ボランティアの店員さんが活躍中!約40年前に創業したアイルランドの生協を現地レポート【世界のゼロ・ウェイスト】

Food Co-op_外観

当連載ではエコライターの曽我 美穂が海外在住の方に、その土地ならではのゼロ・ウェイストな試みをお伺いしています。今回はアイルランド在住の相馬 素美さんに、約40年前に創業し、今も現地で人気の生協「Dublin Food Co-op」を現地レポートしていただきました!

相馬素美さんのプロフィール

相馬素美1996年横浜生まれ。大学時代はクラシック音楽を学び、2021年からハーチ株式会社で編集者として働く。2023年6月からアイルランドに語学留学し、現地での取材活動などを行う。趣味はおいしいヴィーガンカフェ探し。好きな食べものはチョコレート。

約40年以上前に創業した「Dublin Food Co-op」

Dublin Food Co-op」が始まったのは今から約40年前の1983年。当時は多くの人がベジタリアンやヴィーガン的な食生活をするようになっていたものの、質の良い植物性食品を手に入れるのが難しく、10人ほどのベジタリアンやヴィーガンの人たちが、解決策として「buying club」と呼ばれる仕組みをスタートしました。これはメンバーに事前に欲しいものを選んでもらい、後日まとめて業者に注文し、分配するシステムです。その後販売も始めるようになり、現在の業態になりました。まさに「アイルランドの生協のパイオニア」と言えます!

Dublin Food Co-opのすごいところは、創業当時から変わらぬ人気の高さ。お買い物が毎回5%オフ(年会費15ユーロ)になる特典つきの年間メンバーは、約2,000人もいます!良い商品を求めて、遠くから足を運ぶ人も多いとのことです。
Food Co-op_オーガニック商品1
開店当時は野菜などの生鮮食品の売れ残りの管理が難しかったようですが、今ではなんとゼロ・ウェイストを達成しています!その方法を聞いたところ、下記のような工夫をしているそうです。

  • 調達時は余分なコストを避けるため、卸売業者ではなくサプライヤーと直接取引をしている(なんと取引先の4分の3は直接取引!)
  • 野菜や果物などの期限が短いものは、売れ残ったものを25%〜50%割引で販売、それでも売れなかったものはお客さんやスタッフに無料で配布
  • パスタやお米、ドライトマトなどの期限が長いものは、売れ行きを見ながら入荷を調整する

たくさんのボランティアが運営に協力!

仕事の様子
海外のCo-opの運営で面白い点は、多くのボランティアが協力していることです。

Dublin Food Co-opも有給スタッフ10人程度に加え、ショップの品出しやレジ係を含む日常的な運営の場面では、ボランティアが活躍しています。ボランティアの数は100人を超えているそうです!

ボランティアには月に2時間、週に2時間、4時間などの方法を選び、コミット度合いに応じてショップで割引を受けられます。

スタッフさんご夫婦ポーランド人のスタッフさん。ボランティアやスタッフで関わっている人は、外国人の方もとても多い印象で、その点もいいなと思いました。

接客の様子接客の様子。スタッフさんはどなたもフレンドリーで、お客さんとよく話しています。

量り売りのドライマンゴーを買うお客さんこの方はお客さんですがよく来るそうで、ドライマンゴーを使ってお酒を作るということです!

アイルランド産の食材を地産地消

Food Co-op_野菜寄り
お店で販売している商品は、できるだけアイルランド産のものを調達しているそうです。どうしても国内で生産できない製品は、可能な限り欧州の他国から輸入しているのだとか。お米はドイツやイタリア産でした。

今では野菜類はほとんどアイルランド産で、近くのコミュニティガーデンからも調達しています。気候的に生産が難しい果物類は、スペインなどから輸入しているものが多めでした。

店内には、あらゆるオーガニック製品が!

オーガニック商品お店があるのは、ダブリンの中心部から少し西寄りのKilmainhamという閑静な住宅街が広がるエリアです。

中に入ってびっくりしたのは、あらゆる種類のオーガニック製品が販売されている点です。製品例を挙げてみます。

  • 調味料類(ピーナツバター、ジャム、みそ、ラー油など)
  • パスタ、紅茶、コーヒー、クッキー、缶詰のお豆
  • 竹おむつ(竹を紙にしている、見た目は一般的なおむつと変わらないおむつ)
  • 木製のキッチングッズ
  • お菓子(チョコレート、クッキー)など

商品数は全部で2,000ほど!パッケージ済みの商品も半分以上ありますが、環境や身体に優しい良質なものを厳選して販売しています。

もともとベジタリアン&ヴィーガンの人達が立ち上げたこともあり、今でもさまざまなヴィーガン向け商品が置かれています。アイルランドには5、6年ほど前にヴィーガンブームが訪れ、最近ではどこのスーパーでもヴィーガンの商品は見つけられます。ただ、大手スーパーのヴィーガン製品には化学調味料が多く含まれている場合も多く、ヴィーガンだからと言って身体に良いとは限らない、とのことです。そのため、Dublin Food Co-opでは植物性で素材も良いものを選び抜いて販売しているそうです。

アイルランドならではの商品もたくさん!

アイリッシュビネガーアイルランドならではの食材もたくさんありました。例えば上の写真の瓶に入った「VINEGAR(ビネガー)」は、国内のオーガニック農園で作られたリンゴから作られています。サラダのドレッシングやお湯に入れて飲むなどの使い方がおすすめされています。なお、アイルランド人はフレンチフライ(日本でいうポテトフライ)にお酢と塩をかけて食べるのを好む人が多いのですが、一説では飢餓の時代(1800年代半ばに起こったジャガイモ飢饉:Great Famine)に食べられるものがポテトとお酢だけだったというところから来ているらしく、厳しい歴史の名残を感じました……。
オーガニック石鹸
アイリッシュソープ
こちらはパッケージなしの状態で売られている、アイルランド産の固形石けん「Zero Waste Irish Soap」。サステナビリティを大事にしたスモールファミリービジネスで、1996年、大量生産された化学物質が含まれた石けんの代替品を探すために、自分たちでレシピを開発。100%植物オイルや集めた雨水を使うなど工夫しながら、環境にも健康にも優しい石けんを作っています。プロダクトは基本的にパッケージフリーなので、文字通りゼロ・ウェイスト。会社名など必要な情報はソープに直接スタンプしてあります。ソープのほか、シャンプーバーやデオドランドバーなどもあります。
ナッツバター

アイルランド国内の賞を受賞した、国内産のナッツバター「HURRY’S NUT BUTTER」の瓶もそろっています。定番のピーナッツバターに加えてヘーゼルナッツとカカオとブレンドしたものもあります。ヴィーガン食材としても人気です!

ケーキ
日によって少しずつ違うパンやケーキも販売。お店を訪ねるのが楽しくなる理由のひとつです。

ここならではの生鮮食品も魅力!

卵
チーズ
チーズやヨーグルト、ミルク、パン、ケーキ、卵、野菜などの生鮮食品もあります。これらも全て、アイルランド産です。

お店の外で販売する野菜は基本的にオーガニックで、全てパッケージフリーです。日によって販売されている野菜の種類が違ったり、Lidlなどの大手スーパーでは見たこともないような珍しい野菜が売っていたりするのも面白いな、と感じています。
野菜売り場
チェリートマト、ケール、パンプキン、ビーツ、ペッパー、オニオン、きゅうりなど、種類も多様です。
野菜寄り
ハロウィンの時期に訪問した際には、大きなかぼちゃの販売もありました!

野菜寄り
大手スーパーでは売っていない、ユニークな野菜を輸入している時もあります。これはカクタスフィグまたはウチワサボテンと呼ばれる、文字通りサボテンの実のフルーツだそうで、食を豊かに楽しむきっかけになると思いました。

その他にもおいしい地元産のものが、いろいろ置いてあります。
アイルランド発ヴィーガンチーズ
アイルランド・コーク発のヴィーガンチーズブランド「bananamelon」。デザインなどのクリエイティブの業界で活躍していた女性が、自身がヴィーガンの食生活をする中で食べたいと思うチーズがなかったので作ったというブランドです。私はトリュフ味を食べてみましたが、ヴィーガンとは思えない濃厚な味に驚きました!

地元企業が作った発酵食品ダブリンの「Fumbally」というコミュニティを大事にする素敵なカフェで作っている発酵食品。発酵食品のブランド名は、「Fumbally ferment」です。

充実の量り売りコーナー

量り売り
量り売り
Dublin Food Co-opはアイルランドで最も早く量り売りを始めたことから「アイルランドの量り売りのパイオニア」としても知られています。

量り売りで買えるものが多く、お米、グラノーラ、小麦粉、塩、スパイス、オイル、ビネガー、ナッツ、コーヒー、紅茶などの食材に加えて、洗剤類もありました。

量り売り
こちらの「Lilly’s Eco Clean」は、できるだけ環境負荷を抑え、自然素材を使ったヴィーガンの洗剤を作るアイルランドのブランド。瓶を使った量り売りはシンプルで良いと思いました。

代替ミルクの種類が豊富!

ミルク
ナッツや豆を原料にした代替ミルクの種類も豊富!オーツ、アーモンド、ヘーゼルナッツ、ソイ(大豆)など……。かわいいパッケージばかりで、選ぶのが楽しくなります。

なお、アイルランドでは代替ミルクの消費が日本と比べてかなり多いです。私がカフェのバイトをしていた時も、代替ミルクで注文する人が一定数いるな、と感じました。

地域に開かれたお店

ここの雰囲気はとてもオープンで、運営もフレキシブル&インタラクティブ。お客さんとスタッフさんが親しげに会話しているところがよく見られ、地域に開かれたあたたかいお店だな、と感じています。

スタッフの方々は、良い商品を街中で見つけたらすぐにチームに知らせて、お店での販売を検討するのだそう。「お客さんの提案をきっかけに販売しはじめた商品もある」とのことです。

パレスチナのバクラバ
例えば、上の写真の「バグラバ」というお菓子。これは、ダブリン市内に住むパレスチナ人が作っています。

Loaf cafe内観
また、隣にある「Loaf Cafe」というカフェでは、カフェの閉店後にお店を借りて地域の人に向けたイベントを開催。つながりづくりに一役買っています。内容は古着の交換イベントやヨガのレッスン、お店で入荷した料理用りんごでアップルパイを作って食べるパーティー、クリスマスディナーなど多岐にわたっています。

なお、このカフェでは自閉症や知的障がいなどを持っている方を雇用し、将来的にケータリング業界でトレーニングや就労できるようにトレーニングを行っています。

【公式サイト】Loaf Cafe

運営に関わるスタッフさんやボランティアさん、そして訪れるお客さんの国籍がさまざまで、インクルーシブであたたかいコミュニティをつくるFood Co-op。良い意味でお客さんとスタッフの境界線がはっきりしておらず、名前の通りみんなでつくっているお店だと感じられました。これからもたくさん利用して、つながりを作っていきたいです。


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曽我 美穂

曽我 美穂(そが みほ)。2008年にエコライター・エディター・翻訳者として独立。雑誌やウェブサイトで編集、撮影、執筆、翻訳などをおこなっている。主なテーマはエコな暮らしやSDGs、環境問題。私生活では2009年生まれの娘と2012年生まれの息子の二児の母でもある。現在、富山県在住。個人サイト:https://sogamiho.mystrikingly.com/