農薬とは?日本の使用状況や必要性、懸念点についてもわかりやすく解説

農作物の栽培に必要な「農薬」。日本は世界と比べて農薬の使用量が多いとも言われていることもあり、不安に感じている人もいるのではないでしょうか。本記事では、農薬とは何か、日本の使用状況などを見ながら必要性やデメリットについても解説します。

農薬とは

まずはじめに、農薬とはどのようなものを指すのかを見ていきましょう。

農薬とは、農作物を害虫や病気から守るために使用されるものです。農薬と聞くと害虫を殺したり、雑草を枯らす薬剤をイメージする人も多いと思いますが、特定の害虫に対する天敵生物も農薬に含まれます。

現在農薬として流通しているのは、大きく分けて「登録農薬」と「特定農薬」の2種類です。

登録農薬とは、効果や安全性の審査を通過し、国に登録されている農薬のこと。毒性や作物への残留性、環境への影響などさまざまな項目に関する安全性評価を行い、安全性が認められたものだけが登録農薬として流通しています。

また、農薬の登録時には使用できる作物・時期、使用量といった使用基準が定められており、使用基準以外の方法で使用することは認められません。

基本的に、登録されていない農薬を農作物に散布することはできませんが、一部登録をしなくても使用できる農薬が存在します。それが特定農薬と呼ばれるもので、農作物への効果と安全性が明らかになっている農薬です。現在は以下の5つが特定農薬として指定されています。

  • 重曹
  • クエン酸
  • 天敵
  • エチレン
  • 次亜塩素水

なぜ、日本は農薬大国と言われているのか

では、日本の農薬の使用状況はどうなっているのでしょうか。日本は世界的にも農薬の使用量が多いと言われていますが、これにはいくつかの理由があります。

具体的には、水稲や果菜類などたくさんの農薬を必要とする作物を多く栽培している、高温多湿な気候条件、狭い農地から多くの農作物を生産するための農業が行われていることが挙げられます。

国際連合食糧農業機関(FAO)が発表している2020年の統計を見てみると、日本の農地面積当たりの農薬使用量は世界で7番目となっており、これだけ見ると日本が多く農薬を使用しているように見えます。しかし、国別の総農薬使用量では、上位の多くが欧米の国であり、日本は上位10カ国にも入っていません。

【農地面積当たりの農薬使用量(2020年)】
各国の農地面積当たりの農薬使用量

画像は、国際連合食糧農業機関(FAO)から引用。

【国別総農薬使用量(2020年)】
国別の総農薬使用量

画像は、国際連合食糧農業機関(FAO)から引用。

このように、各国で栽培する作物や気候条件などによって農薬の必要性は異なるため、単純に使用量だけで多い・少ないと判断することはできないのです。

農薬を使用しないとどうなる?


作物が健康に育つのであれば、農薬を使用しない方が生産者にとっても生活者にとっても良いことかもしれません。しかし、実際には農薬を使用しないことによるさまざまなリスクが存在するのです。農薬を使用しないとどのような問題が起こるのか見ていきましょう。

収量が下がる

農薬を使用せずに作物を栽培すると、たくさんの虫に食べられてしまったり、暑さや雨が続くことで病気にかかったりします。一度このような状態になってしまうと、被害は広がっていく一方です。その結果、収穫量が大幅に減ってしまい生産者の収益も下がってしまいます。

品質が下がる

農薬を使用しないと、品質の低下にもつながります。病虫害によって見た目が悪くなったり、味が落ちたりして出荷できる状態ではなくなってしまうのです。

生産者の負担が増える

農薬を使用せずに作物を生産するとなると、除草や病害虫の管理に膨大な時間と労力を必要とします。そのため、生産者の負担が大幅に増えてしまうのもデメリットです。

農林水産省が2022年に発表した「有機農業をめぐる事情」によると、有機農業の取り組み面積を縮小したいと考える生産者の多くが、人手不足や栽培管理に手間がかかることを理由として挙げています。

農薬を使用するデメリットは?

農薬を使用することによるデメリットのひとつに、環境面への影響があります。散布された農薬は雨などによって土壌深層部や河川などに流れ込むため、土壌・水質汚染を引き起こす可能性があるのです。

また、特定の害虫を駆除することによって、生態系のバランスが崩れることも考えられるほか、人間にとっては残留農薬による健康被害が発生する可能性は否定できません。

まとめ

昨今使用されている農薬の多くは毒性が低く、残留農薬についても科学的な評価に基づいて基準を設定しています。そのため、必要以上におそれることはありません。ただし、環境面のことを考慮すると、できるだけ農薬を減らしていくのがベストです。そのためには、見た目の美しさにこだわらないなど、生活者も意識を換えていく必要があります。

農薬を必要以上に使用しないために、生活者がまずできることは、食材の選び方を見直すことです。例えば、形が少しいびつだったり、傷があったりする野菜や果物を選ぶことで、生産者が農薬を使う必要を減らすことができます。また、有機農産物や無農薬栽培の食材を積極的に選ぶことも、農薬削減に貢献する一つの方法です。これらの食材は一般のものに比べて価格が高い場合がありますが、環境や健康に配慮した選択として価値があります。

さらに、生活者が農業や食の生産過程について正しい知識を持つことも重要です。地域の農家や生産者との対話を通じて、どのような方法で作物が育てられているのかを理解し、信頼できる供給元から食材を購入することも、環境負荷の低減につながります。教育を通じて、食材の見た目にとらわれず、持続可能な農業を支える意識が広がれば、消費行動全体が変わり、結果として農薬の使用量を抑えることができるでしょう。

このような意識改革は、小さな一歩かもしれませんが、持続可能な未来のために、生活者一人一人が環境にやさしい選択をすることが求められています。


【参照ページ】日本農薬工業会「日本の農薬の使用量は欧米に比べてどうなのでしょうか。日本の使用量は少ないのですか多いのですか。」
【参照ページ】農林水産省「有機農業をめぐる事情(令和4年7月)」
【関連ページ】
サステナブルな食について考える
【関連ページ】農産物選びのヒントに!「有機栽培」と「無農薬栽培」の違いや有機JAS認証制度について解説

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角家小百合

種苗会社での経験を活かして2018年にライターに転身。得意ジャンルは農業、アウトドア、食など。シンプルで自然にも自分にも優しい生活を心がけています。家庭菜園、料理、キャンプ、フィットネス、ギター、映画鑑賞が趣味の半農半ライターです。