“自然に近い暮らし”とは?~地方移住の実際①食生活編ー服部雄一郎・麻子さんに聞く暮らしのアイデア

海外で人気のライフスタイル「ゼロウェイスト」。日本でも少しずつ聞くようになってきて、「ごみを減らしたい」「捨てる以外の方法が知りたい」という声をよく耳にします。その一方、大量に出るごみを前に、どこから手をつけたらいいのかわからないという声も少なくありません。

そこでLife Huggerでは、「サステイナブルに暮らしたい」「サステイナブルに家を建てる」の著者で、ゼロウェイスト生活を発信する服部雄一郎さん、服部麻子さんとのコラボレーション企画として「服部雄一郎・麻子さんに聞く暮らしのアイデア」の連載をスタート!

第67回目となる今回は、「“自然に近い暮らし”とは?~地方移住の実際①食生活編」です。

“自然に近い暮らし”の実際

雄一郎:今月は「自然に近い暮らしとは?」ということで、地方移住した中で感じてきたことについてお話ししてみましょう。わが家は今年、高知に移住してまる10年。

麻子:本当にたのしい10年間でした!

移住したばかりの頃

雄一郎:「自然に近い暮らし」に憧れて、「自給自足に近づきたい」「できれば家も自分で建てたい」みたいなところからスタート。

麻子:もともと二人とも首都圏育ちだったから、特に最初は驚くことばかりだったよね。実際の部分、振り返ってみましょう。

「食の自給」がごく当たり前

雄一郎:高知の中山間地域に移住してきて、まずいちばん印象深かったのは、「みんなが畑を普通にやっている」ということ。都会だと、畑をやっているのは「家庭菜園が趣味の人」か「農家さん」というイメージだけど、こちらでは誰も彼もがごく当たり前のように畑をやっている。

麻子:ほとんど「家事の一部」くらいの感じ!

雄一郎:そうそう!「何も特別なことではありません」みたいな感じでみなさんいろいろな野菜を育てていて、たくさん採れた分を分けていただいたり。育てていない人も、「おじいちゃんやおばあちゃんが育ててる」みたいな感じで、とにかく畑が身近。

麻子:直売所や「良心市」という無人販売もあって、プロの農家さんではない人たちも余った分を売っていたりして、地元の野菜がそこかしこにあふれてる。

雄一郎:そんな野菜を食べるようになって、ふと気づいたら、「今日の夕食、そう言えば9割以上が町内産の野菜だね」みたいな状態になってた。

麻子:「地産地消」なんて言葉を持ち出すまでもない。「自然に地産地消」な食卓に鮮烈な感動を覚えました。

雄一郎:もちろんスーパーに行けば、ニュージーランド産のキウイとか、アメリカ大豆の豆腐とか、青森産のニンニクとかが売られているわけだけど、直売や近所の野菜を中心に食べていると、まさしく「生産者の顔が見える」食卓になる。これはなんて貴重なことだろうと感激した。

野草や山菜、「あるものをいただく」

麻子:そして、「畑の野菜」以上に目を開かされたのが、野草や山菜の豊富さ。ヨモギやつくしなどは言うに及ばず、お茶になるハブ草とか、里芋の茎のようなリュウキュウとか、ほとんど雑草のようなイタドリとか、首都圏にいる時は名前も知らなかったような植物を食べる食文化があって、その力強さ、おいしさに驚かされました。

こんな見事な山菜をいただくことも多い

雄一郎:しかも、そういった植物はどこでも世話要らずで旺盛に育つよね。菜の花なんかもそう。いくらでも育って、食べきれないほど収穫できて、食べ放題。キャベツやハクサイなんかが「注意深く育てないとうまく育たない」のとはえらい違いだなあ、と。

麻子:一般的な野菜は品種改良されていて、ほっぽらかしの自然のままでは育ちにくかったりするのかな。庭の菜の花をむしゃむしゃ食べながら、そういう生態系のダイナミズムや現代の歪みみたいなものにも思いを巡らせたりしています。

雄一郎:「おいしい野菜」は魅力だから、うちもいろいろな野菜を上手に育てられたらうれしい。でも同時に、「あるものをいただく」「育ちやすいもの/育ったものをいただく」という部分が、現代の食生活からはあまりに欠けすぎていて、そういった部分をもっと大切にしていけば、「食べていく」ことはもっとラクになりそう。

食べ放題の菜の花

地元では見過ごされている「価値」

麻子:お肉も、山で獲れたイノシシやシカ肉なんかを分けていただく機会が頻繁にあるよね。

雄一郎:状態にもよるけど、おいしいものは本当においしい。何しろ、貴重なジビエだもの! 都会だったら、すごい値段で売られているはず。

麻子:でも、地域では「獲れたから食べる」みたいに、どこまでも自然体。「鹿いる?食べる分持っていっていいよ」と言っていただいてシカの足一本いただいたり。どこまでもダイナミックでワイルド!

雄一郎:その辺り、野草なんかもそうだけど、都会の人だったら大喜びして珍重しそうなのに、地元の人は「昔からある」という感じなのかな。

麻子:「シカはかたい」とか「イノシシは食べない」という人もけっこういる印象。

雄一郎:その辺の「感覚のギャップ」は本当におもしろい。野菜なんかも、おばあさんが庭で「無農薬野菜」を育てて食べていて、都会の人からすれば「何てすごい!」というところだけど、当のご本人はそんな風には思っていなくて、無農薬野菜のお供はカップ麺とペットボトルの烏龍茶、みたいなパターンもよくある(笑)。

麻子:「何とも思わないくらい自然」という底力に脱帽。全然かなわないと思ってしまう。

雄一郎後編では、さらに広がる地方の可能性や、昔ながらの知恵についてもお話ししてみましょう。


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服部雄一郎 服部麻子

神奈川生まれ。バークレー、南インドを経て、高知の山のふもとに移住。 ゼロ・ウェイスト、サステイナブル、ギフトエコノミーを取り入れた暮らしを家族で楽しむ。著書に、『サステイナブルに暮らしたいー地球とつながる自由な生き方―』『サステイナブルに家を建てる』(アノニマ・スタジオ)。(写真 衛藤キヨコ) Instagram:@lotusgranola