企業と学生が連携し生み出された「にっぽん食」とは?持続可能で、共食を叶える新しい食事を提案

若者から見た“これからの日本の食”をテーマに共同研究するプロジェクト「にっぽん食プロジェクト」。2023年3月7日に、日本女子大学とミツカングループが2022年春から行っているプロジェクトの1年の成果の報告と、研究結果をもとに学生が考案したメニューが発表されました。

当日は日本女子大学家政学部の教授 飯田文子氏から「にっぽん食」の概念が発表された後、学生たち考案のレシピを元に作ったメニューの試食会も開催されました。現代の若者が抱える食の課題と、彼らが考える“おいしくて体にもやさしい、持続可能な食事”とはどのようなものなのでしょうか。日本女子大学で開催されたイベントの様子をレポートします。

スピーカーは日本女子大学学長 篠原聡子氏(左端)と、株式会社Mizkan Holdings代表取締役社長 中埜裕子氏(右から2人目)、日本女子大学 家政学部食物学科教授 飯田文子氏(中央)、家政学部食物学科 学生の加藤奈々瀬氏(左から3人目)と富沢千翔氏(右から3人目)です。

にっぽん食 全体写真

にっぽん食とは

にっぽん食とは、多様化する食の価値観や山積する食の課題に対して、様々な角度から食を捉えなおすことで、これからの食の概念を表したものです。懐石料理や御節料理など日本で古くから受け継がれてきた“和食”が、食文化の多様化とともに現代の“日本食”となり変化したように、“にっぽん食”も日本食の先にある、未来の食のあり方を示す名称にしているそう。

おいしさや健康にいい食事ということはもちろん、持続可能性や日本らしさ、一緒に食卓を囲んでコミュニケーションをとりながら食事をする「共食」を大切にすることなど5つの項目を満たした食のことをいいます。

にっぽん食

新しい食の要素は「共食」と「簡便さ」

プロジェクトの開始とともに、飯田研究室の学生2名は、学生及び社会人へのアンケート調査を実施し、これからの食を担う若者特有の食意識について探りました。その調査の結果、新しい食の要素として、「共食」”と「簡便さ」が、キーワードとして浮かび上がってきたそう。

「食の簡便さは、時間効率が価値となってきた現代において調理を続けていく上でも重要な要素と考えています。今年度の学生調査から浮かび上がった若者の食意識として最も特徴的な点が共食でありました。この共食の背景には、若年層の孤食の問題もあると思われます。」(飯田氏)

にっぽん食 授業風景

その後、約半年にわたり、学部・学科を越え日本食やおいしさについて考える講義やワークショップなどを実施。ミツカングループは、食品メーカーが味をどのように見える化しているのかを講義したり、これからの食で大事にしていくことについてディスカッションを行うなどの協力をしてきました。

その中でにっぽん食について学生が意見を出し合い、「おいしさと健康の両立」「共食」「作り手にやさしい持続可能な食事」などこれからの食に関しての様々なアイデアが集まり、それらを統合し、にっぽん食の概念やメニューが形になったそうです。

若者が提案する「にっぽん食」の味は?

配膳してくれた学生のみなさん

次の試食会では、実際に学生の方が考えたメニューを試食することができました。

今回試食したメニューは、外来食を酢や醤油といった伝統的な調味料を使って日本風にアレンジした「土鍋パエリア」や「カオマンガツオ」、電子レンジを活用し簡単・時短で調理ができる「酢ナッツ和え」や「小松菜の柚子胡椒和え」、日本人にとって馴染み深い料理をアレンジした「ブリのかつお節焼き」、酢を使ったさっぱりとした味わいの「ぽん酢と柑橘のゼリー」の6品。

今回試食した6品

アンケート調査で浮かび上がった共食と簡便さを意識しながら、外来食を日本風にアレンジしたり、伝統的な和食の一品を今風の味に仕上げたり、どれも薄味で食べやすく、若者だけでなく世代を問わずに食べられる味に仕上がっていました。

配膳をしてくれた学生の方に今回のプロジェクトで苦労した点を聞くと、にっぽん食という新しいコンセプトの元、一からメニューを作っていくことが難しかったと答えてくれました。それぞれ家で試作をした料理をもちあって授業で意見交換したとのこと。なかには同じ料理を配分を変えて5種類作ってみたという人もいました。

「にっぽん食」への期待と若者が主導していく意義

今回のプロジェクトに対し、篠原学長は「若い学生の感性が新しい日本の食文化を開いていくのではないかと大変期待している」と語りました。またミツカングループの中埜社長も「次世代を担う若い皆さまの柔軟かつ新しい発想を活かしながら、ともに活動していただける点がこの取り組みの素晴らしいところ」とし、商品化の予定は今のところないものの今後もこの取り組みを続けていくことを表明していました。

日本女子大の学生、富沢千翔さん(左)と加藤奈々瀬さん(右)

イベントで発表を担当した、家政学部食物学科の加藤さんは、プロジェクトを通して学べたこととして「各講義を通して他学科の学生や多方面のプロの方の意見を聞くことで自分の視野を広めることができたことが学びにつながりました。また、日本食の奥深さを知り、今後にっぽん食を提案していくことの難しさを学びました。」と述べていました。

また若者がにっぽん食を提案することの意義として、同じく学生代表として発表を行った富沢さんは、「今後の食を担っていく世代としてにっぽん食という新たな食文化や食の形態を考えていくことは非常に大切だと考えています。SNSが得意、発信力がある世代としてこのようなプロジェクトに関わって発信していくことは意義があると感じています。」と語ってくれました。

編集後記

今回の発表で一番驚いたのが、若者の食の簡素化です。欠食も少なくなく、ゼリー食や炭水化物抜きの簡易食など、ただ空腹感を満たしているだけの人も多いことに驚きました。また、一人暮らしの場合は、忙しくて食事がおろそかになったり、ダイエットのつもりで食事の量や回数を減らしたりする人も少なくないようでした。

今回のにっぽん食のプロジェクトは、若い学生自らが、自分たち世代が直面している食の課題の解決のため、調理の手間を減らしつつ、栄養バランスがとれたメニューを提案することで、継続して食事作りを行いやすくしていくことを目指しています。それだけでなく、日本の食材や調味料を使って食材の使いまわしをすることで、自給率向上や食品ロスを削減できるようなさまざまな観点で考えられており、これからの日本の文化を自分たちの手で作っていくという気概を感じることができました。

にっぽん食プロジェクトは次年度以降も継続していくとのことなので、このプロジェクトを通して、今後の食事が豊かになるようなアイディアやレシピがたくさん生み出されていくことに期待したいです。

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Life Hugger 編集部

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