2023年4月20日、全国の市区町村などに対する「一般廃棄物処理事業実態調査」の結果をまとめた「廃棄物処理技術情報」の最新版が発表されました(環境省)。
この調査によれば、「1日1人あたりのごみ排出量が少ない都道府県ランキング(最新:令和3年度)」は、1位が京都府、2位が長野県、3位が滋賀県。これは生活系ごみと事業系ごみを合わせた、1人1日あたりの「ごみ総排出量」が少ない順にランキング化したものです。
今回、2014年度から6年連続1位を走ってきた長野県のある自治体の施策をご紹介します。「どうすればごみを減らすことができるのか」を考えるヒントになるはずです。
「指定ごみ袋 購入チケット」って?
数年前、筆者は関東から長野県南部の駒ヶ根市という町へ引っ越しました。そのとき、少し驚いたことがあります。
それは、「指定ごみ袋 購入チケット」の存在。指定ごみ袋購入チケットとは、長野県南部の上伊那地区8市町村の自治体が発行していて、転入時に役場でもらう紙のチケットです。毎年3月に自治体から各家庭に送付され、世帯の人数に応じて配布される枚数が決まっています。1人なら6枚、3人家族だと9枚・・・という具合に。
このチケットがないと、「燃やせるごみ指定袋」と「燃やせないごみ指定袋」を購入できず、ごみを出すことができません。指定袋は地域のスーパーや薬局などで販売されていて、購入する時は、レジでこのチケットを手渡します。出し忘れると店員さんから「チケットはありますか?」と必ず聞かれます。
ごみ袋1セット(10枚)につきチケット1枚が必要で、ごみ袋の値段は証紙代と袋代合わせて440(小)〜800(大)円程度。 以前住んでいた神奈川県では、市販の安い透明のポリ袋に入れてごみの回収に出していたので、ごみを捨てることにお金がかかるという感覚がありませんでした。しかし、今は「ごみ袋が高い」という理由もあって、せっせとごみの減量に励むようになりました。
しかも、地区によってはごみ袋に名前や住所を書いて出す必要があり、最初は少し驚きましたが、郷に入れば郷に従え。慣れた今は、ごみと向き合う習慣が身につき、よかったと感じています。
「ごみ処理にはお金がかかる」という認識が生まれる仕組み
「指定ごみ袋 購入チケット」は、いつ、なぜ、生まれたのでしょうか。
地域全体でごみの減量に取り組む上伊那広域連合環境衛生課の北原 浩さんは「チケットが始まったのは、上伊那地域でごみ処理費用有料制度を導入した2003年度に遡ります」と言います。
当時、高度経済成長などの影響でごみの排出量が増え、日本全国で最終処分場の確保が課題となる中、リサイクルやダイオキシン対策など高度な環境保全対策の必要性が高まっていました。厚生労働省は1997年、各都道府県に「ごみ処理の広域化計画」の策定を通知。これを受けて長野県から市町村に広域化計画の策定が求められ、上伊那地域でも当時3つあった焼却施設を統合するなどしてごみの減量化・資源化に取り組みました。
そんな中、生まれたのがごみ処理費用の有料制度です。「ごみ処理費用の一部を、ごみ袋購入時に“ごみ処理手数料(ごみ証紙の購入)”という形で負担いただくことにより、排出量に応じた費用負担の公平性の確保に取り組みました。ごみの処理にはお金がかかることを認識いただき、そのお金を軽減しようとするインセンティブを通じて、減量化・資源化への意識改革を目指しました」。こう話すのは、上伊那広域連合環境衛生課の伊藤課長。上伊那ではこの取り組みの結果、前年度比でごみ総量が24%減少。その後もほぼ横ばいで推移しています。
余ったチケットは地域の子どもたちのために
ごみ処理費用の有料化を導入している自治体は今や全国で7割近くにのぼりますが、チケット制というのは全国でもあまり例がありません。(参考:環境省HP)
「チケットの導入にあたり、市民の皆さんの金銭的負担や協力店舗の負担、不法投棄の増加などといった懸念材料もありました。一方で、ごみ処理はそもそも税金で賄われているので、ごみ削減は地域の切迫した課題の一つでした」と伊藤さん。制度導入に対する大きな反対はなく、地域の人々は配布されたチケットで計画的にごみ袋を購入し、その枚数内で賄えるようにごみの減量化・資源化に取り組んでいます。
なお、チケットを使い切ってしまった場合、市町村の窓口で1枚1500円の有料チケットを購入することも可能ですが、高額のため、特別な事情をのぞき、ほとんど利用はないそうです。
また、余った前年度のチケットは、環境学習の一環として地域の小学校などで回収し、回収したチケット枚数に応じて奨励金が交付されます。
昨年4月、プラスチックのごみや気候変動の課題対策として、「プラスチックに係る資源循環の促進に関する法律」が施行され、全国の自治体が改めてさまざまな施策を検討していますが、ごみを減らすためには、私たち一人一人の行動がカギになります。
ごみを出したその先に、どんな未来があるのか、想像しながら、できるかぎり「ゼロウェイスト」を目指していきたいですね!
【関連ページ】みんなで取り組むゼロウェイスト、自治体、団体の実例を紹介
新海 美保
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