荒川の「今」を映し出す。海洋プラスチックでつくるSDGs アクセサリー「aid to 」

aid to

全長約173km、埼玉の秩父から東京23区の東側、東京湾に注ぐ河口までの首都圏の広域を流れる荒川。その河川敷の土に混じっている白や黒、またカラフルな小さな粒たち。それらは、荒川流域から排出されたマイクロプラスチックと呼ばれる5mm以下のプラスチックです。マイクロプラスチックは荒川の河口から東京湾に流れ出て、海洋プラスチックとして海の生態系に影響を与えます。

こうした荒川のマイクロプラスチック問題を、アクセサリーを通して多くの人に知ってもらう。プラスチックを否定するわけではなく「使命を終えたプラスチックにもう一度光をあててみる」。そんな想いで誕生したのが、荒川のごみ問題に取り組んでいる「NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム」のアクセサリーブランド「aid to(エイドトゥ)」です。

荒川クリーンエイド・フォーラムは、1994年に活動を開始して以来20年以上もの間、荒川のクリーンエイド活動を行なってきました。コロナ以前は、年間で150回以上のごみ拾いイベントを開催。これまでに約1.3万人の方と、荒川の清掃活動を行なってきました。

aid toのアクセサリーには、そんな荒川のクリーンエイドの活動で採取されたマイクロプラスチック(=海に流れ出て海洋プラスチックとなる)が使われています。

今回は、海洋生物学者でオフィスマネージャーの今村和志さんとaid toデザイナーの竹村沙弥佳さんに、ブランドに込めた思いや実現したい100年後の未来についてお話を伺いました。

今村さん

オフィスマネージャーの今村さんは海洋生物の研究者でもあります。

小さな力を大きな力に、「aid to」のブランド名に込められた想い

 aid to
20年前から荒川河川敷のごみ拾い活動を続けてきた荒川クリーンエイド・フォーラム。そうした中で、清掃活動に参加する人の層が広がらないことが課題でした。「これまでのごみ拾いは40代以上の男性の参加者が中心。もっと女性や若い世代などに荒川のプラスチックごみ問題に目を向けてもらいたい」という思いがあったという今村さん。そんな時にスタッフから、荒川のマイクロプラスチックでアクセサリーを作るアイデアが上がったことがブランド誕生のきっかけだったそう。

ブランド名のaid toには、1人の力で解決できないことも、小さな力が積み重なれば大きな力になる。支え合い課題を解決していくのが大切であるという意味が込められています。実際に、aid toを立ち上げてから、性別問わず、幅広い年齢層からの問い合わせが来るようになりました。また、Z世代を中心に荒川クリーンエイド・フォーラムやaid toの運営サポートに関心を持つ人も増えてきたそうです。

デザイナーの竹村さんは、aid toの制作に関わることで荒川の抱える問題についての意識が大きく変わったと言います。

竹村さん

aid toのデザインと制作を担当する竹村さん

「私自身、仕事と子育てで忙しい毎日を過ごすなか、環境問題はどこか遠くのできごとのような感覚がありました。しかし実際に河川敷に足を運びマイクロプラスチックの存在を目の当たりにしたことで、次世代のために私たちができることについて真剣に考えるようになりました。

「aid toのアクセサリーを手に取ることで、子育て世代もこうした問題について親子で話し合うような機会が増えればいいなと思います」

海への最後の砦、荒川の現状を映し出す「荒川モデル」

荒川モデル

荒川の今を象徴する「荒川モデル」のピアスとポニーピン

河川敷の土に混ざっているマイクロプラスチックは、レジンペレットといって成型前の原料が逸出したものと、プラスチック使用の製品が紫外線や風波の影響で細かくなったものの2種類。ビーチクリーンなどでは比較的カラフルな粒が多いそうですが、荒川の河川敷のマイクロプラスチックは、工場などの紙袋からこぼれたレジンペレット由来の白や黒のものがほとんどです。

これらのモノトーンの粒を一つひとつ丁寧に剪定し、竹村さんが鮮やかな見た目のアクセサリーへと生まれ変わらせていきます。「マイクロプラスチックの存在を知ってもらうためには、まずaid toのアクセサリーを『身につけたい』と手に取ってもらう必要があります。マイクロプラスチックをビーズやラメ、グリッターをともに並べ、アクセサリーの素材の一つとして見せるよう工夫しています」

「今後は、荒川の現状を伝えるという意味も込めて、白と黒のマイクロプラスチックをメインに使用しモノトーン基調としたデザインのアイテムを『荒川モデル』として展開していく予定です」

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荒川河川敷のマイクロプラスチックは白や黒のものが多い。

製品の制作過程でも、材料のマイクロプラスチックを洗う際に、目が細かいネットを2重にした中に入れ、排水溝にもネットを設置して洗ったり、製品の仕上げの際に水洗してレジンの粉が排水に流れないよう、ウェットティッシュで一つひとつ表面を拭き取るなど、マイクロプラスチックが排水に混じって流出しないよう、細心の注意を払っています。

一方で、aid toのアクセサリーは、マイクロプラスチックをレジンで固める製法を採用しているため、プラスチックフリーなアイテムではありません。そこには「プラスチックを否定しない」という、今村さんの考えが反映されています。「荒川流域エリアの足立区の学校では、近年人工芝の校庭が増えているので、今後は人工芝由来のマイクロプラスチックが増えてくることが予測されます。砂埃が出ず、コストや養生期間など管理の手間が少ない人工芝の校庭を合理的と考える人もいるでしょう」

「プラスチック問題は私たちの生活の快適さや利便性とトレードオフ。将来的に、環境負荷が低く汎用性が高い、低コストなプラスチックに変わる素材が生まれるかもしれません。それまでは、環境問題とのバランスをみながら、プラスチックとうまく付き合っていくことが大切なのではないでしょうか。」

竹村さん

一つひとつ竹村さんが制作するアクセサリーは、どれも微妙に色や形がことなる一点モノ。

100年後に伝えたい思い、aid toが無い世界とは

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荒川のマイクロプラスチック問題を多くの人に知ってもらい、未来の河川や海を守っていきたいという思いで始まったaid to。売上はすべて荒川クリーンエイド活動の資金となり、未来の荒川のために使われます。

aid toを通して100年先の未来に伝えたいことは?と、今村さんに伺うと「aid toが存在しない未来」という答えが返ってきました。aid toのブランドを存続できない未来とは、荒川からマイクロプラスチックが姿を消した世界ということだと、今村さんは続けます。

「100年先の未来で、親から子に、子から孫に引き継がれたaid toのアクセサリーを眺め、『マイクロプラスチックってなに?』『今はないけれども昔荒川にあったモノ』と、今の荒川の現状を昔話的に語り継いでいってほしいです。レジンの中にあるマイクロプラスチックを見て、荒川の環境を守るために人々が紡いできた思いを感じ、次の100年にも繋いでいってもらいたいです」。そんな未来の荒川での姿を期待していると、今村さんは語ってくれました。

編集後記

ウミガメの研究者でもある今村さんが「海は被害者」というように、海洋プラスチックは人間が作り出したごみが海に流れ出たもの。取材中に何度も聞いた「人が出した街ごみは、人が暮らす場所で片付ける」という今村さん竹村さんの言葉に、何度も深く頷きました。

取材当日一目惚れして購入した「荒川モデル」のヘアピンを眺めながら、100年後にはこの白と黒の小さな粒が、デッドストックな素材として語られる日が来るかもしれない。そんな未来が頭に浮かびました。

「エシカル消費とは、人や環境に良いと思うモノを手に取ったり、サービスを体験することで“エシカル”について考えること」という今村さんの言葉通り、aid toを手に取ることで、多くの人が未来に残したい地球の姿を思い描き、河川や海を守るために自分の行動をちょっぴり変えることができる。そう、期待しています。

荒川のマイクロプラスチックについて説明してくださる今村さん(右)と竹村さん(左)

(取材・文 和田みどり)

今回ご紹介したaid toの商品を実際にご覧になれます!

Life Huggerでは、日本のソーシャルグッドな情報を世界に発信しているZenbirdと共に、2022年9月9日(金)に渋谷のTRUNK HOTELで開催予定のイベント「MoFF2022」にて、キュレーション展示「100年先へ作り手の想い伝える」を行います。この展示において、aid toをご紹介いたします。実際に手にとってご覧になりたい方は、ぜひMoFF2022にお越しください。

MoFF2022について、詳しくはこちらをご覧ください。

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【関連ページ】“Aid To” marine plastic accessories to spread awareness of Arakawa River pollution | Zenbird
【参照サイト】荒川クリーンエイド・フォーラム

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Life Hugger 編集部

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