朝の一杯や仕事の合間のリフレッシュとして、コーヒーが生活の一部になっている方も多いと思います。そんなコーヒーですが、このままでは今のように楽しむことが難しくなると言われていることをご存じでしょうか。
本記事では、コーヒー2050年問題とは何かをはじめ、解決に向け企業などで行われている取り組みをまとめました。この問題のために私たち生活者になにができるのか、一緒に考えてみましょう。
コーヒー2050年問題とは
コーヒー2050年問題は、地球温暖化による気候変動の影響によりコーヒーの栽培地が減り、2050年までにこれまでのようにコーヒー生産ができなくなる可能性を指します。コーヒーは赤道を挟んだ北緯25度から南緯25度の「コーヒーベルト」と呼ばれる地域で栽培されていて、特に高品質でおいしいとされているアラビカ種を栽培するには、標高1000mほどの山岳地帯で栽培することや、昼夜の寒暖差、適度な降雨量が必要です。
このまま温暖化が進めば雨季や乾季の境目がなくなり昼夜の寒暖差も減少するだけでなく、コーヒーの栽培適地や生産量が大幅に減少すると予想されています。
さらに、世界的な人口増加に伴いコーヒーの消費量も増加していて、この問題が解決されなければ消費量が生産量を上回る可能性もあり、コーヒーの需給がひっ迫する可能性も指摘されています。
2050年問題で何が起きる?
すでにコーヒー栽培が盛んな地域では、異常気象による減産などさまざまな影響が出始めています。ここからは、コーヒー2050年問題によって生産地や私たち生活者にどのような影響があるのか見ていきましょう。
品質・収量低下
コーヒー栽培は雨季と乾季がはっきりとした気候であることが重要です。地球温暖化により気温が上昇し、季節の境目がなくなると品質が低下し高品質なコーヒーを生産することが難しくなります。
さらに気温だけでなく湿度が上昇すれば、コーヒーの天敵である「さび病」が発生しやすくなり収量が低下します。品質や収量が低下することで生産者の収入も下がり経済的にも苦しくなることからコーヒー栽培自体を諦める生産者が増えていく可能性も指摘されています。
大幅な値上げ
コーヒーの消費は増加する一方で、2050年には栽培適地が現在の50%にまで減少すると言われています。これが現実になればコーヒーの供給が難しくなり、大幅な値上げによって気軽にコーヒーを飲むことができなくなる可能性もあります。
多種多様なコーヒーを楽しめなくなる
コーヒーはその生産のほとんどが小規模な農園によって支えられている現状があります。前述したように、温暖化によって品質や収量が下がれば、元々厳しい生活を送っている小規模農家はコーヒー栽培を続けていくことが難しくなる可能性も。そうなれば、大規模農園でしかコーヒーが生産できなくなり現在のように多種多様なコーヒーを楽しめなくなるかもしれません。
コーヒーを持続可能にするための取り組み
コーヒー産業では、地球温暖化対策以外にもさまざまな問題を解決する必要があります。ここからは、コーヒー産業が抱えている課題を解決し、持続可能なものにするために企業や研究機関で行われている取り組みを見ていきます。
KEY COFFEE(キーコーヒー)とワールドコーヒーリサーチ(WCR)の取り組み
画像は、キーコーヒー株式会社から引用。
キーコーヒーは、コーヒーの未来を守るためとして農業分野から研究開発を行うワールドコーヒーリサーチ(WCR)との協業を2016年よりスタートしています。
このプロジェクトでは、世界中にある品種を集めて栽培試験を実施。従来の手法と新たな栽培手法を用いてコーヒーノキ(コーヒーの木)の生育状況や収量の調査を行い、気候変動や病害虫に強く、味もおいしい品種の開発を目指しています。
スターバックスで行われている気候変動対策
画像は、スターバックスコーヒージャパン株式会社から引用。
スターバックスでは、2030年までにカーボンニュートラルなコーヒー豆の実現と、それらを生産する際に使用される水の量を50%削減することを発表しました。
具体的な取り組みとしては、気候変動に対して耐性を持つ品種を生産者に配布したり、小規模農家の生産性を高めるために農業向けのアプリを使用した営農サポートを行っています。
また、コーヒー産業で問題となっている森林保全に向け、コロンビアとペルーの2か国でアグロフォレストリーによるコーヒー栽培などに取り組んでいます。
アグロフォレストリー
アグロフォレストリーは森林農法とも呼ばれ、コーヒーだけでなく果樹やスパイスなどさまざまな樹木を植えることで生産者の安定した暮らしを守ることができるとして注目されている農法です。
コーヒー生産ではプランテーション栽培といって大規模な農場でコーヒーだけを栽培することが多く、不作による収入減少など生活が不安定になりやすいという問題も。
アグロフォレストリーでは、背の高いバナナなどの木を植えることで直射日光が苦手なコーヒーノキに日陰を作り生育にもいい影響をもたらします。さらに、コーヒーが不作になっても他の果樹などで副収入を得ることが可能になるだけでなく、プランテーション栽培と比べて森林保全や生物多様性の保護など環境負荷の低い農法として期待が集まっています。
コーヒー豆のトレーサビリティをブロックチェーンで実現
スイスに本拠を置くfarmer connect SAは、ブロックチェーン技術を利用して産地から消費者に届くまでの情報を追跡できるプラットフォーム「ThankMyFarmer™(サンク・マイ・ファーマー)」を構築しました。これは、生活者がコーヒーのパッケージについているQRコードを読み取ることで生産者情報や品質について知ることができるもので、生産地のサステナビリティを支援するプログラムを通じて生産者に寄付を行うことも可能です。
2021年10月に日本でもスタートし、スペシャルティコーヒーを扱う「PHILOCOFFEA(フィロコフィア)」で導入されています。
生活者の私たちにできることは?
これからもおいしいコーヒーを楽しむためには、私たち生活者も日々の生活や消費行動を見直してみる必要がありそうです。まずはできることからはじめてみましょう。
認証コーヒーを選ぶ
認証コーヒーは、非営利団体などの第三者機関によって評価され認証を受けたコーヒーのことを指します。コーヒーに付いている認証ラベルはさまざまあり、生産者支援であればフェアトレード、環境保全や生産地域の繁栄であればレインフォレスト、渡り鳥や生態系保護であればバードフレンドリーといったように目的や支援したいものに合わせて選ぶことができます。
コーヒー2050年問題に取り組む企業の製品を選ぶ
コーヒーを購入する際は前述したような取り組みを行っている企業や団体の製品を買うことで支援につながります。最近では、企業の公式サイトなどを見てみると環境保護や生産者支援に向けてどんな取り組みを行っているかが明記されていることも多いので、調べてみて応援したいと思えるところから購入するのがおすすめです。
環境に配慮した行動を心がける
地球温暖化を食い止めるためにはCO2など温室効果ガスの排出量を減らしていくことが重要です。そのためにもできる限り省エネを意識して生活していきましょう。
日常生活では、冷房や暖房の温度を控えめに設定したり、長期間使わない電気製品のコンセントを抜くなど簡単なことからでOK。野菜を購入するときは旬のものを選ぶ、肉類の消費を減らすためにプラントベースの食事を取り入れてみるなど、食生活を見直してみるのもいいかもしれません。
代替コーヒーを取り入れてみる
いますぐにコーヒーが飲めなくなってしまうことはないですが、価格が高騰したり好きな銘柄を好きなときに楽しめなくなる可能性はあります。そんなときのために、代替コーヒーを試してみるのはいかがでしょうか。
たんぽぽや大豆、玄米など多種多様な代替コーヒーが販売されていて、環境面だけでなく健康効果も期待できそうです。
これからもおいしいコーヒーを楽しむためには、地球温暖化だけでなく森林伐採や生産者の貧困問題などの社会課題に目を向けて行く必要があります。遠くの生産者に思いを馳せつつ、日々の生活の無駄を見直したり認証ラベルが付いたものを選ぶなど、少しづつできるところからはじめていきましょう。
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【参照サイト】PHILOCOFFEA(フィロコフィア)
角家小百合
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