日本一高い高層ビル「あべのハルカス」、生ごみからバイオガスを生み出す循環のしくみとは

近年、SDGsの浸透に伴いごみをなくそうとする動きが加速しています。ゼロウェイストという概念もよく知られたものになりました。しかし、消費活動の盛んな商業施設やホテルでは、生ごみを含む大量のごみが日々排出されます。それらのごみをゼロにすることはおろか、ごみとしての廃棄量を大幅に削減することも簡単ではありません。

そんななか、施設内のレストランやホテルで出た生ごみをビルの地下で分解し、ほぼゼロに近いレベルまで減らすことに成功した商業施設があります。

大阪市阿倍野区に位置し、日本一の高さを誇る高層ビル「あべのハルカス」は、日本で初めて生ごみから熱や電気をつくるメタン発酵設備「メタファーム」を開発。同ビル内の商業施設や飲食店、ホテルから出る生ごみを利用してバイオガス発電を行っています。

大規模の複合ビルだから実現できた先進的なエネルギーシステムとは、どのようなものでしょうか。Life Hugger編集部は、地下のバイオガス生成装置が見学できるバックヤードツアーに参加しました。

今回は、ツアー近鉄不動産アセット事業本部賃貸事業部部長の西畑宏昭さんから、あべのハルカスの取り組みや今後の課題についてお話を伺いました。

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近鉄不動産アセット事業本部・賃貸事業部部長、西畑宏昭さん。

日本一の高さのあべのハルカスが取り組む、未来のためのCO2対策

高さ300m、日本一を誇るあべのハルカス(2022.6現在)。百貨店から大規模オフィス、国際ブランドホテル、都市型美術館がひとつのビルに集結した商業施設です。そんなあべのハルカスは、大阪のシンボルタワーというだけではなく、日本の高層ビルで初めて、生ごみ活用してバイオガスを生成する設備を導入した循環型の高層施設として、全国から注目を集めています。

「メタファームを使った循環の仕組みは、建設当初から導入が決まっていたわけではなかった」と、西畑さんは言います。あべのハルカスの竣工時(2014年当時)は、生ごみの削減ではなく、ビルの基準値(建設当時)であるCO2排出量25%削減を目指すための取り組みが優先事項だったそうです。

ビル内に大きく設けられたボイド(吹き抜け空間)や、空調の負荷を下げるための「ダブルスキンウィンドウ」、ビル内や屋上に設けられた緑が茂る庭園といったすべてが、訪れる人に快適に過ごしてもらうためだけではなく、CO2排出量削減率25%という高いハードルを満たすための省エネ化を目的としたものです。また、それらビルの設計に加え、館内の照明をLEDにするなどして、照明で12%、そして空調で13%のCO2を削減。エネルギーの効率的なマネージメントにより、さらに数パーセントを上乗せし、コロナ時期の前から28~29%のCO2の削減を達成しています。

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16階にある緑豊かな空中庭園。吹き抜けていく風が心地いい。

あべのハルカスの地下がすごい!生ごみ発酵のメタファーム

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あべのハルカスの地下にあるメタファーム

「生ごみ減少」というキーワードが注目される昨今、日本一高いビルによる循環の仕組みへの取り組みはたびたびメディアでも取り上げられています。

「オープン当初やサーキュラーエコノミーを謳い、バックヤードツアーを企画していた頃は、反応もいまいちでした……。やはりSDGsが急速に浸透し始めてからですね。日本で初めて、高層の商業ビル内に設置したメタファームについて、全国から視察などの問い合わせが来るようになりました」と西畑さん。

あべのハルカスでは、百貨店やホテルなどレストランの厨房から出る生ごみなどを集めて、ディスポーザーで粉砕した後、地下のメタン発酵槽へ送り込み、バイオガスを発生させて熱や電気を作っています。分解で使用するのは生ごみだけではなく、レストランの厨房から出る排水も、一緒にメタン発酵槽で発酵処理しています。

あべのハルカス

ビルの設計段階では、メタファームの設置は計画されておらず、導入した当初は建物の構造上で換気量が不足していたり、問題も多かったりしたのだそう。その中でも、油の多い生ごみをバクテリアがなかなか分解できないなど、問題も多かったと言います。しかしながら、それらの問題をクリアした今、特に大きなトラブルもなく運用できていると言います。

外出自粛が続き、人流が途絶えたコロナ禍の状況については「コロナ前に出ていた生ごみは一日2トン。コロナになり、食品売り場以外のレストランフロアやホテルが休業になり、一時期はコロナ前に1日2トンあった生ごみが、500Kg程度にまで減りました。しかし、生ごみがゼロにはならなかったので、バクテリアが死滅することはなかったです」とのこと。

生ごみから電気へ、バイオガス発電による循環の可能性とは

あべのハルカスのバイオガス設備のメタン発酵槽が処理できる生ごみの量は一日最大約3トン。コロナ以前は毎日約2トンの生ごみが発生していましたが、現状はその半分程度の量です。バイオガスを生成して分解できなかったごみは、20Lバケツ一杯程度に収まるほどに。

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あべのハルカスの生ごみはすべて、この20Lの容器の中に。

実際にメタン発酵槽に投入された生ごみで生成されたバイオガス発電で、ビル全体の使用電力をどのくらいカバーできているのでしょうか。

「実際に生ごみから生成されたバイオガス発電だけでビルの電力まかなうことは難しいです。ですから今は、バイオガスでお湯を沸かし、ビル内の商業施設や飲食店の給湯に充てています」と西畑さん。

実はあべのハルカスのような商業施設では、建築基準の問題で生成したバイオガスを施設内に貯めておくことができません。生成したバイオガスはその日のうちに使い切る必要があるため、温水にして貯めておくしかないのが現状です。しかし、ビル全体への電力供給は難しくとも、メタファーム導入には環境面で大きなメリットがあります。

「このメタファームによる循環の最大のメリットは、純粋に廃棄する生ごみが減ること。バイオガスはあくまでも副産物です。

生ごみが減ることでその処理にかかるエネルギーも少量で済み、結果的にCO2の削減にもつながります。また、水分を含んで重量がかさむ生ごみの処理にはコストももかかりますが、現在は20Lのバケツに一杯程度と廃棄コストを抑えることができています。

また、環境面ではビル内で生ごみを処理することでオフサイト施設への運搬が不要となり、輸送の際に排出するCO2の削減にもつながっていきます」

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メタファームでバイオガスを生成した後の生ごみは、なんとこれだけ!

他にも、調理場などにディスポーザーが設置されていることで、施設内の生ごみの運搬も不要に。運ぶ過程でこぼして床を汚してしまう、匂うといったトラブルはつきものです。そういった環境は病原体の根源にもなり得るため、解消されることは大きいそうです。

あべのハルカスで1日出るごみの総量

ごみの内訳/日
・生ごみ:約1,167kg
・その他一般ごみ:約6,133kg(紙ごみが多い)
・プラスチックごみ:約1,441kg
・産業廃棄物14kg
・再資源可能ごみ(=紙ゴミ):約208kg

※生ごみ以外のごみは外部のごみ処理業者へ処理を委託しているとのこと。

生ごみだけじゃない、雨水も!循環の仕組みの課題とは

あべのハルカスが循環させているのは、生ごみだけではありません。水資源も循環させる仕組みを導入しています。

屋上庭園に降った雨水は、まず地下のタンクに送られます。またホテルのユニットバス排水など、比較的きれいな水は分けて処理され、中水やトイレの洗浄水として再生利用されます。雨水や中水などの水を大切に利用し、水資源の有効活用することで、結果的に水道費節約というコスト面でのメリットにもつながるそうです。

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メタファームのある地下には、雨水や中水を地下の貯水槽に集めるための排水管が集まっています。

メタファームや雨水活用など、環境に配慮した取り組みを維持していくには課題もあります。

「環境に配慮した取り組みとはいえ、経済的な面をクリアしないことには存続は難しい」と、西畑さん。「あべのハルカスの場合、生ごみも雨水も使い道といったゴールがあるから続けられるということ。さらに資源だけではなく経済を節約できるからこそ導入する側のメリットもあり、ビジネスの観点からすると、そのメリットと環境保全の両方のバランスが必要です」

効果的に循環の取り組みを実施するためには、ビルの利用者の協力も必要になります。あべのハルカスでは、利用者に向けたごみの分別の呼び掛けも積極的に行っています。生ごみと一般ごみを分けるだけでも、バイオガスを生成できる量が増えるので、結果として生ごみの廃棄量を削減することができます。

編集後記

あべのハルカス
「“ごみの減少”は、やはりインパクトが強いと実感しています」と西畑さんが言うように、最近ではテレビはじめメディアでの露出も増えて、最初は反響の少なかったバックヤードツアーも申し込みが増えたのだそう。そして、ツアーに参加された方の多くが「バイオ生成装置の効果がすごい!」と驚くと言います。

今回、あべのハルカスを訪問してビルの規模感を感じた上で、地下のメタファームでバケツの中を覗いた時には、中にある生ごみの量の少なさに衝撃が走りました。

そんなメタファームについては、国内の事業者からの問い合わせが増えてきていると言います。近隣では、昨年開業した大阪府松原市の商業施設セブンパーク天美が、この生ごみからバイオガスを生成するシステムを導入したとのこと。

今後は日本全国に、ごみを資源として活用するなど、環境に配慮した循環型の商業施設が増えていくのではないかと期待しています。

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mia

旅するように暮らす自然派ライター/オーガニック料理ソムリエ | バックパックに暮らしの全てを詰め込み世界一周。4年に渡る旅の後、AUSに移住し約7年暮らす。移動の多い人生で、気付けばゆるめのミニマリストに。 ライターとして旅行誌や情報誌、WEBマガジンで執筆。現在は自然に沿った生き方を自ら実践しながら発信中。地球にも体にも優しい暮らしのヒントをお届けします。