衣替えを終えた週末、しまい込む前のカーディガンに、取れかけのボタンがひとつ。食器棚の奥には、縁が少し欠けて使わなくなったお気に入りの小鉢。「直せばまだ使えるのはわかっているけれど、つい新しいものを買ってしまう」「修理って、なんだか難しそうで手が出ない」。そんな小さな後ろめたさを、どこかで抱えてはいないでしょうか。
そんな方に向けて、この記事では「直して使う」を暮らしに無理なく取り戻すための考え方と、今日から試せる小さなアイデアをお届けします。ハウツーを極めるためではなく、直す時間がくれる「余白」を味わうための読み物です。
自分で直せるもの、お店に頼むもの、地域の場で直してもらうもの。3つの距離感で「直す」との付き合い方を整理し、最後に、続けるコツと、肩の力を抜いて直すための考え方もお伝えします。夜が長くなる秋の手しごととして、ゆっくり読んでみてください。
1. 「直して使う」をもう一度考えたい理由

少し前まで、暮らしの中には「繕う」「継ぐ」「締め直す」といった手しごとが当たり前にありました。靴下のかかとに当て布をしたり、ぐらつく椅子の脚を締め直したり。ものが壊れることは、ものとの付き合いの「終わり」ではなく、ひとつの「節目」だったのかもしれません。
いまは、壊れたら買い替えるほうが手軽で、ときには安く済むこともあります。だからこそ、捨てるたびに小さなモヤモヤが残るのではないでしょうか。「まだ使えたのに」という気持ちは、ものを大切にしたいという、あなたの中の確かな感覚です。
ゼロウェイストの考え方では、ごみを減らす工夫として「リペア(修理)」がよく挙げられます。新しいものをつくるには素材もエネルギーも使いますが、手元のものを長く使えば、その分だけ「買う」「捨てる」の回数を減らせます。暮らし全体でごみを減らす考え方は、ゼロウェイストのガイドでも詳しく紹介しています。
そしてもうひとつ、直すことには環境以外の価値もあります。手を動かしているあいだ、スマートフォンから離れて、目の前のひとつのことに集中する。そのしずかな時間そのものが、忙しい毎日の中の「余白」になるのです。
2. 自分で直せるもの:秋の夜に始める小さな手しごと
まずは、道具も技術もほとんどいらない「自分で直せるもの」から。うまくできなくても困らないものを選ぶのが、気楽に始めるコツです。
アイデア1:取れたボタンを付け直す
いちばん身近なリペアが、ボタン付けです。針と糸、そして取れたボタンがあれば始められます。替えのボタンが見つからなければ、あえて違う色や形のボタンを付けて、遊び心を足すのも素敵です。
- 時間の目安:好きな音楽を数曲聴くあいだくらい
- 費用感:手持ちの裁縫道具があれば、ほぼかからない
- 向いている人:まずは失敗しても気にならないものから試したい人
アイデア2:ゆるんだ椅子やテーブルのネジを締め直す
座るたびに「ギシッ」と鳴る椅子は、ネジやボルトがゆるんでいるだけ、ということも少なくありません。裏返して確認し、ドライバーや六角レンチで締め直すだけで、驚くほど安定することがあります。木の継ぎ目そのものが外れている場合は、無理をせず次の章の「お店に頼む」を考えましょう。
- 時間の目安:家族がお風呂に入っているあいだくらい
- 費用感:家にある工具で済むことが多い
- 向いている人:家具を長く使いたい人、手を動かして成果がすぐ見えるのが好きな人
アイデア3:欠けた器を金継ぎで迎え直す
金継ぎは、割れたり欠けたりした器を漆でつなぎ、継ぎ目を金などの粉で装飾して仕上げる日本の修理の技法です。傷を隠すのではなく、景色として受け入れる。その考え方に惹かれて始める人もいます。
本来の漆を使う金継ぎは、乾かす工程を何度も重ねるため、完成までに時間がかかります。その「待つ時間」こそが、秋から冬にかけての手しごとにぴったりです。一方で、手軽な簡易キットには、漆の代わりに合成の接着剤や塗料を使うものもあります。食器の材料には食品衛生法のルールがあり、2025年6月からは、合成樹脂は国のリスト(ポジティブリスト)に載った物質しか使えなくなりました(消費者庁「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度」)。食器として使い続けたい場合は、「食品衛生法に適合」とはっきり書かれたキットを選びましょう。適合の記載がないものは、花器や飾り皿など、食べものに触れない器に使うのが安心です。
- 時間の目安:作業は少しずつ、完成までは長い時間をかけて
- 費用感:道具をそろえる必要があるため、ボタン付けよりは準備が必要
- 向いている人:すぐに結果が出なくても、ゆっくり育てる時間を楽しめる人
3. お店に頼むもの:プロの手を借りるのも「直す」のうち
「直して使う」は、すべてを自分でやることではありません。自分の手に余るものは、修理のプロに託す。それも立派な選択です。
アイデア4:靴・傘・包丁・時計を、街の修理屋さんへ
すり減った靴のかかと、骨が曲がった傘、切れ味の落ちた包丁、止まってしまった腕時計。こうしたものは、専門の修理店に持ち込むと、思っていたより手軽に直ることがあります。料金や納期はお店や状態によって異なるため、まずは「直せるかどうか見てもらえますか」と相談してみるのがおすすめです。
修理を頼むと、そのものの素材や構造について、職人さんから話を聞けることもあります。「この靴、底を替えればまだまだ履けますよ」。そんなひと言で、ものへの愛着がふっと深まる瞬間があります。
- 時間の目安:持ち込みと受け取りの2回、外出のついでに
- 費用感:修理内容によって変わるため、見積もりを確認してから
- 向いている人:仕上がりの確かさを優先したい人、忙しくて手を動かす時間がとれない人
「買い替えたほうが安いかも」と迷ったときは、金額だけでなく、そのものと過ごしてきた時間も天秤にのせてみてください。答えが変わることがあります。
4. 直してもらう場:リペアカフェという選択肢
アイデア5:地域のリペアカフェに、壊れたものを持っていく
自分で直すのは不安、でもお店に頼むほどでもない。そんな「あいだ」にあるのが、リペアカフェです。リペアカフェは、壊れた家電や服、雑貨などを持ち寄り、修理の得意なボランティアと一緒に直す、地域の集まりのこと。直してもらうだけでなく、隣で手順を見ながら、自分でも手を動かせるのが特徴です。
お茶を飲みながら順番を待ち、隣の人が持ってきたラジオや、子どものおもちゃが直っていく様子を眺める。そこには、ものを直すと同時に、人と人がゆるやかにつながる時間があります。「直す」が、ひとりの家事から、地域の営みへと広がっていく場所です。
- 時間の目安:開催日に合わせて、半日ほど気軽に
- 費用感:開催する団体によって異なるため、案内を確認
- 向いている人:直し方を教わりたい人、地域の人と緩やかにつながりたい人
開催の有無や持ち込めるものは地域によって違います。お住まいの自治体や地域の団体の案内を、ときどき覗いてみてください。
5. 続けるコツと、完璧を目指さない直し方
続けるコツ:「直すかご」をひとつ置いておく
直したいものは、気づいたときにまとめて入れておける「直すかご」をひとつ用意しておくのがおすすめです。取れたボタン、ゆるんだネジ、欠けた器。かごがあれば、捨てるか迷ったときの「いったん保留」の置き場になります。秋の夜、時間ができたときにかごを開けて、ひとつだけ手に取る。それくらいのペースで十分です。
生ごみを土に還すコンポストと同じように、「直す」も暮らしの中の小さな循環です。手を動かして循環を実感する感覚は、コンポストのコラムにも通じるものがあります。
全部を上手に直そうとしなくていい
- すべてを直そうとしなくていい:直すのが難しいもの、気持ちが離れたものは、手放す選択も大切です。
- 上手に仕上げなくていい:少し不格好な縫い目も、その服とあなたが過ごした時間の跡です。
- 道具を一度にそろえなくていい:まずは家にあるもので。必要になったら少しずつ。
- 危ないものを無理に自分で直さなくていい:電気製品やガス器具など安全に関わるものは、自分で分解せず、メーカーや専門店に相談しましょう。
こんな人には、今は向いていないかもしれません
毎日が本当に慌ただしく、手しごとの時間がかえって負担になってしまう時期もあります。そんなときは、無理に自分で直そうとせず、お店に頼む、あるいは「直すかご」に入れておくだけで大丈夫です。直すことが義務になってしまったら、それはもう余白ではありません。暮らしに少しゆとりが戻ったときに、また思い出してもらえれば十分です。
6. まとめ:直す時間がくれる余白
取れたボタンを付け直す、ゆるんだ椅子を締め直す、欠けた器を金継ぎで迎え直す。自分で直せるものは自分で、難しいものはお店に、迷ったらリペアカフェへ。「直して使う」は、こうした無理のない距離感で、少しずつ暮らしに戻ってきます。
まずは今夜、家の中で「直したいもの」をひとつだけ探して、かごに入れてみませんか。直すことで、ものとの関係が少しだけ温かくなる。手を動かすしずかな時間が、心のゆとりを取り戻してくれるはずです。
直す時間がくれた「余白」を、あなたなら何に使いますか?
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