「値段がつかない古本」はどこへいくのか。バリューブックスが描く、循環の物語

Lifehuggerを運営するハーチ株式会社が横浜市内のサーキュラーエコノミーを加速させるための情報提供プラットフォームが「​Circular Yokohama(サーキュラー ヨコハマ)」です。

その​Circular Yokohamaでは2023年7月より、横浜市保土ヶ谷区の活動拠点「qlaytion gallery」を中心に、地域のシェア本棚「めぐる星天文庫」の普及を進めています。

めぐる星天文庫は、誰かが読まなくなった本を次の誰かへバトンタッチするための循環型の本棚です。本がまちの中を旅をしながら循環することで、地域の人々がもつ知識や物語がぐるぐるとシェアされていくことを目指しています。

2023年12月某日、地域における同取り組みを加速させるとともに、社会全体における本の循環の現状を学ぶため、長野県上田市に拠点を置くバリューブックス株式会社(以下、バリューブックス)をCircular Yokohamaのメンバーが訪問しました。

ペーパーレスやデジタル化が叫ばれて久しい今日この頃ですが、我々が暮らす社会では今、どのくらいの本が循環しているのでしょうか。バリューブックス 取締役副社長・中村和義さんにお話を伺いながら、施設を案内していただきました。

「本で社会を変える会社」バリューブックスの取り組みを通じて、古本市場の現在地を探ります。

1日に届く本は3万冊。そのうちリユース市場に流通する本の割合は…

2007年創業のバリューブックスは、古本の買取と販売事業をメインとする会社です。倉庫には常時およそ150万冊の本が蔵置されており、その数は、インターネット書店としては国内最大規模です。

バリューブックス 倉庫の様子

捨てられていたかもしれない本や読まれずに本棚に眠っていた本を、次の読み手に届けるのが古本の買取と販売事業。まさに、資源の循環に寄与する活動です。

中村さん「バリューブックスのもとには、毎日全国から3万冊近い古本が届きます。そのうち半分の約1万5千冊が、古本としてリユース市場に流通しています」


日本全国からバリューブックスの倉庫に届く古本が入った段ボール箱

バリューブックスの市場の大部分はオンラインプラットフォームです。自社のウェブサイトを通じた直接販売のほか、Amazonや楽天といったECサイトへも出品しています。


販売中の古本の棚。オンライン上のシステムと手書きの付箋で管理されています

全国から集められた3万冊のうち、リユース市場で再販売されるのは約半分。そこで気になるのが、残りの本のゆくえです。

中村さん「残りの本は、販路にのせることが難しいのです」

「販売できない古本」と聞くと、最も容易に想像できる理由は、書き込みや日焼け、破れによる状態の劣化。実際はどうなのでしょうか。

中村さん「再販売が難しい理由の多くは、実は本の状態ではなく、需要と供給のバランス、すなわち市場価値の変動による採算性の確保にあります」

バリューブックス 取締役副社長・中村和義さん

中村さん「例えば、ベストセラー小説。新刊本の流通量が多い場合、発売から一定期間が経過した時に古本市場に流れてくる量も多くなります。我々の倉庫の収納力にも限りがありますので、需要に対し供給量が過多になると、価格をつけて売りに出すことが難しいのです」

2022年の文庫本の平均販売価格は、711円。古本市場ではそれよりも低い価格で流通することになりますが、オンライン販売では販売後の送料も必要です。消費者にとっては安く手に入る点が古本購入のメリットとなることを加味すれば、供給者にとっては新刊本との差別化を図りながら経済性を確保するのが難しいことがよくわかります。

再販売が難しい本の中には、専門書や技術書のように万人に親しまれることを前提としていない本もありますが、実際にはむしろたくさんの人々の心を動かした人気の本が多く含まれているそうです。

回収を待つ「値段がつかない本」たち

状態が良いにも関わらず、「値段がつかない」という理由で本としての価値が失われてしまう。大量生産大量消費型社会が生み出す負の側面のひとつと言えるのではないでしょうか。

「値段がつかない本」の行き先を考える

バリューブックスに届いた本は、スタッフがひとつずつ検品し、値段をつけて倉庫に保管しています。その後、購入の注文が入った本もスタッフがひとつずつ本棚からピッキングし、包装して発送します。現在バリューブックスでは、300名ほどのスタッフが働いているそうです。

倉庫での発送作業の様子

事業の経済性だけを鑑みれば、値段がつかない本、すなわち売れない本は手放してしまえば簡単かもしれません。

しかし、一冊一冊丹念に扱っている本たち。そう簡単には捨てられません。

バリューブックスでは「日本および世界中の人々が自由に本を読み、学び、楽しむ環境を整える」というミッションを掲げて、値段がつかない本を活用したプロジェクトにも数多く取り組んでいます。

そのひとつが、「book gift project(以下、ブックギフトプロジェクト)」です。

ブックギフトプロジェクトでは、保育園や小学校などを中心に、本を必要とする様々な場所に本を無償で提供しています。

さらに2018年2月からは、本棚がなくても「ここに本があって、自由に読めたらもっといいのに」と思う場所に、移動販売車「BOOKBUS(ブックバス)」で本を届けるプロジェクトも実施しています。

これまでに、同社の拠点がある長野県はもちろん、東京都や首都圏も含む40箇所以上に本を届けました。

本は、本のままで。想いを伝えるふたつの書店

インターネットを通じた古本販売を主軸としているバリューブックスですが、古本の良さを伝え、古本を通じた本のより良い循環を進めるためには、オンラインでは完結できない活動も数多くあります。

そこでバリューブックスでは、上田駅程近くに、カフェを併設した実店舗「本と茶 NABO(ネイボ)」と、値段がつかなかった古本だけを並べる本屋「バリューブックス・ラボ」を構えています。

「本と茶 NABO(ネイボ)」

NABOは、バリューブックスが提供する「本のある空間」。その肩書きの通り、店内には厳選された茶葉を活用しお茶を提供するカフェスペースや、椅子と机が並ぶ隠れ家のような雰囲気のロフトが設置されており、ただ本を陳列するだけではなく、読書を楽しむための工夫を凝らしています。

NABO店内

なかでもユニークな仕掛けは、新刊本と古本が同じ書棚に並んでいること。新刊本と同等に綺麗な状態の古本たちですが、値札を見てみると、そこにはやはり価格差があります。「古本である」という事実だけがそれらの価格的価値を下げていることに気づかされます。

中村さん「新刊本と古本を同じ書棚に並べて販売しても、古本ばかり売れるとか新刊本ばかり売れるとか、そういった偏りはみられません。お客様は、本の状態ではなく内容の興味関心から購入を決めているのだと思います」

一方、NABOと同じ通りにスペースを設けている「バリューブックス・ラボ」は、売りに出されたけれどオンライン販売では値段がつかなかった本だけを集めています。

バリューブックス・ラボ

価格は、安いモノで1冊50円。その値付けに驚くお客さまも多くいるのだそう。

中村さん「バリューブックス・ラボが取り組むのは、単なる安売り事業ではありません。何もしなければ古紙回収に回っていく値段がつかない本たちですが、本は本のままで活躍し続けてほしい。そんな想いを直接伝えるための場として運営しています」

一度生産した製品は、可能な限りその形を保ったままで循環させることで環境負荷を軽減できることは、サーキュラーエコノミーの概念図「バタフライダイアグラム」にも示されています。

【関連ページ】バタフライダイアグラム

モノの機能性と資源の価値を問い直す、「本だったノート」

こうして、本を本のままで愛し続けるための様々な工夫によって、数多くの本に新たな活躍の場を与えているバリューブックス。それでも、本としての状態維持が難しいモノが大半だそうです。

中村さん「値段がつかなかった本は、古紙回収を経て再生紙となります。これも一つの循環の形ではあるのですが、毎日1万冊近い本がバリューブックスを通じて古紙回収に回っていますので、このサイクルに対して我々として貢献できることはないか、と考えました」

そこで生まれたのが、古紙になるはずだった文庫本を利用して作る「本だったノート」です。

本だったノート

原料は、バリューブックスに届いた古本が70%と、古紙再生パルプが30%。一般的な再生紙とは違い、本を主な原料としているのが特徴です。そのため、ノートの紙面には再生紙が本だった頃の痕跡である文字を見ることができます。

ノートの紙面に残された、文庫本だった形跡

また、「本だったノート」の表紙の印刷には廃インクを使用しています。その時印刷屋さんにあるインクを組み合わせて刷るため、製造ロットによって表紙のカラーが大きく変わることはもちろん、特殊な印刷方法により、1冊単位でも少しずつグラデーションの色味が異なります。

廃インクが作り出すグラデーションが、本だったノートの表紙を彩ります

文庫本を集めて再製品化した「本だったノート」のほか、漫画本を集めて作った「漫画だったノート」や、雑誌を集めて作った「雑誌だったノート」もあります。

各種ノートは、NABO店頭ならびにバリューブックスECサイトにて購入可能です

それぞれの紙面には、同じくスクリーントーンや写真のかけらが残されています。

再生紙を作る技術だけを考えれば、よりまっさらな状態に近い紙を作ることも可能です。しかし、例えば「情報を書き記して記録する」というノートの機能を考えた時、私たちはその紙面にどこまでの美しさを必要としているのでしょうか。

そもそも、まっさらな状態に近いことが「美しさ」なのでしょうか。

一歩立ち止まって、これまでの常識を疑ってみる。そんなきっかけをくれるアイテムです。

Circular Yokohamaによる、バリューブックス視察の様子

「バリューブックス × めぐる星天文庫」で目指す、さらなる循環の促進

ここまで、バリューブックスによる数多くの循環型の取り組みをご紹介しました。

今回、バリューブックスの「本が本として活き続ける機会をつくりたい」という想いと、Circular Yokohamaの「遊ぶように循環型の暮らしを体験できる場をつくりたい」という想いが重なり、ふたつの連携が実現しました。

本を本のまま循環させる取り組みが、横浜・星川にやってきます

先にご紹介した「book gift project」を通じて、500冊の本が「めぐる星天文庫」の本棚に届きます。

今回は、Circular Yokohamaメンバーとバリューブックスのスタッフが協力して選書を行いました。

Circular Yokohamaメンバーによる選書の様子

寄贈いただく本は、2024年1月以降、順次めぐる星天文庫の本棚に追加します。本記事でご紹介した「値段がつかなかった本」を実際に手にとって、バリューブックスとCircular Yokohamaが目指す古本の循環に参加してみてはいかがでしょうか。

めぐる星天文庫があるqlaytion galleryでは、「本だったノート」の展示も行っています。ぜひ実物に触れてみてください。

取材後記

オンラインでの古本販売を継続するなかで、仲間が増え、社会へのインパクトも拡大し、インターネットを飛び出して、直接顔の見える事業活動にも尽力しているバリューブックス。

このスケールアップに至る物語は、我々Circular Yokohamaがたどっている道のりとも重なることに気づきました。

2019年に立ち上がったCircular Yokohamaは、コロナ禍による活動の制限を受けながら、オンライン上で情報発信をスタートし、志を同じくする数多くの仲間と出会ってきました。2023年に入ってからは、保土ヶ谷区・星川に実地拠点を設け、オンラインでは叶えることができなかったコミュニティの形成や、物質的な循環づくりにも取り組むことができるようになりました。

今回その取り組みのひとつである「めぐる星天文庫」に、バリューブックスさまのお力添えで多くの本が届きます。横浜にも、本が読みたくても満足に読めない状況や「ここに本があって、自由に読めたらもっといいのに」と思う場所があるはずです。

めぐる星天文庫を通過していく本が1冊でも多く、1日でも長く、本のままで愛され続けるよう、Circular Yokohamaでは「本で社会を変える」というメッセージを、バリューブックスとともに発信してまいります。

末筆となりますが、この度素敵な連携の機会をいただき、施設の案内や選書にご協力くださいましたバリューブックスの皆さまに感謝申し上げます。

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Yokohama」からの転載記事となります。

【関連記事】めぐる星天文庫
【関連記事】qlaytion galleryについて
【参照サイト】バリューブックス オンラインサイト

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Life Hugger 編集部

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