日本の伝統衣服である着物。着物文化はここ数十年ほどで急速に廃れ、日本人であっても多くの人にとっては、日常で身につけるものではなくなってしまいました。
そんな着物に光を当て、現代の感覚でアップサイクルしているのがUZ Fabricです。古着の着物を原料とし、ワンピースやストール、バッグ、ルームシューズなど、日常で身につけられるおしゃれなアイテムを次々と生み出しています。一目見ただけでは古着の着物から作られているとはわからないアイテムも多く、新しい命を吹き込まれた生地たちは、単なる着物のリメイクとは異なる新鮮な魅力を放ちます。
UZ Fabricを運営するウズ株式会社は、実はWeb制作を本業とする会社です。Web制作会社が、なぜ着物のアップサイクルを始めたのでしょうか?代表でデザイナーの小寺沢裕子さんにお話を伺いました。
素敵なのに、捨てられていく着物の存在
もともと着物との縁はほとんどなかった、と話す小寺沢さん。たまたま着物の里親探しのイベントに関わるようになり、そこで着物の魅力を知るとともに、素敵な柄でも捨てられていく運命の着物があることを知ります。「会社のメンバーの一人が、着物の里親探しのイベントを開催していたんです。もう着ないけれど思い入れのある着物を、本当に気に入ってくれた方に買っていただくという企画で、素敵だと思い、会社としてサポートするようになりました。その活動を通し、着物といっても、七五三や成人式の振袖といった華やかなものだけではなく、実はとても豊富なデザインや生地があり、粋でおしゃれなものがたくさんあるということを知ったんです」
「でも、その中で貰い手が見つからない着物もあります。どうしても落ちないシミがあるとか、昔の人は現代人より小柄ですからサイズが小さくて着られないとか。そのような着物は、いくら柄が素敵でも貰い手が見つからず、捨てられてしまいます。もったいないと思いました」
服づくりの素人だったからこそ、自由に挑戦できた
古着の着物を原料にするということはそれだけ工程が多く、最初は思わぬ苦労も多くありました。「まず着物をほどいて洗うという工程があります。最初は、ほどくだけだから自分でやればいいと思ったんです。でも実際にやってみたら、一着解体するのに一晩かかってしまって。だから今は、ほどくのは専門のほどきやさんに、洗うのも着物専門のクリーニング店にお願いしています。着物は一般的な古着を扱うのとは違った処理や工程が必要になるという点に苦労しました」
また、生地の状態がものによってまったく異なるという問題もあります。「同じ形で同じように縫ってもらってもうまくいったりいかなかったり。そのたびに、工場の方やいろいろな方と相談しながら改良を重ねてきました」
生地を限界まで、とことん使い切る
もともと、捨てられる運命の着物を救いたいというところからスタートしたUZ Fabricですが、その生地をできるだけ残さず「使い切る」ということに挑戦しているのが、端切れを活用したシリーズです。「例えば、着物の衿の部分は細いので、ストールには使えません。そこでこうした端切れを使ってできたのが、柄合わせを楽しめるルームシューズです」
さらに、モロッコ旅行で出会ったアイテムから着想を得た、細かい端切れや、傷みや汚れのある端切れを活用したラグも誕生しました。「モロッコには、古着を切り刻んでつぎはぎした普段使いのラグがあるんです。それがとても素敵で。モロッコでの生産をすぐスタートするのは難しかったので、まずはインドの工場に着物の端切れをお渡しして、色の組み合わせは自由にラグを作ってもらったんです。すると、日本の感性とは違う、個性的で魅力あるデザインに仕上がりました。日本の伝統文化である着物と異文化の融合です」
また、現在試作しているのが、水に弱い着物の生地をビニール素材で挟むことで、耐水性の高い素材にするアップサイクルです。「着物の生地はシルクが多いのですが、基本的にシルクは洗濯が難しいです。気軽に使えるようにするには、生地を水に強くする必要があります。そこで、着物の生地をビニール素材で挟みました」。こうした生地の改良の結果、着物の生地を使いながらも気軽に使えるノートパソコンケースが生まれました。
伝統的な着物を現在の解釈で構築し、100年先にも残したい
「文化をそのまま守るだけでは、廃れてしまう」と危機感を持つ小寺沢さん。「日本人は着物を着ていた年月の方が長いのに、近代化の中で着物文化はあっという間に縮小してしまいました。伝統を大事にしつつも、今の時代にフィットしたスタイルに形は変えていかないと、そのうち消えてしまうのではないかと」
「もちろん、伝統をそのまま引き継いでいく活動は大切です。でも、私ができることは、そこにアレンジを加え、現代の感覚で素敵と思える形に再構築することだと思っています。そのままにしておくとシュリンクしてしまう着物文化を、違う形で発展させる。こうしたことが繰り返されることで、100年先まで着物の素敵なデザインや柄が生き残るのではないでしょうか。美しい着物の生地やデザインを未来に届けたいという思いがあるので、今ある着物が廃棄されずに、1枚でも100年後まで残っていてほしいと思います」
小寺沢さんが今力を入れているのは、アーティストやブランドとのコラボレーションによって生み出す、着物を使った芸術的な表現です。「ただものづくりをするだけではなく、展覧会やギャラリーで見るような、着物の魅力で心を動かすアート表現をしたいのです。かっこいいな、かわいいな、面白い柄だなでもいい。着物を見る方、身につけてくださる方の心が少しでも動いてくれたらと思います」
編集後記
古着の着物から作られたUZ Fabricの商品は、どれも一点もの。「唯一無二の存在との一期一会を楽しんでほしい」と小寺沢さんが話していたのが印象的でした。もう一度作りたいと思っても、同じ着物には二度と出会えないため、同じ商品は作れません。大量生産の世の中では忘れがちな、ここにしかないものの貴重さ。そんな大事な価値観を思い出させてくれるのが、UZ Fabricなのかもしれません。
UZ Fabricの商品は、どれも現代的な感覚でとてもおしゃれ。「着物のアップサイクルだから使ってみよう」ではなく、「かっこいいから身につけてみたい」と思うものばかりです。素敵だなと思って触ってみると、着物の触り心地であることに新鮮な驚きを覚えます。「好きの先にエシカル消費がついてくる」それが小寺沢さんの狙いです。エシカルだから買うのではなく、素敵だと思って買ってみたら実はリユース素材だった、というのがUZ Fabricの理想です。
ぜひ、そんなUZ Fabricの商品を通して、着物の魅力を再発見してみませんか?
今回ご紹介したUZ Fabricの商品を実際にご覧になれます!
Life Huggerでは、日本のソーシャルグッドな情報を世界に発信しているZenbirdと共に、2022年9月9日(金)に渋谷のTRUNK HOTELで開催予定のイベント「MoFF2022」にて、キュレーション展示「100年先へ作り手の想い伝える」を行います。この展示において、UZ Fabricをご紹介いたします。実際に手にとってご覧になりたい方は、ぜひMoFF2022にお越しください。
MoFF2022について、詳しくはこちらをご覧ください。
日本のソーシャルグッドを世界に伝える「Zenbird」とは?
Zenbirdは、日本中のソーシャルグッドなアイデアや取り組みを英語で配信しているウェブメディアです。社会課題の解決に挑むスタートアップや地方創生などのNPOの事業、日本文化に根付いているサステナブルなライフスタイルの知恵などを海外に発信しています。
Zenbirdの「Zen」は「善」(社会にとってよいこと)を意味しています。日本中の「善」が、「Bird」(鳥)のように世界へと羽ばたき、世界中の人々が日本の魅力を発見するきっかけを作りたい。Zenbirdという名前には、そんな想いが込められています。
【参照サイト】UZ Fabric
【関連ページ】UZ Fabric passes on kimono culture to the next generation by upcycling | Zenbird
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