当連載では南米エクアドル在住の和田彩子さんに、現地の暮らしで見つけたゼロウェイストを綴っていただきます。遠い国の話ですが、私たちが幸せに暮らすためのヒントがあるはず。今回のテーマは「物々交換」です。
和田彩子さんのプロフィール
ナマケモノ倶楽部および株式会社ウィンドファームのエクアドルスタッフ。1999年にエクアドルをめぐるエコツアーに参加し、現地の自然とそれを守ろうとしている人々に感銘を受け2002年より長期滞在中。エクアドルでの環境保全やフェアトレードの取り組みを伝える傍ら、家族で「有機農園クリキンディ」を営みながら、手作りの暮らしを模索中。三児の母。
物々交換が当たり前!
こんにちは、和田彩子です。
エクアドルでは、毎月の給料が保証されている人はほんの一部です。ほとんどが非正規、あるいは日雇いの仕事や自営の農業・漁業で生計を立てています。そういった事情もあり、私の村では物々交換のようなやりとりが日常的に行われています。
よく物々交換が行われるのは、家族・親戚や隣近所においてで、これが一番大事な物々交換かな、と感じています。「〇〇をあげるから△△をちょうだい」という直接的なやりとりではなく、たくさんできたら、おすそ分けをする。それで、その時にもらった方の家に何かあればお返しにあげる。なければ次の機会に自分のところで何かできたらあげる、という感じです。じゃがいもやとうもろこしなどを「たくさん茹でたから、どうぞ」という感じの、料理のおすそ分けもよくあります。
それから、モノだけでなく労働力の交換もよくあります。例えば、こんな交換があります。
- 雨季が来る直前のとうもろこしや豆の植え付けの手伝い
- 乾季の収穫の手伝い
- 豆の脱穀の手伝い
- 家を建てる時に水路をきれいにする手伝い
- 家でパーティーを開く時の料理の手伝い
- 鶏や豚、牛を屠殺してさばく手伝い
とにかく村の人たちは、何でも生活まわりのことができます。ただ、機械を使うことは本当に限られた時だけで、ほとんど手でおこなうので、それをみんなで力を合わせることで何とか成し遂げています。
コロナ禍での「外出禁止令」
新型コロナウイルス感染症で外出自粛がおこなわれていた2020年には、物々交換が日常茶飯事だからこそ、の出来事がありました。
エクアドルで全国的に外出禁止令が出てから1ヶ月半。外出禁止令というのは、食べ物、薬、生活必需品を買いに行く以外の外出は基本的に禁止で、その買う物も、身分証明書番号の末尾の番号で週に一度買い物をしてよい日が決まっています。日本よりも厳しい規制でした。
海と山の村で、交換会を実施!
エクアドルでは自営の農業・漁業で生計を立てている人が多いので、自分たちが食べるものには不自由しない人が多い印象でした。ただ、自分たちで作ったり採ったりしたものを売ることができなくなりました。
そんなある日のこと、村内放送で「海岸地方からの生産物を積んだトラックが明日きます。交換できるものがある人は、今すぐ持ってきてください」というアナウンスが流れました。村長さんいわく「海岸地方の人たちは、魚を売るための流通がかなり麻痺している。仮に売れたとしても、自分たちのものを買いに行くことができない。でも自分たちの食べ物だけでは生きていけない。だから山岳地方の人たちと、食べ物を交換したいと言っている」とのことです。そこで、あるNGOの助けで4トントラックに海産物や暑い地方で採れるバナナなどを乗せて山間部の私たちの村を訪れ、帰りにこちらの作物を持って帰るというのです。
我が家は、収穫の時期を迎えようとしていたとうもろこし、豆、かぼちゃを採り、私が以前作った大量にあるジャムを夫が荷押し車に乗せて、村の集会所まで走りました。
通常の交換会は、交換したい人たちが話し合って交換が成り立ちます。ただ、人と人の接触はできるだけ避けなければならないコロナ禍では、それが不可能です。そこで、持ち込まれた作物を村内会がまとめ、それぞれの持ってきた交換物によってリストが作られました。そのリストによって、なるべく不公平がないように物々交換の品を、村内会が分けてくれました。その後、村内放送で、順番に村民が呼ばれ配分された分をもらいました。
こうして、集会所から夫が持って帰ってきたのは下記の食材です。
- 何の魚かはわからねど、鉈(なた)でぶった切ったような皮のかたい魚
- 同上 (白身魚)
- 1ポンド分くらいのエビ (まだ動いていた)
- 調理用バナナ1本(バナナ「ひと房」ではなく、バナナの木1本になるバナナ全部!)
手作りジャムが魚や大量のバナナとして返ってきたことに驚きましたが、すべて家族でおいしくいただきました。久しぶりに海のものを食べられて、嬉しかったです。お金がなくても、山に住む私たちが海の魚を食べることができるとは‥‥‥とありがたく感じました。
生き抜いていくために
物々交換用の食材は、日本の基準で言ったら衛生的にも扱い方にも問題があると言われてしまうかもしれません。でもが、ここでは誰もそんなことを問題にはしません。「生き抜くために、食べられるものは大事にいただく」ということにつきます。
他の地域でも似たような動きが広まり、同じコタカチ郡の亜熱帯地方のインタグから、私が住むアンデス地方にキャッサバや果物を乗せたトラックが訪れ、豆、ジャガイモ、かぼちゃ、野菜などを送り返しました。近所の友人は、食べ物だけでなくサービスも含む「交換」のやりとり専用のフェイスブックページを開設! 中にはこんな投稿が並んでおり、興味のある人が直接相手と連絡を取るシステムになっていました。
「アボガド、あります。フルーツや野菜と交換してください」
「コーヒーとハチミツを交換しませんか」
「心理士の資格を持っています。この大変な時期、精神的なサポートをします」
「ガラス細工をしています。野菜の種がほしいです」
「英語を教えています。私の英語のレッスン動画となんでもよいので交換しませんか」
「あやつり人形師です。0歳から15歳までの人が喜ぶ人形を作っています」
こうしたやりとりを目の当たりにしながら、あらためてエクアドルの人々のローカル同士で支え合う底力の強さに、感動しました。
ここで「地域通貨」が根付かない理由
地域通貨は、特定の地域でのみ流通させ、参加する店や個人だけが使える通貨です。地域経済を盛り上げる取り組みとして注目され、世界各地で実践されています。
実はこの地域でも、導入する動きがありました。私も一時期、小切手形式の地域通貨に参加していましたが以下の理由であまり浸透せず、今は全く見なくなりました。
①地域通貨と一般的な通貨との違いを、参加者にあまり理解されなかった
②地域内でやると、お互い持っているもの、必要としているものがほぼ同じなのでうまく機能していなかった
地域通貨よりも、もともとあった「物々交換」のほうが、ここでは地域で助け合い、つながり合う形の仕組みとしてうまく機能しています。
今も、物々交換は私の日常の大切な一コマです。これからも参加していきたいと思っています。
編集後記
ひと昔前の日本ではわりと当たり前にあった、物々交換。今も、畑や田んぼが多い地域では「物々交換」と似たような、おすそ分けをしあう風習が残っています。現金で買うのとはちょっと違う「あたたかさ」のあるやりとりは、これからの時代をたくましく楽しく生きていく大きな支えになりそうです。私もエクアドルの物々交換のような支え合いを身近なところで実践していきたいな、とコラムを読んで改めて感じました。
【関連ページ】家もトイレもDIY!南米エクアドルの村での暮らしをレポート【世界のゼロウェイスト】
曽我 美穂
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