能登半島地震|災害ごみ推計244万トン、広域支援で再利用を目指す

「ごみのように見えますが、もともとは私たちの暮らしの一部でした」。能登半島地震の被災地では災害支援ボランティアの受け入れが始まり、倒壊した家屋の撤去や部屋の片付け作業などが進められていますが、“ごみ”になってしまった膨大な量の不用品を前に、たちすくんでしまう人の姿もあります。

石川県によれば、今回の能登半島地震の被災地で発生した災害廃棄物は推計244万トン。2月24日に発表された処理実行計画では、「半分に相当するコンクリートがらなど120万トンを再生利用する」としています。

先回に続き、能登半島地震の被災地の現状とともに、災害廃棄物の課題と再利用の取り組みについてお伝えします。

7年分の排出量、半数を再利用して生かす


「災害廃棄物は244万トンで年間の一般ごみ排出量の約7年分」。石川県の推計では、特に被害が大きかった半島北部の2市2町の合計が約6割を占め、平時の59年分に相当します。ごみ処理施設も被災した県内では処理能力を超え、国をあげた「広域支援(被災した自治体では処理できない膨大な量のがれきを、受け入れを申し出た全国の自治体に運び、焼却施設などで処理してもらうこと)」が始まっています。

過去の大規模災害でも仮置き場や焼却施設が不足し、海上輸送を含む広域処理が行われました。東日本大震災では原発被害のあった福島県を除き処理を終えるまでに約3年、2016年の熊本地震では約2年を要しました。

石川県の馳浩知事は「2年をめどに処理を終える」という目標を掲げ、全壊、半壊した家屋の解体費用を全額公費でまかなうとしています。解体撤去が必要となる損壊家屋は22,000棟以上で、1班4~5人の計500~600班体制で1棟当たり10日かけて解体を進める計画です。

県の処理実行計画によると、再生利用するのは金属くず2万トンとコンクリートがら118万トンの計120万トン。金属くずは製鋼の原料に、コンクリートがらは破砕して建設資材にそれぞれ充てられます。残る124万トンの内訳は可燃物、木くず、不燃物などで、焼却や埋め立てなどで処理されます。また、このうち3割に当たる38万トンは、未だ復旧途上にある幹線道路の被害を踏まえ海上輸送を中心に、新潟、富山、福井など県外で処理されるそうです。

羽毛布団をリサイクルする「グリーンダウンプロジェクト」


災害廃棄物処理の負担を少しでも軽減しようと、被災したモノの再利用を試みる小さな動きも始まっています。

被災地の一つ、七尾市の寝具店「スリープイン」は発災後、羽毛布団を引き取ってリサイクルする活動を続けています。

元日の地震後、スリープインでは被害を受けた人の家屋復旧の手伝いや給水支援などを行ってきましたが、災害廃棄物の中に相当数の羽毛布団が含まれているのではないかと危機感を持ち、「リサイクルできるのに捨てるのはもったいない。捨てる前に店に持ち込んで」と呼びかける取り組みを開始。能登の一大観光地の一つ、七尾市・和倉温泉の旅館からも羽毛布団100枚以上を回収しました。旅館から引き取った羽毛は、避難所に提供した後、旅館としては使えなくなってしまった布団です。

店では、温泉街の甚大な被害を支援しようと、リサイクルを通じて得た積立金を和倉温泉観光協会に寄付する予定。合わせて「大量の災害廃棄物処理の負担軽減につながれば」と引き続き羽毛をリサイクルしてダウンジャケットなどに生まれ変わらせる取り組みを行っています。

スリープインは、2022年11月に七尾市が「ゼロカーボンシティ」を表明したのを受け、翌年7月からGreen down project(グリーンダウンプロジェクト)に参画。羽毛製品を回収して再生、販売までの流れをつくるグリーンダウンプロジェクトを通じて、羽毛製品を積極的に回収し、地域の人々とともに「羽毛循環サイクル社会」の実現を目指してきました。

過去の災害廃棄物問題の教訓と対策

地球温暖化による気候変動が顕在化する中、地震だけでなく、豪雨や大型台風などが毎年のように発生し私たちの日常を襲っています。この傾向は今後も深刻化していく可能性がありますが、特にごみ処理の問題は被災した自治体だけでなく、全国すべての人が関わる大きな課題であり、災害の多い日本ではこれまでの様々な教訓を乗り越え、多様な対策が進められてきました。

「災害廃棄物は可能な限り再利用する」という政策の方向が定まったのは、1995年の阪神淡路大震災といわれます。国立環境研究所によれば、阪神淡路大震災では、ビルや橋梁などの都市インフラが損壊し約2,000万トンの災害がれきとなりました。復旧復興の大きな妨げになったことから、国が1998年に震災廃棄物対策指針をつくり、その後の2004年に多発した水害をきっかけに、2005年に水害廃棄物対策指針もつくられました。

そして、2011年の東日本大震災では、約2,000万トンの災害がれき以外に、同規模の津波堆積物も発生しました。災害がれきの量は日本全体で1年間に発生する一般ごみの半分にあたり、処理能力の百年以上に相当する量が発生した自治体もありました。そのような中で、官民連携で総力をあげた国家事業として、3年間にわたって災害廃棄物処理のプロジェクトが実施されました。岩手県と宮城県は行政機能を失った中小市町村で発生した膨大な災害廃棄物を引き受けて処理。事業規模は総額約1兆円にのぼり、総合建設業を中心とした共同企業体(JV)が担ったほか、全国の支援自治体が広域処理の受け皿になりました。広域処理にあたっては放射能問題の影響で様々な摩擦が各地で生じましたが、粘り強い対応で処理が進められました。

東日本大震災をきっかけに国では南海トラフ地震や首都直下地震のような巨大災害に備えて2013年に国土強靭化法を制定、2014年に国土強靭化基本計画をつくり、災害廃棄物処理も重要な一分野であると位置付けられています。その後、2015年の関東・東北豪雨災害、2016年の熊本地震、2017年の九州北部災害、2018年の7月豪雨災害など、連続して大きな災害が発生しましたが、このとき被災地の現場では環境省が2015年に設置した「災害廃棄物処理支援ネットワーク(D.Waste-Net)」などこれまでの災害の教訓を生かして設立された人材が活躍。今回の能登半島地震でも、全国各地の自治体職員や専門家が派遣され、膨大なごみ処理に一役かっています。

災害はいつ、どこで起きるかわかりませんが、「いつでも起きる」という覚悟を持って日頃から備え、ネットワークを持っていることが大切です。能登半島地震の被災地では目下、がれきの撤去や片付けの作業を進められていますが、潰れた家屋のなかには大切な家財道具や思い出の品があります。これらをどう処理していくかはとても難しい問題ですが、これまでの経験やノウハウを生かしていけたらと願います。

【参考サイト】国立環境研究所ホームページ 
【参考サイト】寝具店「スリープイン」ホームページ
【参考サイト】災害廃棄物処理支援ネットワーク
【関連ページ】【令和6年能登半島地震】被災者支援情報まとめ
【関連ページ】「能登半島地震 緊急支援|Civic Force(シビックフォース)」

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新海 美保

新海美保(しんかい みほ)。出版社やPRコンサル企業などを経て、2014年にライター・エディターとして独立。雑誌やウェブサイト、書籍の編集、執筆、校正、撮影のほか、国際機関や企業、NPOのPRサポートも行っている。主なテーマは国際協力、防災、サステナビリティ、地方創生など。現在、長野県駒ヶ根市在住。共著『グローバル化のなかの日本再考』(葦書房)ほか