月餅の回収ボックスがある?香港ならではの取り組みをレポート【世界のゼロウェイスト】

映画撮影にも使われた、モンスターマンション

当連載ではエコライターの曽我 美穂が海外在住の方に、その土地ならではのゼロウェイストな試みをお聞きします。今回は、香港在住の本多明日香さんに、現地の暮らしで見つけたゼロウェイストを教えていただきました。

本多明日香さんのプロフィール

aska-honda東京都出身。2010年に“東京以外でも生活してみたい”という思いから香港に拠点がある企業に転職し、現在に至る。休日、海や山でのんびり過ごした後に自宅でパーティーができるほど街と自然の距離が近い、香港の利便性が気に入っている。

実は、自然が豊かな香港

香港は東京都の約半分のサイズのコンパクトな街。一般的には「大都会」として知られていますが、実は全体の面積の約30%にしか人は住んでおらず、残り約70%は山などの自然があるので、地元の住民はハイキングやマリンスポーツをよく楽しんでいます。私もこちらに来て初めて、休日にハイキングやカヤックをして過ごす楽しみを知りました。

香港のマンションの近くの山

モンスターマンションの反対側には、山が!

香港の65歳以上の比率は2022年で約20%と、日本の2005年頃と同水準のかなりの高齢化社会で、今後こうした状況に対応していくため加齢に伴う変化を研究していく「ジェロンテクノロジー(※)」への関心が高まっています。とはいえ早朝に公園やビルの日陰で太極拳をしたり、ハイキングに行ったり、と元気なお年寄りが多いです。
※ジェロンテクノロジーとは、Gerontology(老人学)Technology(科学技術)を組み合わせた言葉で、高齢者が暮らしやすい、支援を受けやすい社会にするためのテクノロジーを研究すること。

ごみ分別の取り組みが増加中!

ごみ箱
香港に来て一番びっくりしたことは、ごみの分別がないことです。空き瓶と生ごみを一緒に捨てることに大きな驚きと罪悪感があったことを、10年以上経った今でも鮮明に覚えています。

残念ながら、家庭ごみは今もその状況が続いていますが、街中には「紙」「ガラス」「金属」「その他」などの種類別のごみ箱が置かれるようになりました。

また、2015年からは環境教育とリサイクル支援のための施設や、より細かい分別廃棄ができる施設が街中に建設され始めています。政府の発表によると、これからも増えていく予定です。こうした身近なところで簡単に学び、貢献できる施設が増えることは、大変喜ばしいことだと思います。

近所にある「Recycling Store」が便利!

recycling store

近所の 「Recycling Store」

香港には「GREEN@COMMUNITY(グリーンコミュニティ)」という香港全体にサービスを提供するコミュニティリサイクルのネットワークがあります。このネットワークを通じて、9種類の一般的なリサイクル可能な資源物を扱う公共回収ポイントが160以上にあります。近所にある「Recycling Store(リサイクリングストア)」も、そんな回収ポイントの1つ。街中にある分別回収のための施設です。

cabinet

中に入ると、リサイクル可能なものを分別して、ゴミを出せるようになっています

説明

「GREEN$ Electronic Participation Incentive Scheme」についての説明

こうした施設の利用を促進するため、2020年11月からは「GREEN$ Electronic Participation Incentive Scheme」という仕組みがスタート。市民がGREEN@COMMUNITYの施設に資源物を持ち込むと「GREEN$」というポイントを獲得でき、ポイント数に応じて生活用品と交換できます。リサイクルや節約が好きな香港人には、とても効果的なアイデアだと思います。

いたるところで見かける「衣類の回収ボックス」

衣類の回収ボックス
香港は家賃が高く、住宅が狭いことで有名です。私も物を増やさないように心がけているのですが、気づいたら物が増えていることも……。そんな時に重宝しているのが、街のいたるところにある衣類の回収ボックス。地元のNGOと政府が提携して設置しているボックスには、きれいに洗濯をした洋服の他にも、靴やかばん、ぬいぐるみなどをポイっとするだけでOK。定期的に回収され、必要としている人へ回してもらえます。

衣類の回収ボックス
回収ボックス上部は大きく開くつくりになっており、ここから寄付するものを投入できます。我が家から徒歩5分程度の距離に、2つあります!

香港ならでは!「月餅の寄贈ボックス」

月餅の回収ボックス旧暦の8月15日にあたる日は中秋節と呼ばれ、春節・端午節と並ぶ大切な節句の1つです。家族で集まって「家族の輪」「団欒」を象徴する満月のように丸い月餅(げっぺい)を切り分けて食べ、幸福を祈るのが習わしだそうです。その為、この時期には月餅をいただくことが増えます。2023年は9月29日がその日にあたり、私もいろいろなところから月餅をいただきました。

月餅
ただ、月餅はとにかく甘いのです!特に伝統的な月餅はラードもお砂糖もどっさり入っていて、たくさんいただいても食べきれないことが多々あります。また、素敵なデザインの大きな箱や缶に入っていただくことが多く、かさばります。実際、毎年多くの月餅が、手付かずのまま廃棄されています。

こうした問題に対して数年前から、地元のNGOや大手企業などがオフィスビルやショッピングモールと提携して、月餅寄贈ボックスと化粧箱や缶のリサイクルボックスを設置し始めました。月餅は食料を必要とする方々へ回され、化粧箱や缶は再生資材として回収されます。家族の幸せを願って食べるものが無駄にならず、どこかで美味しくシェアされることは大変喜ばしいと思います。

【参照サイト】Mooncake Recycling

オフィス街の「レンタルカップ制度」が秀逸!

カップの回収ボックス
オフィス街で行われていて「いいな」と感じているのが、「マグカップレンタル」の制度。アプリをダウンロードして、提携店で「カップを借りて購入します」と伝えると、ステンレスの携帯用カップに入れてもらえます。戻すのも簡単で、30日以内にオフィスビルなどの中にある返却ボックス(上の写真)に入れるだけです。

この制度では、コーヒーが割引になるうえ、マイカップを出勤時に持ち運びする手間もなくなるので、メリットが大きい取り組みだと感じています。近隣のオフィス街では、2年間の活動で約15,000個の使い捨てカップが削減できたそうです。

「街市」では必要な分だけ買えるのが魅力!

街市

「街市(がいし)」は、Wet Market(ウェットマーケット)といわれる生鮮市場を指します。どの地域にもあり、路面市場の場合もあれば、公営のビルに入っている場合もあります。活気ある雰囲気と、新鮮な野菜や果物、地場のお肉や鮮魚が買えるこのマーケットは、観光に来た方をお連れしても喜ばれます。

私はスーパーと街市を使い分けて買い物をしており、野菜や果物はもっぱら街市を利用しています。一度にたくさん買っても無駄にしがちなので、好きな分を量って売ってもらえたり、少量の単位で売っているので便利なのです。また、売っている物の移り変わりで季節を感じることもできるのも嬉しいポイントです。

果物屋さん

果物屋さん

お肉屋さん

お肉屋さん

ちょっと心苦しいのは、何を買ってもビニール袋に入れられてしまうこと。私はマイバッグを持参して「ムサイ・ガウドイ(ビニール袋は結構です)」と伝えて、そちらにポイポイ入れてもらうことにしています。そうすると、たまにおまけをいただけることもあり、二重の満足感を得られます(笑)。車付きのバッグを利用して、ビニール袋を使わず楽に運ぶ方もいますよ!

賞味期限切れの商品が売られている専門店「Green Price」

recycling store
香港の食品廃棄のほとんどは、リサイクルされることなく他の都市ごみとともに埋立地に処分されています。2020年には、毎日約1万トン以上のごみが埋立地に廃棄されており、そのうち30%以上に当たる約3,255トンが食品廃棄物でした。一般のレストランでは「ご飯を少なめにしてください、といいましょうキャンペーン」も推し進められているほどです。

【参照サイト】ご飯を少なめにしてください、といいましょうキャンペーン(英語)

そんな中で数年前に近所にできたのが「Green Price(グリーンプライス)」というお店。賞味期限切れ、または賞味期限が迫っている商品を販売する小売店で、徐々に店舗数が増えています。

棚
ここでは調味料から飲料、シリアル、スナック、化粧品、コスメなど幅広い商品を扱っており、お得に買い物ができます。中には賞味期限まで半年以上もあるのに、おそらくパッケージが変更されたために一般店舗に並べなくなったと思われるものも並んでいます。

棚
「未到期」は、まだ賞味期限が切れていないもの、対して「己到期」は、既に切れているものを意味しており、表示が明確で助かります。

このお店では日本製の商品もよく見かけるので、必要なものがなくても「掘り出し物はないかな?」と探しに行きたくなってしまいます。なお、紙ごみになるためレシートの発行はなく、買い物袋は再利用しやすいしっかりした物しか置いてありません。

ちなみに、香港ではほとんどのスーパーで「賞味期限切れ専用の棚」が用意してあります。冷蔵品はそのまま冷蔵エリアで値引きシールが貼られていますが、常温管理されている商品は一部、専用棚に移されており、積極的に廃棄を減らす企業努力が見られます。

実は、自然が豊かでゼロウェイストの取り組みが少しずつ増えている香港。これからも、自分なりにゼロウェイストにつながる取り組みを見つけ、実践していきたいです。


【参照サイト】Green Price(英語)
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曽我 美穂

曽我 美穂(そが みほ)。2008年にエコライター・エディター・翻訳者として独立。雑誌やウェブサイトで編集、撮影、執筆、翻訳などをおこなっている。主なテーマはエコな暮らしやSDGs、環境問題。私生活では2009年生まれの娘と2012年生まれの息子の二児の母でもある。現在、富山県在住。個人サイト:https://sogamiho.mystrikingly.com/