に取り組める方法です。ただし、てまえどりは食品ロス削減の手段の一つにすぎません。
食品ロスを減らすためには、買い物前の計画、適切な保存方法、賞味期限や消費期限の理解、フードドライブへの参加など、さまざまな工夫が可能です。今回の記事を参考に、てまえどりや他の取り組みを日々の生活に取り入れ、食品ロス削減に貢献してみませんか。
【参照ページ】令和4年度の事業系食品ロス量が削減目標を達成!(農林水産省)
【参照ページ】令和6年度版食品ロス削減ガイドブック(消費者庁)
【参照ページ】今日からできる!家庭でできる食品ロス削減(政府広報オンライン)
飯田千聖
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