「バーチャルウォーター(仮想水)」とは?現状と問題点、わたしたちができることをわかりやすく解説!

毎日食べるご飯やお肉、牛乳。これらの食品は、どこからどのように私たちの食卓に運ばれてくるでしょうか?実は、私たちの食生活は、世界中の水資源と深く結びついています。今回の記事では、「バーチャルウォーター」という概念を通し、私たちの食と水との関係について考えていきます。

バーチャルウォーター(仮想水)とは

バーチャルウォーターとは、私たちが口にする食料を、生産された国ではなく、消費された国で生産する際に必要となる水の量を推定した数字を指します。

これはロンドン大学のアンソニー・アラン氏によって提唱された考え方です。例えば、日本が他国から輸入している牛肉1kgを日本で生産しようとすれば、膨大な量の水が必要となります。つまり、食料を輸入することは、その生産に必要だった「水」をも間接的に輸入していることになるのです。この目に見えない水の使用を「バーチャルウォーター」と呼びます。

日本は食料の多くを輸入しているため、バーチャルウォーターの輸入量も非常に大きい国です。これは、日本が海外の水資源に依存していることを意味します。海外での水不足や水質汚染などの問題は、私たちの食生活にも影響を及ぼす可能性があります。

身近なものはどれくらい水が使われているか?

バーチャルウォーターの考え方は理解できても、実際に私たちの身近な食べ物を生み出すのにどれほどの水が必要かは想像がつかないかもしれません。今回は、身近な食べ物に使われる水の量を見てみましょう。

コーヒー1杯

210リットル(500mlのペットボトル420本)

米1合

555リットル(500mlのペットボトル1,110本)

ハンバーガー

999リットル(500mlペットボトル×2,000本)

  • 牛肉45g:927リットル(500mlペットボトル×1,854本)
  • パン45g:72リットル(500mlペットボトル×144本)

牛丼

1889リットル(500mlペットボトル×3,780本)

  • 牛肉70g:1,442リットル(500mlペットボトル×2,884本)
  • 玉ねぎ20g:3.16リットル(500mlペットボトル×6本)
  • ご飯120g:444リットル(500mlペットボトル×888本)

さぬきうどん

120リットル(500mlペットボトル×240本)

  • うどん200g:120リットル(500mlペットボトル×240本)
  • だし汁400g:0.4リットル(500mlペットボトル×1本)
  • わかめ10g:0リットル(500mlペットボトル×0本)

バーチャルウォーターから見えてくる問題とは?


バーチャルウォーターによって、日本では目には見えないたくさんの水が使われていることがわかりました。ここでは、バーチャルウォーターと密接に関連する、世界の水問題について見ていきましょう。

水不足

日本は、世界でも有数のバーチャルウォーターの輸入国です。この状況は、一方で深刻な水不足に直面している国々との間で、水資源の不均衡を生み出しているという側面も持ち合わせています。

例えば、インドは世界でも有数のバーチャルウォーターの輸出国ですが、同時に国民の多くが深刻な水不足に悩まされています。経済発展のため、バーチャルウォーターを輸出せざるをえない状況です。バーチャルウォーターを通じて、経済的な格差が水資源の利用にも大きな影響を与えていることがわかります。

世界の人口が増加し、気候変動の影響も加わる中、水不足問題は今後ますます深刻化する可能性があります。バーチャルウォーターという視点から、私たちは、食料の生産と消費が、世界の水資源の分配にどのように関わっているのかを深く理解し、より持続可能な社会を目指していく必要があるでしょう。

【関連ページ】深刻な水不足問題、今日から私たちにできることとは?

水質汚濁

安全な水を手に入れられない人々は世界に約22億人いると言われており、不衛生な水は、多くの命を奪う原因にもなっています。

また食料の輸出国における水質汚染も、私たちの生活に直接的な影響を与えます。例えば、中国では河川や湖沼の水質汚染が深刻であり、日本をはじめとする多くの国が中国から農産物を輸入しているため、食の安全に関わる問題として捉える必要があるでしょう。

バーチャルウォーターについて考えると、私たちが口にする食品が、生産地の水環境と深く結びついていることがわかります。水質汚染問題は単に特定の地域の問題ではなく、グローバルな食料システムと密接に関連していると言えます。

日本におけるバーチャルウォーターの現状

日本は、バーチャルウォーターの主要な輸入国のひとつです。アメリカ、日本、ドイツがバーチャルウォーターの主要な輸入国トップ3にランクインしています。

バーチャルウォーターの取引は、水資源の豊富な国とそうでない国との間で行われることが理想的ですが、現実は異なります。日本を含む先進国は、バーチャルウォーターを大量に輸入していますが、一方で水不足に苦しむ国々もバーチャルウォーターを輸出しているのが現状です。
例えば、インドやパキスタンなどは、水資源に恵まれていないにもかかわらず、バーチャルウォーターの輸出が目立っており、水不足に悩まされています。

日本は、バーチャルウォーターの輸入を通じて海外の水資源に依存していることを認識し、自国の水資源の有効活用に向けた取り組みを加速させる必要があります。

日本のバーチャルウォーターが多い原因


日本がバーチャルウォーターを多く輸入している主な原因は、食生活の変化による食料自給率の低下にあります。日本の令和5年度のカロリーベースの食料自給率は、38%と低い状況です。具体的には、米の消費が減少し、小麦や肉、乳製品などの消費が増加しています。これらの食料は、国内での生産量が少なく、海外からの輸入に頼らざるをえない状況です。

また、食料の生産においては大量の水が必要となります。特に、日本に多くの農作物を輸出している中国北部やアメリカ中西部などでは、水ストレスが高い状態にあります。これらの地域で生産された農産物を日本が輸入しているため、間接的にこれらの地域の貴重な水資源を利用していることになります。


【関連ページ】「日本の食料自給率」の現状は?課題や改善のための取り組みを紹介

バーチャルウォーターを減らすために私たちができること

最後に、バーチャルウォーターを減らすために私たちが日常生活の中でできることを解説します。

わたしたちの生活で使うバーチャルウォーターを知る

まずは私たちが生活する上でどれだけの水資源が使用されているかを認識することから始めましょう。

食事をする際、食材生産時に使用される水資源のことを考える方は少ないかもしれませんが、この機会にぜひ調べることからはじめてみてはいかがでしょうか。
そんな時に役立つのが、環境省のウェブサイトにある「仮想水計算機(環境省)」です。主食や野菜、果物、畜産製品など主要な食べ物の量を記入することで、自動でバーチャルウォーターを計算してもらえます。

自給率をあげる

バーチャルウォーターを減らすために、私たち消費者ができることの一つに、国産のものを積極的に選ぶという行動があります。

食糧自給率向上を目指す事業者や団体は、数多く存在します。地産地消ブランドの商品や国産飼料を使用した畜産物を購入するなどの行為は、国産の生産を応援し、結果としてバーチャルウォーターの輸入量を減らすことにつながります。他にも、地元の農産物直売所を利用したり、地域の特産品を購入したりするのも良いでしょう。私たち一人ひとりの小さな選択が、日本の食料自給率向上につながります。

地産地消を意識する

地産地消とは、地元で生産されたものを地元で消費することです。安くて新鮮な食材が手に入ることはもちろん、地元の生産者を支援することで、地域経済の活性化に貢献できます。国内食料自給率の向上にもつながるため、バーチャルウォーターを減らす取り組みの一つとも言えるでしょう。

また、地元の農産物や海産物を消費することで、輸送に伴うエネルギー消費を削減できます。遠隔地から運ばれてくる食品は、輸送中に多くのエネルギーを必要とし、その過程で温室効果ガスの排出量も増加します。地産地消は、こうした輸送に伴う環境負荷を低減し、地球温暖化対策にも貢献します。

食品ロスをなくす

食品ロスとは、食べられるはずの食品が廃棄されることです。日本では、年間472万トン(農林水産省「令和4年度推計値」)、家庭ではそのうち半分の236万トンもの食品が捨てられています。この食品ロスには、その生産過程で消費された大量の水、つまりバーチャルウォーターも含まれています。食品ロスを減らすことは、間接的にバーチャルウォーターの輸入量を減らすことにつながるのです。

食品ロスを減らすためには、計画的に買い物をする、冷蔵庫の中身を把握する、食べきりやすい量を購入するなど、ちょっとした工夫が大切です。また、食品の保存方法を工夫したり、余った食材を使った料理に挑戦したりするのも良いでしょう。


【関連ページ】「消費期限」と「賞味期限」とは?違いを理解して食品ロスを減らそう!

肉中心の食生活を見直す

バーチャルウォーターを減らすために、私たちの食生活を見直すことも重要です。特に、近年日本でも広まりつつある肉中心の食生活は、バーチャルウォーターの消費量増加に大きく影響しています。

牛や豚などの畜産物は、その生育のために大量の穀物や水を必要とします。牛肉1kgを生産するためには、約2万リットルもの水が消費されます。肉を食べるということは、間接的に大量の水を消費していることになるのです。

肉中心の食生活から、例えば豆類や魚など、より少ない水で生産できる食品へと食生活をシフトすることで、バーチャルウォーターの消費を減らせます。週に数回、肉を食べない日を作るなど、無理のない範囲から始めてみましょう。

水を大切に使う

私たちは、水は地球上にたくさんあるものだと考えがちですが、安全に使える水資源は限られています。バーチャルウォーターの問題も、世界的な水不足や水質汚染といった問題に繋がっています。

私たち一人ひとりが、水資源の大切さを理解し、日常生活の中で水を大切にする姿勢が重要です。日常の生活の中で、例えば、歯磨きをする際に水を出しっぱなしにせず、こまめな節水に努める、食器洗いをする際に水を使いすぎないなど、ほんの小さな心がけから意識できると良いでしょう。

まとめ

今回は、バーチャルウォーターについて解説しました。私たちが口にする食品の生産には、想像以上に大量の水が使われており、食料の多くを輸入に頼る日本に暮らす私たちは、間接的に世界のどこかの水資源を利用しているのです。バーチャルウォーターの削減のために、地産地消を意識した買い物や食品ロスを出さない食事、生活の中で水を大切するなど自分ができることから始めてみましょう。


【参照ページ】MOEカフェ(環境省)
【参照ページ】ユニセフ報告書「家庭の水と衛生の進展 2000~2022年:ジェンダーに焦点を当てて
【参照ページ】ユネスコIHE (水教育研究所) 世界のウォーターフットプリント
【参照ページ】日本の食料自給率(厚生労働省)
【参照ページ】「世界水の日報告書 2019」(水・衛生専門の国際NGOウォーターエイド)
【参照ページ】Virtual water 世界の水が私たちの生活を支えています (環境省)
【関連ページ】サステナブルな食について考える

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飯田千聖

千葉県の海沿いの町で暮らすライター。ヨガ、アーユルヴェーダ、マインドフルネス、サステナブルなどに興味があり、それらを取り入れ、ゆったりとした暮らしをしています。 近々スリランカにアーユルヴェーダ修行に行く予定です!