「自然はすぐそこ」の子育て―子連れの地方移住ー服部雄一郎・麻子さんに聞く暮らしのアイデア

海外で人気のライフスタイル「ゼロウェイスト」。日本でも少しずつ聞くようになってきて、「ごみを減らしたい」「捨てる以外の方法が知りたい」という声をよく耳にします。その一方、大量に出るごみを前に、どこから手をつけたらいいのかわからないという声も少なくありません。

そこでLife Huggerでは、「サステイナブルに暮らしたい」「サステイナブルに家を建てる」の著者で、ゼロウェイスト生活を発信する服部雄一郎さん、服部麻子さんとのコラボレーション企画として「服部雄一郎・麻子さんに聞く暮らしのアイデア」の連載をスタート!

第71回目となる今回は、「「自然はすぐそこ」の子育て―子連れの地方移住」です。

3人の子どもと地方移住

雄一郎:前回は「自然派育児の実際」というテーマで話しましたが、今回はまた別のアングルから、「自然に近い地方移住の子育て」を経験してきて思うことを話してみましょう。

麻子:わが家は神奈川→カリフォルニア→南インド→京都と住まいを移し、2014年に高知に地方移住しました。ちょうど10年前。3人の子どもたちは、それぞれ小3、年少、8カ月でした。

雄一郎:僕たち夫婦は神奈川育ちだから、自然に囲まれた高知の山間部での子育てはすごく新鮮だったよね。

麻子:「地方」と言ってもひとくくりにはできないので、あくまでも「わが家のケース=視点」ということにはなるけれど、自然環境の面から感じた魅力や「実際住んでみてどう?」という点をお話ししたいと思います。

“自然はすぐそこ”――地方の魅力

雄一郎:わが家の住む高知の山間部は、空港や市街地へのアクセスも30~60分ほどなのに、とても自然が豊か。空気もきれいで、景色もよくて、清流もあって、「こんなところで子育てできて幸せだな」というのは偽らざる実感だよね。

家から歩いていける清流

麻子:本当にそう。何より、親が幸せ! 「親がハッピー」であることは、子どもにとっても大事なのでは?と踏んでいるので、子どもが自然をありがたがっているかどうかは知らないけど(笑)、家族全体としてはよかったんじゃないかな、と思ってます。

雄一郎:特に自然を意識しなくても、家の周りの風景が、夏は緑に、秋は赤や黄色に、冬は茶色に変わっていく。初夏は柑橘の花の芳香がそこかしこで漂って、田んぼがすがすがしい緑になって、豊かな稲穂が出てきて、すべてが黄金色に色づいていく。こんな景色が常に目の端に入っているのはやっぱりありがたい気がするな。

麻子:「ふつうに自然がいっぱい」という感じは、都会暮らしを体験した身としては贅沢。庭で野菜を育てたり、庭に鳥が来たり、星がよく見えたり…

雄一郎:保育園や学校でも、芋掘りはもちろん、アユ釣りとか、田植えに収穫体験、収穫したもち米で餅つきをやったり、椎茸を育てたり…都会育ちの僕たちからすると驚くような体験がいろいろできてすごいよね。

実際は――近いようで遠い大自然

麻子:ちょっと車を走らせれば、清流があったり、滝があったり…という意味では、ある意味「レジャーの地産地消だな」とも思う。フードマイレージならぬ、レジャーマイレージ。散歩感覚で大自然を味わえる。

雄一郎:子どもたちはと言えば、もちろんたのしんでくれた気はするけど、どちらかと言うと「それが当たり前」(笑)。年が大きくなると、無邪気に外に出たがる感じでもなくなるし、まぁ「効果のほど」はわからない。

麻子:最近は畑にも一緒に来てくれない…(苦笑)。あと、住む場所によっては徒歩圏に同年代の子どもが少ないことも。少子高齢化をリアルに感じます。「子どもたちだけで近所を出歩いて、一緒に遊んだり、いろいろ探索する」みたいなことは、都会よりもむしろしにくいかな、と感じる部分もある。

雄一郎:たしかにそう。どこに行くのでも親が車で送っていくような感じは、特に年齢低学年のうちはあったよね。自転車に乗れると少し行動範囲は広がるけど、中山間地域は起伏が激しくて、都会のように「自転車でスイスイ」というわけにはいかなかったり…(笑)。

麻子:自力で行けるとしても、最近はどうしても「川は危ないから子どもたちだけで行っちゃダメ」とか、「人通りの少ないところに行かせるのは心配」とかあるから…。そう言えば、うちの回りには「自然」はあっても「公園」が全然ないから、「子どもたちがのびのび遊べる場所」というのは意外に限られてる部分もあるかもね。

雄一郎:たしかに。「自然が豊か」だからこそ(?)の逆転現象。

子どもたちだけでは行かせられない川遊び

進学の制約と可能性

雄一郎:実際に地方で子育てしてみて「これはすごく大きな違いだな」と思ったのは、大学はもちろんのこと、高校さえも近くになかったりして、「高校から家を出る」というパターンがままあること。

麻子:これにはびっくりした。地元の公立中学でさえ、家が遠い生徒向けの寮があったりする。

雄一郎:うちも、特別支援学校に通ったいちばん上の子は中学から寮に入り、真ん中の子は中学受験してみたいと言い出したけれど、受験できる中学がどこも遠すぎて、結局は全寮制の中学を選んで12才で家を出て行った。必要に迫られて自立が促されるというか…。中学にして「道を切り拓く!」感はあるね。

麻子:これはもう「メリット」と捉えることにしました(笑)。もちろん、大きな制約ではあるし、経済的な負担を伴う部分もある。結果として「選択肢が狭まる」ところもあるから、全体としてはすごく難しい問題だけど。

自転車の練習も段々畑の中だった

「ないものだらけ」のようだけど…

雄一郎:教育の選択肢は都会の方が圧倒的に多いし、より多様だったり、より「時代の変化」に敏感だったりもすると思うので、その辺はやっぱり地方は不利だよね。一方で、都会のような「受験の過熱」がないのは、“自然派の親”としてはうれしい。

麻子:受験以前に、塾に通っている子があまりいないというか、塾自体が近くにないというか…(笑)。

雄一郎:たまたまうちの子供たちの公立小学校は探究的な学びを推進しているので、偏差値的な競争原理とは無縁の世界で、子どもたちがSDGsはじめ、より本質的なじっくりした学びの中に身を置かせてもらえているのはすごくありがたいことのような気がする。

麻子:メリットもあれば、デメリットもある。さらに、「制約がチャンスに変わる部分」も。一般的には、地方の子育ては「ないものだらけ」のようにも捉えられるかもしれない。大きくなったら、たぶん都会的な暮らしを選ぶことになるんだろうな。それも価値あるシフトだと思う。そして、その後の人生のどこかで「子供時代に自然の近くで暮らしたこと」が効いてくることもあるかもしれないし、ないかもしれない。

雄一郎:個々の子どもにとってどうかはわからないよね。「田舎がイヤで都会に出ていく」人も多いだろうし、「都会育ちだから自然が新鮮で惹かれる」というパターンもあるだろうから。でも、社会全体にとっては、「自然の近くで育つ」という原風景を持つ人がいなくなってしまったらバランスが悪い気がするから、そういう意味ではやっぱり貴重なことではある気がする。

麻子:「都会よりもいい」と一元的に言うことなんてできないけど、「都会にいると見えない景色が広がっている」のは事実だよね。うちの子たちも、こうして自然の近くで育って、将来どうなっていくのかな? たのしみです。

空も広くて、星もよく見える


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服部雄一郎 服部麻子

神奈川生まれ。バークレー、南インドを経て、高知の山のふもとに移住。 ゼロ・ウェイスト、サステイナブル、ギフトエコノミーを取り入れた暮らしを家族で楽しむ。著書に、『サステイナブルに暮らしたいー地球とつながる自由な生き方―』『サステイナブルに家を建てる』(アノニマ・スタジオ)。(写真 衛藤キヨコ) Instagram:@lotusgranola