かつては生活のなかで使われていた暮らしの道具たち。家主がいなくなった家の中には、そうした空き家の残置物といわれるモノたちが残ります。まだ十分使えるのに、持ち主の思い出ごと、ごみとして捨てられてしまう古道具たち。
本当は価値があるはずなのに、まだ使えるはずなのに捨てられてしまうなんて「もったいない」。そんな想いで空き家の残置物をなくすことを目指しているのが、富山県高岡市で古箪笥を中心とした古い家具のアップサイクルや、古い食器や雑貨のリユースを行う株式会社家’sです。
自身が空き家のリノベーションに立ち会った経験から、そんな想いを抱いたという代表の伊藤昌徳さん。今回は、空き家の「ごみ」からアート作品のような一点モノの家具を作り出す伊藤さんに、事業を始めた経緯やこだわり、未来に対する想いなどを伺いました。
活動の原点は、「これ本当に捨てていいの」という疑問から
元々は地域創生に興味があり、縁あって富山県高岡市の古民家でゲストハウスの運営を行っていた伊藤さん。空き家のリノベーションで、家の中にある古い家具や道具といった残置物がほぼすべて廃棄されていく現状を目の当たりにしました。伊藤さん:かつては、暮らしの中で使われていたモノが、人の人生の終わりとともに、いとも簡単に捨てられてしまうことにショックを受けました。また、実際ゴミの最終処分場に訪れた際、広大な埋立地が想定以上のスピードで埋まってきていること、そしてこれ以上埋立地を拡大するのは難しいという現状を知り、危機感を覚えました。今も目に焼き付いているその光景に、空き家のごみが大量に廃棄されていく目の前の状況が重なり、どうにかしなければと思いました。
ちょうど同じ頃、伊藤さんは、住宅事情や生活様式の変化から伝統的な嫁入り道具であった桐箪笥の処分に困っている方が多くいることを知りました。そして、まだ使える箪笥を邪魔だからという理由で捨ててしまうのは「もったいない」と感じたそうです。
伊藤さん:箪笥を置くスペースがない、インテリアに合わないなど、さまざまな理由で箪笥を処分したいと考える人は少なくありません。ただ、昔ながらの桐箪笥は防湿や防虫効果に優れ、保湿効果も高く、日本の気候に最適の収納家具です。そこで時代に合うようにアップデートし、今の人たちにもっと使ってもらいたいと思いました。
空き家のゼロウェイストをめざして、古道具の魅力を世界へ
古い箪笥のアップサイクルをはじめたことで、家具の引き取り依頼が増えたという伊藤さん。実際に引き取りに行く先は終活や資産売却のために家の残置物を処理したいというケースがほとんど。箪笥以外にも食器などの雑貨や道具など、「不用品」として捨てられていく運命のモノがたくさんあります。そこで伊藤さんは、残置物として捨てられてしまう食器や雑貨のなかから、今の時代に取り入れやすいものをセレクトし、骨董市やポップアップイベントで販売することにしました。
伊藤さん:アップサイクル家具は、価格やサイズの点で誰もが気軽に購入できるわけではありません。食器や雑貨などの残置物は、数百円からと買いやすい価格なので、古い食器や雑貨を使うのは初めてという方にもおすすめです。
家具のアップサイクルや食器や雑貨のリユースなど、さまざまな形で古いモノたちに新しい活躍の場を作ってきた伊藤さん。しかしながら、空き家の残置物廃棄ゼロへの道のりはまだまだ遠いそうです。
伊藤さん: 引き取り現場の不用品の中で、10%は「骨董」として、そのままでも価値があり流通させることができます。そして20%くらいはアップサイクルで新たな価値をつけることで再活用する道があります。しかしながら、いまのところ私たちができるのはそこまで。残りの70%は捨ててしまうしかないのが現状です。
こうした現状を打破するため、伊藤さんは日本の古い家具や雑貨の魅力を多くの人に伝え、次の100年も使い続けてもらうため、海外のマーケットに目を向けています。
伊藤さん:販路を増やすという意味で、海外展開する準備を進めています。日本では受け入れられないデザインのものでも、海外の人の感性には響く可能性があるのではないかと。より多くの人に手にしてもらうことで、捨てられてしまうモノの割合を少しでも減らしていきたいです。
心を動かすモノとの出会いが、エシカル消費につながるように
家具のアップサイクルでは、とにかくデザインにこだわったモノづくりを行っている伊藤さん。家’sのアイテムがある空間をイメージするとワクワクする。そんな体験をしてもらいたいと話してくれました。
伊藤さん:アップサイクルだから、エシカルだから買うというのではなく、カッコイイ、かわいい、感動するからそばに置きたい、手に入れたい。そんな心が動くモノとの出会いを大切にしてほしいです。そして、買ってみたら結果的にそれが環境や社会に良いものだったというのが理想です。エシカル消費が広く浸透していくには、まず我々作り手・売り手側に責任があると思います。
伊藤さんの言葉のように、高岡市にある家’sの店舗に並ぶアップサイクル品はまるでアート作品のよう。どれもが唯一無二の輝きを放っています。
伊藤さん:古い桐箪笥にアクリルなどの異素材を貼り合せてアーティスティックに作り込んだり、塗料や金具にこだわりヴィンテージ風にアップサイクルし、現代のインテリアにもマッチするスタイルに仕上げたり。桐箪笥本来の魅力を活かしながら、でも固定観念にとらわれないようにアップサイクルしています。
また、伊藤さんは古い家具や雑貨を使ったインテリアの提案にも力を入れています。一般的に和箪笥は和室へと思いがちですが、実はリビングにやキッチンに置くことで、部屋をおしゃれに、洗練された雰囲気にすることができるとのこと。
伊藤さん:長く日本で使われてきたものは、もともと日本の家屋や生活に馴染むものです。それを現代のセンスでアレンジし、こういう使い方をしたらおもしろいという提案をしていくことで、古い家具や道具がある暮らしのイメージを持っていただけるのではないかと思います。
最後に、古い家具や雑貨のアップサイクルやリユースを通して、100年先の未来に伝えたいモノや想いについて、伊藤さんにお話しを伺いました。
伊藤さん:昔ながらの日本のものづくりは、経済合理性を今ほど重視していません。そのため、質・デザインともに長く使えるように作られた、質の良いものが多い。現代の我々も質の良いモノを残していけば、100年先にはそれらがヴィンテージやアンティークといった価値を持つようになります。先人のものづくりから学び、今だけではなく100年先の未来でも「使いたい」と思うような暮らしの道具をひとつでも多く残していきたいです。
編集後記
以前、IDEAS FOR GOODの展示会場で出会った家’sのアップサイクル箪笥。芸術作品のような個性と美、そして洗練された現代的なデザインに感動を覚えました。ところどころに細かくついた傷は、誰かが暮らしてきた証。まさに世界にひとつだけのオリジナルです。家’sに出会い古い道具の魅力を再発見したことで、筆者も実家の古い桐箪笥を続けることにしました。
「古いという理由で捨てられてゆくモノと人とをつないでいきたい」という伊藤さん。こうした想いは空き家のゼロウェイストにつながり、環境や社会に良い影響を与えます。
何十年も時を経てきた古い家具や道具が、今を生きる私たちの生活を彩り、次の100年へと引き継がれていく。過去から今、未来に。そして日本から世界へと、家’sの手がけるとモノと想いは、100年後の未来にも語り継がれてゆくはずです。
(取材・文:和田みどり)
今回ご紹介した家’sで扱っている家具や食器などを実際にご覧になれます!
Life Huggerでは、日本のソーシャルグッドな情報を世界に発信しているZenbirdと共に、2022年9月9日(金)に渋谷のTRUNK HOTELで開催予定のイベント「MoFF2022」にて、キュレーション展示「100年先へ作り手の想い伝える」を行います。この展示において、家’sで扱っている家具や食器などをご紹介いたします。実際に手にとってご覧になりたい方は、ぜひMoFF2022にお越しください。
MoFF2022について、詳しくはこちらをご覧ください。
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【参照サイト】株式会社家’s|アップサイクル家具|富山 – yes
【関連ページ】Upcycled Japanese Furniture|Zenbird
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