カフェオレで作る花瓶とは?廃棄食材をアップサイクル、自然と向き合う素材デザイナー村上結輝

村上さん作品

世界は物で溢れている。大量に作られ、大量に捨てられていく。そんな世界に疑問を持つ人が増えています。近年は「サステナビリティ」「エシカル」という言葉が認知されるようになり、自然素材や生分解性素材などもみられるようになってきました。しかし「素材を新しく作り出すばかりでは、いずれ資源の限界が来るのではないだろうか」という思いが頭のどこかで潜んでいます。

アップサイクルすることにこだわりを持つクリエイター、素材デザイナーの村上結輝さんは、「カフェオレ」をアップサイクルしてランプシェードや花瓶を作る。寒い朝に飲みたくなる、マグカップに入った、あの温かいカフェオレ。

カフェオレと同じ原料から作る素材の「カフェオレベース」とは、どんなものなのか。開発した素材デザイナーの村上結輝さんに話を伺いました。

話者プロフィール:村上結輝(むらかみ ゆうき)さん

村上結輝さん1998年生まれ。名古屋芸術大学の卒業制作でバナナレザーを開発。大学卒業後はフリーの素材デザイナーとして活動。2020年に「カフェオレベース」を開発する。2022年1月からはオンラインにてカフェオレベースのランプシェードやフラワーベースを販売開始した。制作・販売以外に、企業からの依頼を受けて素材の開発も行っている

「毎日捨てるコーヒーかすがもったいなくて」

村上さんが今、制作しているのは「カフェオレベース」と呼ばれる素材。原料は飲み物のカフェオレと同じ、コーヒーと牛乳。コーヒーは飲み終わった“かす”の部分を、牛乳は廃棄されてしまうものを中心に使用しています。

「カフェオレベースを作ろうと思ったのは、コーヒーを毎日飲んでいたからです。毎回出るコーヒーかすを捨てるのがもったいないなと思うようになりました。コーヒーは液体の部分しか飲まないので、大部分は捨ててしまいますよね」

コーヒーを飲むたびに出る“かす”。再利用する方法を調べたところ、消臭効果や殺菌性があること、そして海外にはコーヒーかすを使った作品があることを知ったという、村上さん。

「海外ではコーヒーかすを使ったマグカップや照明はありますが、詳しく見てみると、合成樹脂を使ったものが多いんですよね。合成樹脂を使うとプラスチック感が出ますが、それがあまり好きではなくて。もっと自然な物で作りたいなと思いました。

柔らかい雰囲気で、コーヒーと相性が良く、土に埋めても影響のない素材……そしてたどり着いたのが『牛乳』でした。牛乳は接着剤になるんです」

村上さんは、カフェオレベースを開発する上では化学的な知識を使わず、自分の感覚で素材を作り上げるため、素材と向き合いながら試行錯誤を続けています。

「自然由来のものは、プラスチックのように便利な素材ではありません。しかし今の時代や背景、廃棄物を使うこととコンセプトをセットにすることで、価値を作り出せると思っています。科学者が開発したものとは一味違う魅力が出せたら、嬉しいですね」

カフェオレベースのランプシェード

現在販売しているカフェオレベースのランプシェード。素材の温かさが伝わってくる

コロナ禍で見えた、ごみの多さ。無関心だったことへの罪悪感

村上さんが自然素材の開発を始めたのは、所属していた名古屋芸術大学の卒業制作。「どんな制作をしようか」と考えていた矢先に、新型コロナウイルスの感染拡大が始まりました。

「コロナで家にいる時間が増えました。先の読めない状況に不安がありましたが、それと同時に自分の生活の見えていなかった部分をよく見るようになりました。

そのとき、自分の出すごみの量に驚いたんです。罪悪感がすごくて。今まで自分の身の回りや身体に取り込むものに対して、無関心だったことを反省しました」

自分が何を食べ、どうやって生活するのか。村上さんは自分の生活を観察し、行動に移しました。

「このマイナスな生活に変化を与えたいと思いました。まず取り組んだのは、プラスチックごみを出さないこと。その中で難しさも感じながら、世の中はプラスチックで成り立っていると実感しました。一方で、自然素材は不便な部分もありますが、とても心地よさを感じました」

プラスチックを排除すると、自然そのものと触れ合うことができた

日本をはじめ、世界中でプラスチックの使用量は年々増加しています。その多くは海に流れ、2050年には魚の量よりもプラスチックの量が多くなると予想されています。海に流れ出るプラスチックごみの量は、毎年約800万トン。プラスチックは分解され小さな破片になるものの、完全に自然から消えることはないといわれています。

「自然って循環しているんですよ」

そう言う村上さんは、自然な物での素材作りに一番のこだわりを持っています。

「素材デザイナーとして活動するようになって、自然に触れる機会も増えました。今までは汚いなと思っていた生ごみも、分解されて栄養になります。自然の循環なんですよね。

また、これまでは食べ物などをプラスチックで隔てていた感覚がありました。しかしプラスチックを使わないようにしたら、自然そのものと触れ合うことができたんです。豊かに感じるようになりました」

大学の卒業制作では、バナナの皮から作った「バナナレザー」を使用した作品を制作。卒業後、フリーのデザイナーになり、素材開発や作品作りを継続中だといいます。今年1月からは、カフェオレベースを使った製品の販売も開始しました。

バナナレザー

大学の卒業制作として作成したバナナレザー。バナナレザーから素材デザイナーとしての道が始まった

素材の持つ特徴を育てて、開花させたい

村上さんが開発する素材は「アップサイクル」で作られています。アップサイクルとは、本来捨てられてしまうものを元の製品よりも価値の高いものに作り替える仕組みのこと。ペットボトルをリサイクルして布を作る、横断幕や看板を使ったバッグなどが当てはまります。

アップサイクルとリサイクルは同じだと考える人もいますが、それは違います。廃棄物を前の資源の状態に戻してから、製品を再度制作するのがリサイクル。一方、アップサイクルでは廃棄するものの素材や特徴をそのまま活かした製品づくりを行います。

「作品を作る際は、コンセプトや見た目に注意を払っています。その物に対して、みんなが元々持っているイメージや特徴が連想できて、納得できるような。

カフェオレベースは、コーヒーと牛乳でできているからカフェオレベースという名前にしました。コーヒーの挽き方によって色や質感が異なるのが面白いですね。その素材の意味や特性を重ね合わせて、グラデーションにしていきます」

村上さんは過去にレシートを使って椅子を制作。感熱紙の熱に反応して色が変化する特徴や質感を活かし、捨てられることの多いレシートをアップサイクル。その椅子の名前は『re sheet』。レシート(receipt)、シート(合わせ紙)、シート(腰掛け)という言葉遊びがされています。

「挑戦したい素材はたくさんあります。企業や個人の方からも声をかけていただいていて、色んな素材を開発しています。

素材や作品作りは植物と同じ感覚です。素材が持っている印象を自分が育てて、もっとたくさん開花させたいですね」

フラワーベース

ドライフラワー専用の花器『フラワーベース』

【参照サイト】 村上結輝さんプロフィール
【参照サイト】 環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」

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古賀 瞳

古賀瞳(こがひとみ)。愛知県出身、千葉県在住のフリーライター兼駄菓子屋店長。留学や世界一周の経験から環境問題に興味を持つようになる。人にも環境にもなるべく負担をかけない暮らしを実践中。得意分野は、ゼロウェイスト、アニマルウェルフェア、伝統文化、地方創生など。旅と読書、高い場所が好き。Twitter:@kinoko_tabi115