南米エクアドルの村で、有機農園や加工品の製造販売、日本のコーヒー会社やNGOのサポートをしながら、家族と共に自給自足的な暮らしをしている和田彩子さん。20年以上過ごしているエクアドルの地で感じることは? エクアドルに来たきっかけや、暮らしの中で感じる豊かさ、ウェルビーイングについてお聞きしました。
ナマケモノ倶楽部および株式会社ウィンドファームのエクアドルスタッフ。1999年にエクアドルをめぐるエコツアーに参加し、現地の自然とそれを守ろうとしている人々に感銘を受け2002年より長期滞在中。エクアドルでの環境保全やフェアトレードの取り組みを伝える傍ら、家族で「有機農園クリキンディ」を営みながら、手作りの暮らしを模索中。三児の母。
卒業旅行のついでにエコツアーに参加
-まず、エクアドルに来たきっかけを教えてください。
和田さん:エクアドルには、大学の卒業旅行として1999年に初めて来ました。
当時は環境問題にそこまで興味がなかったのですが、たまたまご縁あって参加したエコツアーでインタグという場所に行った時に、現地の人々の明るさに衝撃を受けたんです。大企業による鉱山開発問題に揺れていて、一般的に言うところの貧困地域に住んでいるのに、山盛りのお豆やご飯をごちそうしてくれたり、踊ったり、とにかく明るくて。それまで持っていた「環境問題への反対活動はストイックで厳しいもの」というイメージが覆されました。
活動のリーダーであるカルロス・ソリージャさんが管理していた保護区に行ったのも、良い経験になりました。カルロスさんの家のそばにあった滝で感じた鳥の声や水の流れ、澄んだ空気があまりにも心地よくて「またここに戻ってきたいな」と思ってしまったんです。
SEとして働いた後、エクアドルへ
-エクアドルから帰国後は、いったん日本で会社員として働いたのですよね?
和田さん:はい、当時はシステムエンジニア(SE)としてスキルを磨いた後に国際協力の仕事に就くつもりだったので、SEとして働き始めました。一方で、インタグをはじめとするエクアドルの地域の支援やスローな暮らしの素晴らしさを伝えるNGO「ナマケモノ倶楽部」のイベントのお手伝いをするように。それで、インタグの鉱山開発問題をより深く理解し「もう少し関わりたい」と考えるようになりました。
そんな中、社会人3年目の時に会社から転勤を打診され、悩んだ末「これが区切りかもしれない」と思い、退職を決意。次の仕事の前に「ちょっと行ってみよう」という気持ちで、1年間滞在できるボランティアビザを取ってエクアドルに行きました。
-それが2002年のことですね。エクアドルに行った後は何をしたのですか?
和田さん:当時、ナマケモノ倶楽部とも深い関わりがあるフェアトレードのコーヒー関連の企業、株式会社ウインドファームの中村隆市さんが、各国の生産者を呼びエクアドルで「有機コーヒーフェアトレード国際会議」を開催しようとしていたんです。それで、私が志願して現地スタッフとして開催準備を担当することになりました。
私は高校時代にチリに留学したことがあったのですが、仕事としてスペイン語を使うのは初めて。ラジオ局でのPR、会場の手配、出演者との交渉など何から何まで担当し、そのおかげでほとんど忘れていたスペイン語が一気に上達しました。多分若くて馬力があったからできたのだと思います(笑)。
-なるほど。素晴らしい経験をされたのですね。国際コーヒー会議の後は、エクアドルでどんな活動をしたのですか?
和田さん:引き続き、ウィンドファームの取引のサポートやエコツアーのアテンドをしました。特に印象に残っているのは、インタグのコーヒー生産者を訪ねた時のことです。5時間歩いてようやく村に到着すると自家製レモネードで労ってくださり、自分たちで作った食材で作った料理を出して、快く家に泊めてくださる方ばかりで。
こういう経験を経て「こういうことが、本当の豊かさなのかもしれない」と思うようになりました。そして、気づいた時には「自分も農業をやってみたい」という気持ちが芽生えていました。
エクアドルで「育てる」ことをスタート
-1年の滞在後は、どうしたのですか?
和田さん:日本に帰ったのですが、エクアドルでの体験が鮮烈すぎて、数か月後にボランティアビザをとり、またエクアドルに戻ってきてしまいました。エクアドルでは、誰にも遠慮することなく、森を歩き、人々と触れ合い、いろんな感情が自分の中に素直に浮かんできていました。それをまた体験したかったんです。
それで、まずはコタカチ郡に滞在しながら、ウィンドファームやナマケモノ倶楽部の現地スタッフの仕事を続けることに。同時に、小さな畑で野菜や果物を育て始めました。料理、コンポストや再生可能エネルギーについても学ぶ機会があり、充実した毎日でした。
そうやって日々を重ねる中で今のパートナーに出会い、2005年に娘が生まれたんです。その時に「ジタバタしてても仕方がない」と、エクアドルで暮らす覚悟ができました。
-今住んでいる村に引っ越したのはいつごろですか?
和田さん:コタカチ郡にもほど近いこの村に2006年に土地を購入して、引っ越しをし、もともとその土地にあった家に住みながらストローベイルハウスをDIYで6年半かけて作り上げました。
土地を買ったのは「農業をやってみたい」という思いがあったからです。土地を購入するから永住するつもりではありませんでしたが、「寝る場所と食べ物を育てる場所があれば、ここで外国人として暮らす上でも何とかなるかな」という思いもありました。
-そうして、20年近い月日が流れたのですね。
和田さん:はい。今は、ここで暮らしているのがすごく普通で、自分の居場所があるような気がしています。多分、水が合っているんですよね。この村では、有機栽培やコンポストなど他とちょっと違うことをしていても、私はそもそも人種が違う「ちょっと違う人」だから、良い意味で放っておかれるのが心地よいです。
エクアドルで作り上げた、サステナブルな暮らし
-今の暮らしについて聞かせてください。和田さんが、暮らしで大切にしていることは?
和田さん:その土地らしさを大切することです。家や暮らしの道具は、なるべく地元のものを使って作っています。また、自分たちの農園「クリキンディ」では、土地に合った野菜や果物を栽培し、できたものを加工品にして市場などで販売しています。
今はパートナーが野菜づくり、私が加工品づくりを担当しています。最初はトマトソースやジャムを作っていたのですが、日本人・アジア人の私だからできるもののほうが説得力があるということに気づいてからは、ここにある素材を使いながら味噌、豆腐、餃子、キムチなども作って売っています。
「エクアドルの農園の暮らし」と聞くと、コーヒーを飲みながらボーッとしているイメージかもしれないですが、実際はやることがいっぱいあって、けっこう忙しいです(笑)。いろいろ作るには、時間も手間もかかるし、失敗もあるし、ゴミを出さないようにすればするほど山ほど洗い物が出るし、ヘトヘトに疲れますが、美味しいもの、素敵なものができるとその疲れも吹っ飛びます。
この地域を、本当の意味での環境保全郡にしたい
-今後、やっていきたいことは?
和田さん:私がコタカチに来るきっかけとなったのは、コタカチが環境保全郡宣言をし条例を発令したからです。でも実際に住んでみると自然エネルギーや水の再利用もほぼなく、まだまだの部分がたくさんあり、「コタカチは環境保全郡です」と自信を持って言えるようになりたいと思い続けてきました。それが全ての活動の原動力になっています。
今は子どもたちが子どもたちらしく成長できるようなオルタナティブな学校づくりに、仲間と一緒に取り組んでいます。学校としての体裁が整い、2023年9月に開校しました。ただ、まだ教育省に認可されていないので必要な準備を進めています。また、教室数が圧倒的に足りないので資金集めにも奔走しています。
また、小規模な生産者が集まってオーガニック市場を定期的に開く活動も続けていきたいです。
さらに、インタグの鉱山開発のオルタナティブとして森林栽培のコーヒーやカカオを作っている生産者の応援も、続けていきたいです。特にチョコレートの生産は、カカオ栽培だけでなく、カカオを加工したり、他の生産者が作るきび砂糖を使うことで生産者の輪を広げていくことにつながったり、カカオが栽培されている森で育てられているフルーツやスパイスを使うことで森がさらに豊かになったりと、いろいろな意味で広がりがあります。
インタグの鉱山開発は先日、裁判で「開発は憲法違反である」という判決が出て、企業がこれ以上、活動できなくなりました。これは本当に明るいニュースです。まだ調査のために掘られた約90個の穴を閉じる必要があるので、今後も仲間と共に問題解決に向かって活動を続けていきます。
これからもつながりを大切に、エクアドルで日々を重ねていきたいです。
編集後記
お話を伺いながら、一番心に残ったのは「エクアドルは、水が合う場所」という言葉です。森で感じた心地よさや「問題解決の力になりたい」といった自分の心の奥底にある思いを大切にし、良い意味で流れに身を任せ、自然体で日々を重ねる。そんな和田彩子さんの道のりは、あらゆる人が生き方を考える上でのヒントになるのでは、と感じました。
【お知らせ】
2023年10月から、和田彩子さんのサステナブルな暮らしのあれこれを伝える連載をスタートします。お楽しみに!
(文:曽我美穂、編:わだみどり)
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曽我 美穂
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