大阪の“おかん”が夫婦で営む「neo食堂」、北タイから食や循環型社会の大切さを発信する

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タイの北部・古都チェンマイに、日本料理のヴィーガンレストラン「neo食堂」があります。現地人や在タイの日本人、海外の人からも愛される、知る人ぞ知るスポットです。
今回は一家の母であり、発酵食品のワークショップ講師も務める牧野恵子さんにお話を伺いました。

北タイの古都で愛される「neo食堂」とは

aeeenタイの北、古都チェンマイで2013年より暮らす牧野一家のご夫婦が営む、「neo食堂」。店舗はチェンマイ空港、そして多くの観光客が訪れるニマンヘミンエリアより車で10~15分ほど走った住宅地にあります。地元の人たちとのやり取りが粋な小さな村で、どこか懐かしい雰囲気を感じる地域です。

珍しいヴィーガンの日本食を提供する店として人気ですが、理由はそれだけではありません。100%手作りにコミットした丁寧な料理や数々の調味料は、都市化と近代化の末に忘れられてしまった大切なものを取り戻そうという試みから。その思いに賛同する人、そして純粋においしい発酵食品を求めて来た人々が集まります。

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「neo 食堂」のテーマが店頭に並ぶ

チェンマイは夢がカタチになる場所

aeeenチェンマイを「イメージしていたことが次々と実現する地」と、表現する恵子さん。何のつても人脈もなく、初めてチェンマイにやってきた彼女は、降り立ったときに感じた空気感に懐かしさを覚え、半ば直感で移住を決めたというのです。

日本ではアルバイトとして飲食業に従事し、自転車で宅配するお弁当屋さんを始めるなど、食にかかわる仕事もしていましたが、自分で拠点を持って店を始めるのはまだ先と感じていたとのこと。

でも、「いつかは」とイメージしていたことが「チェンマイで生きていく」と覚悟をしてから、次々と叶っていくことになります。

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完璧なタイミングで新築の物件と出会ったのもそのひとつ。テラスは DIY で

その道中では例えば、大豆を挽く石臼を探していたら道で見つける、豆腐作りを始めたら地域で人気のマーケットへの出店を誘われる、そこからさらに大きなマーケットにつながり、チェンマイで知らない人はいない自然派スーパーマーケット「Rimmping」とのご縁が生まれるといったことが起きました。「することなすことが注目され、人とのご縁でどんどん拡大」していったそうです。

ここで販売していたのが、豆腐と発酵調味料でした。この二本柱がそのまま「neo食堂」の主力商品となります。

手作り発酵食品と豆腐に力を注ぐ

aeeen今は旦那さまの牧野裕樹さんが担当している手作り豆腐ですが、最初は恵子さんが始めたもの。異国の地で生き残るためでしたが、豆腐を選んだのは「私がおいしい豆腐を食べたかったから」と笑います。

最初はニガリを日本より持参していたものの、水が日本と違って硬水であることなど、いくつもの環境の違いから「チェンマイでできる方法」を模索した日々でした。今では旦那さま独自の、さらに進化した製法で作る豆腐が同店の主力商品のひとつです。タイミングが合えば、有機大豆を石臼で挽く豆腐作りの様子を見ることもできるかも!?

店内にずらりと並ぶ発酵調味料については後から触れますが、日本ですら見たことのない種類までがあり、そのこだわりは一目瞭然。試食も可能で、実際に味見をして気になるものは連れて帰ることもできます。

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塩こうじから玄米塩こうじ、ガーリック醤油こうじ、ほかに玉ねぎやレモンのこうじまで

あるもので工夫して

発酵食品も豆腐も日本の伝統的な食品ですが、それらを異国の地で作ること自体が大きなチャレンジです。豆腐にかかわらず、その土地の原料を使って、いかに思い描くものに近づけるかは「neo食堂」にとっての大きなテーマに。

食材は無農薬のものが理想的ですが、難しければ地元産や、顔の見える農家より直接仕入れるなどして柔軟に対応しています。「その分、野菜のカット方法や洗い方、下ごしらえなどにひと手間加えています」。また、現地の食材を知るためには、自分でいろいろ試すことが信条。市場などで気になる食材を見つけたら、とりあえず買ってタイ人のスタッフに確認し、調理してみるのだとか。恵子さんの探求心が、新たなメニューを生み出しているのですね。

なぜ発酵食品なのか

aeeen「neo食堂」で提供される食事には全て、自家製発酵調味料が使われています。さらにオンラインで購入もできるようになっており、タイ国内であれば購入可能なのもうれしいですね。

発酵調味料にここまでこだわる理由のひとつは、「調味料を変えると誰でも料理が上手になるから」。恵子さん自身、まめである一方で面倒くさがりでもあると言います。だからこそ調味料を作っておけば、あとは野菜などの材料に混ぜ、振りかけるだけで栄養価が高く、おいしい食事が用意できるようになり、大きなメリットとなるのです。

また、常時約8種類がそろう自家製(酵素ジュース)も、南国タイならではの原料で作られたもの。おいしいのはもちろん、この地で過ごす体を内側から整えてくれます。

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大阪のお弁当屋さんからスタート

義理のお母さんに背中を押されて始めたというお弁当屋さん。ただプラスチックごみを出すことに抵抗があった恵子さんは、まず大阪の道具屋筋(※1)へ行き、緑色の重箱を見つけます。そのお弁当を旦那さまがものづくりで扱っていたアフリカプリントの端切れで包み、初回だけ栗の木のお箸と手作りの箸袋をセットにしてプレゼントしていたのだそう!

お弁当の中身にも1ミリも手を抜きません。発酵調味料を使ったお惣菜5種が入っていますが、これはそのまま今の「neo食堂」の週末限定メニュー「Tofu Gozen」と同じ。「豆腐が手作りではなかった以外、全く同じことをやってましたね」とのこと。

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週末限定で食べられる「Tofu Gozen」270TBH

このお弁当のさらに素晴らしい点は、重箱の回収までを行っていたこと。
ひとりでお弁当の準備をし、自転車で配達、また同じ場所へ重箱の回収に向かうのです。「多くて一日20食が限界でした」と笑う恵子さん。そして一食の値段はなんと500円。約15年前とはいえ、内容を考えると破格です。

ですが奮闘するうちにさまざまな場所から声がかかり、そのために電動自転車を貸してくれる人が現れるようになり、活動は拡大していきます。

※1 道具屋筋とは大阪の飲食店を支える、プロの目利きにかなうこだわりの調理器具や道具がそろう商店街のこと

ルーツは母代わりのおばあちゃん

aeeen自然界にあるものを尊重し、調和を大切にしたクリエイティビティに富んだ料理を作り、発酵や料理のワークショップを行う恵子さんですが、お話を伺ううち、そのルーツは幼少期にあることに気づきました。

韓国人である母代わりのおばあちゃんに育てられた恵子さん。食卓にはご飯に味噌汁、そして手作りキムチやたくあん、べったら漬けなどの漬物が並ぶシンプルなもの。「学校から帰ってきたら、梅干しをおやつにする子でしたからね。水キムチのスープをゴクゴク飲んだり」とのこと。子どもの頃から発酵食品がとても身近だったのですね。

子どものアトピーがさらなる探求のきっかけに

シンプルな食生活の幼少期を経たおかげか、特にヴィーガンではないもののほぼ肉を欲さず、砂糖や添加物などをなるべく摂取しない食生活が板についたと言う恵子さん。
それにもかかわらず、お子さんはアトピー性皮膚炎に悩まされます。ご自身の見解をお聞きすると、「さらなる食の探求のためかな」と興味深い回答が。結局その言葉通り、かれこれ15年以上も発酵について深めていくのですから、何事からも学びや気づきがあるのだと思わされます。

その甲斐があり、今ではお子さんの肌にアトピーがあったことは想像できないほどに。発酵食品がもたらす恩恵を思わされます。

ものは捨てずに最後まで使う

すべてのものはつながっているという考えがベースになっていることもあり、食材はなるべく最後まで活用し、ものは修理をして最後まで使うことは恵子さんにとってはごく自然なこと。

例えばお店で使う無農薬のお米。とぎ汁もそのまま捨てず、第一とぎ汁にはココナッツシュガーを加えて3日ほど発酵させ、そこに自家製のみき(※2)とレモンを加えたものを朝一番に飲む「おめざ」にしているのだそう。

その備蓄が十分ある場合にもとぎ汁は捨てず、スタッフに取っておくように伝えています。そして植物の水やりに使ったり、シンクなどのステンレスを磨くのに使ったりするのだとか!最後まで使い切る工夫で環境に優しいのはもちろん、自身や家族も取り入れることで健康的な習慣になっているのですね。

※2 鹿児島県奄美群島および沖縄県で伝統的に作られる乳酸菌発酵飲料

食と向き合う和の心をチェンマイの村から

aeeen取材のなかでも特に興味深かったのが、「neo食堂」で働く現地のスタッフへの接し方です。日本人が現地のタイ人と働くことの難しさは、社会的背景の違いから想像に難くありません。それがさらに本物にこだわり、本質を貫き、細部にまで心の行き渡った仕事をする「neo食堂」のような環境だとなおのこと。

恵子さんは言います。「まず教えるのは、ものごとを自分で調べて考えることの重要性ですね」。ものの置き場ひとつとっても、それがなぜそこにあるのかをまず理解し、その意味を考えること。

「neo食堂」では野菜の洗い方や切り方など、普段無意識でやってしまいそうなことにも意味を見出し、心を込めることを教えています。また、タイでは一般的ではない野菜の下処理も、消化がしやすくなり、体に優しいものだとひとつずつ丁寧に教えているそうです。

最初はそれらの教えが細かいと感じていたスタッフも、学ぶことが楽しくなったそうです。そのうち自分たちから提案してくれるようになったと、恵子さんはニコニコ教えてくれました。ご本人の言葉通り、まさに「大阪のおかん」を感じるお話。

また、スタッフには「全部自分と思いなさい」と伝えているのだそう。「そうすることで道具の扱いも変わるし、お客さんやスタッフなど、人に対しても思いやりを持って接することができる」と恵子さん。

「neo食堂」で過ごす時間が心地良いのは、信頼に支えられた関係性でつくられた空間であることも、ひとつの理由なのでしょうね。

編集後記

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提灯に明かりが灯ると、さらにノスタルジックさが漂う

「neo食堂」の存在を知り、実際に訪れ、どうしても紹介したくて実現した今回の取材。

初めて訪れた際に食べた「Tofu Gozen」は、手仕事が見える繊細な料理で感動しました。おいしいというのは感覚であり、それぞれで定義が異なると思いますが、「neo食堂」が定義する「おいしい」とは、「誰が作っているのかわかるもの。食べたときに幸せな気分になれるもの」。まさにそのおいしさでした。

心と体に優しい料理に舌鼓を打ち、牧野さんご夫婦とお話する時間からは、きっと新しい気づきや発見を得ることができるはず!チェンマイを訪れる際には、ぜひ「neo食堂」を思い出してもらえると幸いです。
※内容は取材時のものです。

【公式Facebook】Aeeen(neo食堂)
【オンラインショップ】neoshokudo

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mia

旅するように暮らす自然派ライター/オーガニック料理ソムリエ ・アロマ検定一級 | バックパックに暮らしの全てを詰め込み世界一周。4年に渡る旅の後、AUSに移住し約7年暮らす。移動の多い人生で、気付けばゆるめのミニマリストに。 ライターとして旅行誌や情報誌、WEBマガジンで執筆。現在は自然に沿った生き方を実践しながら発信中。地球と人に優しい暮らしのヒントをお届けします。