熊本県の阿蘇をさらに奥深く進み、大分県との県境にある黒川温泉。江戸中期から湯治湯として人々を癒してきましたが、実は現在のように広く知られるようになったのはここ20年ほどのことです。黒川温泉に関わる多くの人々によるさまざまな取り組みによって賑わいが生み出され、九州だけでなく全国的にも人気の温泉地になりました。そして現在は持続可能な温泉地を作るための取り組みのひとつ、「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」が2020年9月よりスタートしています。いったいどんなプロジェクトなのでしょうか?
「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」とは?
「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」とは、旅館から排出される残さ(生ごみ)を利用した堆肥作り事業のことです。黒川温泉郷には30軒の旅館があり、おもてなしをする上で食品ロスがどうしても発生しやすいという問題があります。そこで、資源を循環させることでこの問題を解決しようと、地域コンポストの取り組みが始まりました。
旅館で発生する生ごみに、もみ殻や落ち葉を加えてコンポスト化して、できた完熟堆肥を地元の農家さんに使ってもらいます。農家さんが作ったおいしい野菜は旅館で提供されるという仕組みで、地域資源の循環を生み出すことが狙いです。地元農家と共創した「循環野菜ブランド」の推進も考えられています。
また、黒川温泉のミネラル分が配合された完熟堆肥を、家庭菜園用に販売もしています。2020年は4カ月間で約2,000Lの堆肥が生まれました。今後は旅館30軒分の年間102トン分の食品残さをコンポスト化していくことを目標としています。
黒川温泉観光協同組合「2030年ビジョン」
このプロジェクトの背景にあるのは、黒川温泉観光協同組合が組合設立60周年を迎えるにあたり掲げた「2030年ビジョン」です。
阿蘇くじゅうの豊かな環境資源を
活用、循環させることで
環境、経済、人々の幸福につながる
サステナブルな温泉地を目指します。
(引用元:黒川温泉観光旅館協同組合「2030年ビジョン」)
この「2030年ビジョン」を実現するための取り組みのひとつが、黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト。里山の温泉地として豊かな自然の恵を受けていることに感謝し、これらを利用するだけでなく、循環させることで環境への負担を減らし、さらに経済を成り立たせていくようにするための取り組みです。SDGsのゴールのひとつ、「つくる責任つかう責任」の達成を目指すものでもあります。
「黒川一旅館」で地域が一体となって取り組んでいる
このような地域を巻き込んだ取り組みはそれぞれの考え方の違いなどから、足並みが揃わないことも多いもの。しかし、黒川のこのプロジェクトでは温泉街だけでなく、地域が一緒になって取り組んでいるといいます。なぜこのような一体感が生まれているのでしょうか?
実は以前から黒川温泉郷では1軒だけでなく地域全体で温泉街を盛り上げていこうという思いで、すべての旅館の中から3軒を選んで入浴できる入湯手形や、統一感のある景観づくりなどさまざまな施策を講じてきました。1990年代からは30軒の宿と里山の風景とをひとつの旅館として考える「黒川一旅館」をコンセプトとし、温泉街全体をより魅力的なものにするための取り組みが、行政や地域の人々を巻き込んで行われています。
つまり黒川の人々は、これまでも地域資源や環境を共に守ろうという意識で暮らしていて、今回のプロジェクトもその延長線上にあるということではないでしょうか。
サステナアワード2020にて「環境省環境経済課長賞」を受賞
プロジェクトの活動をおさめた動画が農林水産省と消費者庁、環境省が主催した「サステナアワード2020伝えたい日本の“サステナブル”」において、「環境省環境経済課長賞」を受賞しました。サステナアワードとはSDGsの2030年までの達成を目指し、持続可能な生産や消費を広めるための活動を推進している農林水産省、消費者庁、環境省連携の「あふの環プロジェクト」の一環です。
受賞に際して、同プロジェクトが近年世界中で注目を集めている「サーキュラーエコノミー」や、環境省が推進している「地域循環共生圏」のモデルとなる点が評価されました。また、旅館や行政、農家の方々といった地域の人々との結びつきや、観光振興にもつながっていると見受けられるとも評されています。
持続可能な温泉地を作るために循環を広げていく
黒川温泉一体地域コンポストプロジェクトは旅館から排出される食品残さなどを元に完熟堆肥を作り、それを使って作られた野菜を旅館の料理として提供するという地域資源を循環させるしくみです。まずは黒川一体で循環を生み、次に町全体の大きな循環、そして家庭を単位としうる小さな循環につなげていきたいという思いもあるとのことで、これからの取り組みにもまだまだ目が離せません。
「2030年ビジョン」では、黒川温泉のある南小国町の名物「あか牛」を地元農家と連携し、循環の生態系を未来へつないでいく「“つぐも”プロジェクト」なども進行中です。今後、観光地には今回の黒川温泉の取り組みのように、地域資源を循環させ、次世代へと繋いでいく持続可能な地域づくりをしていることも求められるようになるのではないでしょうか。
【参照サイト】黒川温泉観光旅館協同組合 2030年ビジョン
【参照サイト】農林水産省 サステナアワード2020伝えたい日本の”サステナブル”
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