“自然に近い暮らし”とは?~地方移住の実際②暮らしの知恵編ー服部雄一郎・麻子さんに聞く暮らしのアイデア

海外で人気のライフスタイル「ゼロウェイスト」。日本でも少しずつ聞くようになってきて、「ごみを減らしたい」「捨てる以外の方法が知りたい」という声をよく耳にします。その一方、大量に出るごみを前に、どこから手をつけたらいいのかわからないという声も少なくありません。

そこでLife Huggerでは、「サステイナブルに暮らしたい」「サステイナブルに家を建てる」の著者で、ゼロウェイスト生活を発信する服部雄一郎さん、服部麻子さんとのコラボレーション企画として「服部雄一郎・麻子さんに聞く暮らしのアイデア」の連載をスタート!

第68回目となる今回は、「“自然に近い暮らし”とは?~地方移住の実際②暮らしの知恵編」です。

今も息づく「昔ながらの知恵」

雄一郎前編では、地方移住で実感した食生活の広がりについてお話ししました。後編では、より広く「暮らしの知恵」みたいな部分についてお話ししてみましょう。

麻子:うちが移住した地域では、まだまだ「薪風呂」が日常のお風呂として使われているお宅が散見されることに驚いた。

雄一郎:薪風呂なんて、それこそ都会人からしたら「憧れ」だけど。そんな感じでもなく、淡々と使われている感じだよね。

麻子:その日常の営みにはすごい知恵が詰まっているわけで。「どんな薪を集めて、どのくらい乾かしておくか」「どういう手順で火を起こすか」「温度加減はどうすればいいか」――初心者がやろうとしたら、わからないことだらけ。

雄一郎:屋外で火を燃やすような時も、「小雨が降る直前にする」とか、「風向き」とか、そういった勘所みたいなものが、都会人だったらネット検索して調べるようなところ、みなさん無意識レベルの「感覚」として備わっている。

庭で魚を焼いて食べる。地域の方々ならきっともっと上手になさるはず…

麻子:縄を編んだり、竹皮をしかるべき季節に採ってきて利用したり、棕櫚の葉を使って道具をつくったり、そういったこまごまとした知恵も、まだギリギリ息づいている最後の時代だよね。若い世代には既に実感が薄くなっている。

「何でもできる」上の世代

雄一郎:こういった「昔ながらの知恵」を上の世代の方々から伝授してもらえるのも、考えてみれば、過疎化が進む地方ならではなのかもしれないね。都会だったら、そもそも上の世代との交流自体がなさそうなイメージ。

麻子:どの集落も「ほとんどの人が60代以上」「40代がダントツ最年少」みたいな状況だけど、だからこそ、上の世代の方々との交流が密になる。それはある意味、地方ならではのギフトなのかも。

雄一郎:みなさん本当に「何でもできる」。細い路地で車が脱輪しても、「ロードサービスを呼ぼう」なんてことにはならなくて、脇に住んでいる人や通りがかった人がすぐに4人くらい集まって、引っ張り上げて「はい、完了!」みたいな感じ。

麻子:大工仕事も本当にすごくて、「物置小屋くらいなら自分で建てる」みたいな人も結構いるしね。「何でもかんでもプロにおまかせ」の都会とは別世界。

雄一郎:この「生きる力」みたいなものは、ことエコやサステナビリティを志向する上ではすごく大切な部分。大量消費時代の都会に生まれ育った自分にはレベルが違い過ぎるけれど、せめて目に焼き付けて、ひとつでもふたつでも近づきたい。

都会にしかないもの

麻子:そういった「変わらないよさ」みたいなものが息づいているのが田舎だとすれば、逆に「変わるよさ」があるのは都会、とも言えるかもしれないね。

雄一郎:大量生産大量消費などの「ネガティブな変化」も都会から広がるわけだけど、同時に、エコや循環、サステナビリティなどの概念や思想のシフトが起こるのも都会から。地方はどうしてもその辺は保守的というか、時間差があるのはやむを得ないところかな。

麻子:「実践」としてのエコは存在するのに、「思想」としてのエコは必ずしも存在しない。都会から来る「思想」が、田舎の「実践」をもっともっと再発見していけるといいんだろうね。

雄一郎:新しいエコ用品の販売とか、イノベーションとか、そういったものも人口の多い都会に圧倒的に分があるわけだけど、それこそ最近は人の移動も昔よりずっと活発だし、田舎に住みつつ、都会のモノや情報にアクセスすることも以前よりずっと容易になっている。地方の「自然に近い暮らし」の可能性は、今まで以上に広がっていくんだろうな、と思うと、それは希望が持てる気がする。

環境配慮型商品は地方で入手するのは限りなく困難

「土地が広い」ゆえの可能性

麻子:単純に「土地が広い」からこそ広がる可能性も大きいよね。たとえば、生ごみコンポストなんて、やっぱり都会より田舎の方がハードルが低い。

雄一郎:少々においが出たって、隣近所が遠ければ、何の問題もないものね。コンポストトイレだって、都会だったら相当気を使うかもしれないけど、田舎なら安心してチャレンジできる。

麻子:ほかにも、バイオジオフィルター、雨水利用・・・ニワトリだって飼えるし、やりたいことがより自由にできるのは本当にうれしい。これは自然に近い場所に住むもうひとつの大きな醍醐味。

ニワトリを放し飼いにできるのは田舎ならでは

雄一郎:都市化による人口集中は環境面でも防災面でも問題含み、ということを踏まえれば、地方でのびのびチャレンジできるのは、いろいろな意味でサステナブルだな、という気もするね。

麻子前編の食生活の話で触れたとおり、食べられる野草も生えている。水が汲める場所もある。そういった「安心感」も自然に近い場所の魅力。そんな数々の魅力を秘めた地方への移住、もっともっと広がっていったらいいなと感じます。


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服部雄一郎 服部麻子

神奈川生まれ。バークレー、南インドを経て、高知の山のふもとに移住。 ゼロ・ウェイスト、サステイナブル、ギフトエコノミーを取り入れた暮らしを家族で楽しむ。著書に、『サステイナブルに暮らしたいー地球とつながる自由な生き方―』『サステイナブルに家を建てる』(アノニマ・スタジオ)。(写真 衛藤キヨコ) Instagram:@lotusgranola