農業×福祉 多様性に価値を見出す認証マーク「ノウフクJAS」

商品の品質や性能、安全性などを第三者機関が審査・証明する「認証マーク」。農薬や化学肥料などに頼らず自然界の力で生産された食品に表示される「有機JASマーク」、水産資源と環境に配慮し管理された水産物につけられる「MSC認証」、発展途上国の製品が公平な条件で取引されていることを認証する「フェアトレード認証」などさまざまな認証マークがありますが、今回はまだあまり知られていない「ノウフクJAS」についてご紹介します。

「多様であること」に価値を見出す認証マーク

ノウフクJASブランドの特徴とノウフクJAS認証マーク ©︎一般社団法人日本基金

ノウフクとは、ノウ(農林水産業)とフク(福祉)の連携で起こる価値を表現した言葉。「ノウフクJAS」は障がいのある人が生産に携わった食品であることを示す認証マークです。

2019年に制定された日本農林規格「ノウフクJAS」の正式名称は、「障害者が生産行程に携わった食品の農林規格(平成31年3月29日農林水産省告示594号)」。本来の主旨は、「みんなが地域の一員となり、一緒になって地域を作っていく」その取り組みを評価するというものです(農林水産省ホームページより)。

農林水産省のホームページによれば、規格とは本来、均一さや効率を求めるものですが、ノウフクJASは「多様であること」に価値を見出します。産地や品種、栽培方法を軸とするブランドではなく、農福連携商品の背景にある社会的価値を認めるこの規格によって、障害がある人だけでなく、すべての人が多様性を受け入れるきっかけになればと期待されています。

障害者の社会参加と農業の担い手不足を補う

障害者の農業分野での活躍を促す「農福連携」は今、全国で広がっています。2021年度に全国で連携に取り組んだ障害者就労施設と農業者の合計数は「前年度比23.2%増」。障害者の社会参加を後押しすると同時に、農業の担い手不足を補う一石二鳥の取り組みとして、政府や自治体が「ノウフクJAS」の認証や表彰で支援する事例も増えています。

農福連携は政府が2016年に打ち出した「ニッポン一億総活躍プラン」に盛り込まれたことなどから国や自治体の推進施策が拡大。「ノウフクJAS」はそうした動きの中で生まれた制度で、2020年には優良事例を表彰する「ノウフク・アワード」もスタートしました。さらに、2024年度には農福連携に取り組む組織や農業者を2021年度より約3割多い7000以上にする計画です。

これまでに「ノウフクJAS」の認証マークを受けたのは全国に約50社。認証第1号となった長野県南部の松川町でリンゴを栽培する(株)ウィズファームは、認証を取得後、販路の拡大や利用者の工賃アップにつながるなど少しずつ効果を感じているそうです。また、京都府で地域特産の宇治茶、田辺なす、万願寺とうがらし、えび芋などの生産、加工、販売を行うさんさん山城(社会福祉法人京都聴覚言語障害者福祉協会)は、「生鮮食品」と「加工食品」の認証を取得。認証マークの審査の過程で作業をマニュアル化し、業務を効率的に運用できるようにもなったようです(参考:ノウフクWEB

誰もが働きやすい環境づくりの後押しに

ノウフクJASの対象は、障害者が野菜の栽培や牛の飼育、魚の水揚げなどの生産行程に携わった「生鮮食品」と、これらを1種類以上使った「加工食品」など。認証を受けるには、まず一般社団法人日本基金など登録認証機関に申請し、書類審査、実地検査を経て、1カ月半ほどで結果が出ます。認証までの費用はそれぞれ各約15万円で、「生鮮」や「加工」など複数の申請区分を申請すると割引があります。

認証の基準は、「障害者が生産行程に携わった食品」という点以外に、障害者が作業しやすい環境をつくることや作業を記録しておくことなどマネジメント体制が求められます。また、認証後も1年に1回は検査を受ける必要があります。

日本は今、高齢化と人口減少によって農林水産業に携わる人が減少し、荒廃農地や担い手不足の問題を抱えています。一方、福祉分野では、障がいを持つ方々も生きがいを持って働く機会が必要とされています。農福連携の動きは、こうした課題解決のカギとなる取り組みとして今後ますます注目が集まっていくはずです。

【参照サイト】農林水産省ホームページ「ノウフクJAS」
【参照サイト】ノウフクWEB
【参照サイト】ノウフク・アワード
【関連ページ】有機JASマークとは

The following two tabs change content below.

新海 美保

新海美保(しんかい みほ)。出版社やPRコンサル企業などを経て、2014年にライター・エディターとして独立。雑誌やウェブサイト、書籍の編集、執筆、校正、撮影のほか、国際機関や企業、NPOのPRサポートも行っている。主なテーマは国際協力、防災、サステナビリティ、地方創生など。現在、長野県駒ヶ根市在住。共著『グローバル化のなかの日本再考』(葦書房)ほか