避難先の地でつくる、人にも地球にもやさしい「山のにんじんカレー」

山のにんじんカレー2

6月2日は「カレー記念日」!1859年に横浜港が開港した時、同時期にカレーが日本に入ってきたという節に基づいて制定されました。

暑い夏が近づくと、「カレーが食べたい!」と感じる人も少なくないかもしれませんが、せっかく食べるなら、おいしいだけでなく、地球にも人にも優しい“サステナブル”なカレーを選びませんか? 皆さんにオススメのお手軽カレーをご紹介します。

福祉施設と農家が連携して規格外の野菜を活用

今回ご紹介するのは、規格外の無農薬野菜を使った「山のにんじんカレー」。

山のにんじんカレー1

山のにんじんカレーの材料となる野菜は、福島県中通り中部の山奥にある逢瀬(おおせ)町の「山の農園」で生産されます。季節ごとに変わる野菜や果物、米を育てるのは、心身に障がいのある11人。2011年3月11日以前は農業を生業としていましたが、福島第一原子力発電所の事故の影響で避難を余儀なくされ、「いつか故郷に戻ってもう一度農業がやりたい」という夢を持っています。

山の農園を運営するNPO法人しんせいは、21の障がい者団体などが集まって設立された「JDF被災地障がい者支援センターふくしま(当時)」の構成メンバーの一つで、2011年10月から、避難した障がい者の集いの場づくりを開始。2013年からは就労に力を入れるようになり、お菓子や雑貨などを作って販売するプロジェクトを実施しています。しかし近年、復興事業の陰りもあり、売り上げが減少しています。

「復興事業に頼らない、新しい取り組みが必要」。そう考えたしんせい代表の富永美保さんは、これまで培ってきた企業やNGO/NPO、市民、研究者などとのネットワークを生かした新しい取り組みとして、2020年に「山の農園」をスタート。障がいのある人々が、支援されるだけでなく地域に貢献しながら、地域の一員として成長していくために、郡山・逢瀬の「遊休地の急増」という課題に焦点をあて、課題解決の場として農園を活用していく計画を立てました。

「豊かな自然を体感しながら持続可能な循環モデルを手作りし、域内外の人が訪れたくなる環境をつくる」。富永さんたちがまず取り組んだのは、これまで捨てられていた規格外の野菜を使ったカレーの製作・販売です。

きっかけは原発事故の後、郡山に戻って有機農業を始めた株式会社agrityの小野寺淳さんの一言でした。「丹精込めて作った野菜でも20%は規格外として破棄している」。多くの農家がそんな課題を抱えていると知った富永さんらは、小野寺さんから規格外の人参を譲り受け、カレーの主役となるレシピを考案しました。

山のにんじんカレー2

持続可能な循環の仕組みづくりに挑戦

山の農園1
山の農園では、電力や薬品を使わずに微生物の力を活用する排水浄化循環装置「エコロンシステム」の導入などを通じて、持続可能な循環のサイクルにチャレンジしています。この取り組みをできるだけ多くの人と一緒に作り上げていくため、「福島の大自然を体感するSDGs研修」と題した企業向けの研修も実施しています。都会で暮らす企業の社員が自然の中で利用者と一緒に火起こしや料理をしながら自給自足のライフスタイルを体感でき、「SDGsの実践」と称されています。

「SDGsの17のゴールのうち、これまで私たちは“人権”に関わる活動は続けてきましたが、“環境”についての取り組みは不十分でした。後世に残す持続的な社会を自分たちの手で作っていくために、この農園の取り組みを軌道にのせ、たくさんの人が集う発信基地としたいのです」(富永さん)。

山の農園2
「にんじんカレー物語」の詳細は動画でもご覧いただけます。

(1)クッキング編
https://youtu.be/hATsei4Mve0
(2)循環編
https://youtu.be/WKiOWF8AGVE

「食べたい!」と思った方はぜひこちらへ
https://shinsei28.org/yamanonouen/processedgoods.html

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新海 美保

新海美保(しんかい みほ)。出版社やPRコンサル企業などを経て、2014年にライター・エディターとして独立。雑誌やウェブサイト、書籍の編集、執筆、校正、撮影のほか、国際機関や企業、NPOのPRサポートも行っている。主なテーマは国際協力、防災、サステナビリティ、地方創生など。現在、長野県駒ヶ根市在住。共著『グローバル化のなかの日本再考』(葦書房)ほか