SDGs時代のランドセル考~いちばん大切にしたいのは?|服部雄一郎・麻子さんに聞く暮らしのアイデア

海外で人気のライフスタイル「ゼロウェイスト」。日本でも少しずつ聞くようになってきて、「ごみを減らしたい」「捨てる以外の方法が知りたい」という声をよく耳にします。その一方、大量に出るごみを前に、どこから手をつけたらいいのかわからないという声も少なくありません。

そこでLife Huggerでは、「サステイナブルに暮らしたい」「サステイナブルに家を建てる」の著者で、ゼロウェイスト生活を発信する服部雄一郎さん、服部麻子さんとのコラボレーション企画として「服部雄一郎・麻子さんに聞く暮らしのアイデア」の連載をスタート!

第25回目となる今回は、ランドセルの選び方【後編】です。

「素材」と「質」を考える

麻子前編ではわが家の3人の子どもたちのランドセル歴についてお話ししました。「新品」「お下がり」「なしで済ませる」と三者三様だったわけですが、エコ視点から見れば、まず考えられるポイントは「素材」と「質」かな?

雄一郎:そうですね。ランドセルの素材は、大体「本革」と「人工皮革」の2通りに分かれるようです。

麻子:人工皮革というのは、つまりプラスチック。

雄一郎:そう。真ん中の娘のランドセルを買った頃は、僕もまだ自分の中でアニマルウェルフェアの観点がうすくて。ひたすら「なるべくプラスチックフリー!」「長く使える自然素材!」と思っていたので、迷わず牛革のものを選びました。ただ、今になってみれば、そんなに単純な話でもないよね。畜産業の環境負荷という点を取っても、シンプルに「こっちの方がいい」とは言いきれない気もする。

麻子:6年間、あるいは次の子にゆずってそれ以上の期間、長く大切に使うことを考えれば、むしろ「耐久性」や「質」の方が大事かも?まあでも、どんなランドセルでも普通6年くらいはもつかもしれないけど…。あとは、「使いやすさ」(軽さ)や、使い続けたいようなデザインかどうか、といった部分かな?

雄一郎:うちは、末っ子が譲ってもらったランドセルは人工皮革の「クラリーノ」でしたが、改めて繰り返すまでもなく、お下がりはいちばんのエコ。新たな消費を加速しないわけですから。プラスチック問題を意識する方々は「人工皮革か、牛革か?」と悩まれるかもしれないけれど、エコ視点から見れば、素材云々よりも「中古一択!」だと僕は思います。人工皮革にも利点はいろいろあるようですしね。

クラリーノのランドセル。圧倒的に軽量なのは◎

考えておきたい「そもそも論」

麻子:だけどね、わたしは「どのランドセルを選ぶか」以前に「そもそもランドセルって必要?」と思ってる。

雄一郎:僕も(笑)。

麻子:ランドセルを背負った1年生を見かけると、かわいいな~と思うけど。でも、決して安くはないランドセルをみんなが「1年生になる前に絶対買わないと」みたいになっている現状はやっぱりちょっと…。

雄一郎:そもそも海外にはランドセルなんてないし、つまり「本当に必要」なわけではないからね。

麻子:「6年間の使用に耐える丈夫さではランドセルが一番」などという声も聞くけれど、1年生には重すぎると思う。逆に高学年の大きな子たちが体のサイズに合っていないランドセルを背負っているのも、「これでいいのかな」と見ていて感じてしまうし…。

雄一郎:そういう意味では「6年間使える丈夫さ」も、そもそもの前提にはなりえないよね。

ランドセル姿の子どもたちは絵にはなりますが・・・

麻子:「6年間大切に使う」ということ自体はすばらしいし、「やっぱりランドセルがいい」と感じる人が使う分にはもちろんいいと思うんです。でも、もっと選択肢があってもいいんじゃないかな。こどもの体力や好みもまちまちだし。もともと軍隊の背嚢だったという特殊な形状のランドセルを、大した根拠もなくそのまま踏襲している。しかも決して少なくない出費をして・・・というのはやっぱり変わっていった方がいいと思う。

いちばん大切なのは「マインドの変化」?

麻子:ランドセルはそもそも「義務」ではないので、つまりはみんなが何となくの慣習と同調圧力で「そういうものなのかな」と思っているにすぎないわけで。その意味では「変化は個人から」というか、ランドセルに限らず、主体的に「選ばない人」が増えてきてこそ、というところがありますね。まあ、使うのは子どもなので、親の考えだけで決められることでもないですが。色々な選択をする人が増えたら「みんなと同じでなきゃ」みたいな感じも薄まる。それで生きやすくなる人もたくさんいるはず。

雄一郎:同じランドセルであっても、色やデザインが多様になったり、中古を使う人が増えたりして、いわゆる「新品ピカピカのランドセル」という画一的な存在感がどんどん相対化されていったらいいな。

前編で、「末っ子がお下がりのランドセルで嫌な思いをしないようにと思ってしまった」という話を書きましたが、振り返れば、ああいう感覚こそが、現状の強化につながってしまっているんだろうなあと思います。時代が変化するには、むしろ保護者自身が「ランドセルなんて、実はどうだっていいんだ」というところを忘れずに、デンと構えている必要があるんだと思う。

麻子:そもそも学校に教科書を持っていくバッグですからね…

雄一郎:親が子どもの気持ちに寄り添ってあげるのはすばらしいことだし、実際必要なことだと思うんです。だから、単に「ランドセルなんて必要ないんだから、なしでいい!」とかいうことではなくて。子どもが欲しがるのなら買えばいい。でも、親が率先して「ランドセルは大事だから絶対に買わなきゃ!嫌な思いをしないように!」と思って買うのと、「別になしでもいいと思うけど、欲しい?じゃ、買う?お下がりも素敵だよ?」というのとでは、同じ「買う」でも全然意味合いがちがってくると思うんですよね。

麻子:このSDGs時代、やっぱり慣習的な消費に埋没せず、モノの本当の価値について考えていきたい、というのはあるし、子どもたちも、願わくばそういう大人に成長していってほしい。そういう意味では、「どんなランドセルを買うか?」「新品と中古のどちらがいいのか?」という以上に、「ランドセル自体にどう向き合うのか?」という部分が大きいのかなと。いちばん大切なのは、そういったプロセスやマインドの変化なのかもしれません。

雄一郎:うちの子どもたちが親世代になる頃には、ランドセル、きっとずいぶん違う状況になっているんじゃないかな?よい変化を待ちたいです!

【⬇︎前編はこちら】

脱・ラン活!エコ視点から見るランドセル選び|服部雄一郎・麻子さんに聞く暮らしのアイデア


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服部雄一郎 服部麻子

神奈川生まれ。バークレー、南インドを経て、高知の山のふもとに移住。 ゼロ・ウェイスト、サステイナブル、ギフトエコノミーを取り入れた暮らしを家族で楽しむ。著書に、『サステイナブルに暮らしたいー地球とつながる自由な生き方―』『サステイナブルに家を建てる』(アノニマ・スタジオ)。(写真 衛藤キヨコ) Instagram:@lotusgranola