近年、世界各地で深刻化する水不足問題。ニュースなどで耳にする機会が増えたのではないでしょうか。地球上にはたくさんの水があるように思えますが、実は私たちが使える水はごくわずかです。水不足問題は、私たちの生活や地球環境にどのような影響を与えるのでしょうか。
この記事では、水不足問題の原因や、それがもたらす問題点について詳しく解説していきます。また、私たち一人ひとりが水不足問題に対して日々の生活の中でできることについても紹介するので、ぜひ一度見つめ直してみてください。
水不足の現状
世界では深刻な水不足が進行しており、状況はますます悪化の一途をたどっています。ユニセフの報告によると、2022年時点で約22億人が安全な水を確保できていない状況です。この問題は今後さらに深刻化し、2050年には50億人以上が深刻な水不足に直面すると予測されています。
このような中、持続可能な開発目標(SDGs)では、「安全な水とトイレを世界中に」との目標が掲げられています。しかし、現状の進捗は遅れている状況です。2030年までの目標達成に向けて早急な対策が求められています。
【参照ページ】ユニセフ報告書「家庭の水と衛生の進展 2000~2022年:ジェンダーに焦点を当てて(原題:Progress on household drinking water, sanitation and hygiene (WASH) 2000-2022: Special focus on gender)
【参照ページ】世界気象機関(WMO)「2021年気候サービスの現状」(原題:2021 State of Climate Services: Water)
水不足が深刻化している原因とは
まずは、水不足の原因について見ていきましょう。
人口増加
世界人口は、2024年時点で約82億人です。今後も増加予定で、国連世界人口推計によると、2050年には97億人を超え、2080年代半ばには103億人とピークに達する見込みです。
人口が増加するにつれて、食料生産や生活用水など、水への需要はますます高まります。しかし、水は有限な資源であり、供給量が需要を上回ることでさらに水不足が深刻な状況となるでしょう。実際に、2050年の水需要は、現在より2〜3割増える見込みとのデータもあります。
【参照ページ】国連世界人口推計2024年版(原題:World Population Prospects 2024)
【参照ページ】国連世界水資源開発報告書(WWDR)(原題:The United Nations world water development report 2018)
産業発展
産業の発展は、人々の生活水準を向上させ、経済成長をもたらす一方で、同時に大量の水を消費します。特に、工業生産や農業では、製品の製造や作物の栽培に多くの水が必要です。
また、産業発展により人々の生活水準が向上し、生活用水が増加傾向にあることも水不足が深刻化する原因の一つです。
気候変動
地球温暖化による気温上昇は、降水量や降水パターンを変化させ、干ばつや洪水などの極端な気象現象を増加させています。特に、アフリカや南アジアなど、水インフラが脆弱な地域では、気候変動による影響が顕著に見られます。干ばつにより水源が枯渇し、洪水によって水質が汚染されるなど、気候変動は水不足の悪化に大きく影響している状況です。
また、気候変動は、雪解け時期の変化や氷河の融解など、水循環にも大きな影響を与えます。これにより、季節ごとの水量変動が激しくなり、水不足が長期化したり、逆に洪水が発生したりするリスクが高まります。さらに、気候変動は、砂漠化を加速させ、農業や生態系の変化に関与することも。結果として、食料生産の低下や生物多様性の損失など、社会全体の持続可能性を脅かす問題へと発展する可能性があります。
水質汚染
世界には、いまだに安全な水と衛生設備を利用できない人が多く存在します。そうした人たちは野外での排泄を余儀なくされ、それにより水質が悪化し、飲み水として利用できないことにつながるという悪循環を引き起こします。水質汚染は感染症の蔓延や生態系の破壊など、人々の健康や環境に多大な悪影響を及ぼしてしまいます。
また、都市部における人口集中や産業活動に伴う排水は、さらに水質汚染を悪化させる原因に。生活排水が直接河川に流れ込み、水質を汚染することで、飲める水が不足する地域が数多くあります。
開発による水源の破壊
森林伐採や湿地の消失など、水源の破壊を加速させているのが都市化による開発です。森林は、雨水を蓄え、地下水へと浸透させる重要な役割を担っています。しかし、開発のために森林が伐採されると、この機能が失われ、洪水や干ばつが起こりやすくなります。
また、都市化に伴う人口増加は、生活排水や産業廃水を増加させ、水質汚染を深刻化させ、それまで使用できていた水源を減らすことにもつながっています。
水不足がもたらす問題
水不足は社会にさまざまな悪影響を与えています。詳しく見ていきましょう。
衛生環境の低下による病気の蔓延
水不足は、衛生環境の悪化を招き、さまざまな病気の蔓延を引き起こす深刻な問題です。安全な水が手に入らない地域では、汚染された水源に頼らざるをえません。その結果、コレラやマラリアなどの感染症が流行し、特に抵抗力の弱い子どもたちの健康を脅かしています。
他にも、汚染された水を飲むことで引き起こされる病気は、下痢や寄生虫感染症、結膜炎などさまざまあります。これらの病気は、特に乳幼児の死亡率を高める要因に。また、慢性的な栄養不良や発育阻害にもつながり、将来的な健康にも悪影響を及ぼします。
紛争の原因
水資源は、生活や農業、工業など、あらゆる分野で不可欠な存在です。しかし、人口増加や気候変動により、水不足が深刻化するにつれて、水資源の奪い合いが激化しています。特に、複数の国が一つの水源を共有している場合、上流国による過剰な取水や水質汚染などが原因となり、下流国との間で紛争が発生するリスクが高まります。
歴史上、多くの地域で水資源をめぐる紛争が発生しており、今後もその数は増加することが懸念されている状況です。2011年より内戦がおこっているシリアでは、干ばつによる水不足も内戦の原因の一つと研究者が言及しています。水不足は、単なる資源の不足にとどまらず、地域間の対立や社会不安を引き起こす深刻な問題として捉えられています。
【参照ページ】シリア内戦激化の背景に「干ばつ」と「地球温暖化」
農作物の成長不良や枯死
水不足は、農業に深刻な影響を与え、食料生産を危機に陥れます。農作物は生育するために大量の水を必要とし、水の使用量全体の約7割が農業用水です。水不足になると生育が阻害され、収穫量が減少したり、品質が低下したりします。
特に、灌漑農業(※)に頼っている地域では、水不足の影響が顕著に現れます。地下水の枯渇や河川の水量の減少は、農作物への水供給を不安定にし、干ばつによる作物の枯死を招く可能性もあるでしょう。農業は、世界の人口を養う上で重要な役割を担っています。水不足による農業への影響は、食料価格の上昇や食料不足を引き起こし、社会不安や飢餓に繋がる恐れもあるでしょう。
※灌漑農業とは、河川や湖などの外部から農地へ人工的に水を供給しておこなう農業。
【参照ページ】農林水産省「世界の水資源とわが国の農業用水」
子どもの教育機会や女性の社会進出が阻まれることも
安全な水を確保するため、多くの地域では女性や子どもたちが長時間かけて、遠方の水源まで水を汲みに行かざるをえません。中には、水汲みに8時間もかける子どもたちがいるのが現状です。この家事労働は、子どもたちの体力を奪う上、学校への登校時間も奪い、教育の機会を減少させます。また、女性にとっても、水汲みの負担は大きく、社会進出を妨げる要因となっています。
水不足問題解決に向けて私たちができること
水不足問題を解決していくためには、各個人の日々の小さな積み重ねが重要です。最後に私たちが日々の生活の中でできることを解説します。
水の大切さについて学ぶ
水は私たちの生活に欠かせないものです。しかし、地球上の水は限られており、その多くは私たちが利用できない状態にあります。そうした中、日本の一人当たりの一日の水の使用量は2020年に262Lと、かなり多くの水を使用していることがわかります。
水不足問題を解決するためには、まず私たち一人ひとりが水の大切さを認識し、節水に努めることが重要です。シャワーの時間やお風呂の水量を少し減らす、食器洗いをする際に水を出しっぱなしにしないなど、日常生活の中で簡単にできることから始めてみましょう。
また、学校や地域社会で、水の大切さについて学ぶ機会を増やすことも大切です。子どもたちに水の循環や汚染問題について教え、水に対する意識を高めることで、将来的な水不足問題の解決につながります。
【参照ページ】国土交通省「日本の水資源の現況」
節水し、水の無駄遣いを減らす
私たち一人ひとりが意識して取り組むことで、水不足問題の解決に貢献できます。日常生活の中で、少しの工夫を心がけるだけで、大幅な節水につながります。
例えば、洗濯の際には、まとめて洗濯したり、洗濯回数を減らしたり、節水型の洗濯機を利用したりすることで、水の使用量を大幅に減らせるでしょう。また、食器洗いも、水を出しっぱなしにせず、ためた水に洗剤を溶かして洗うなど、工夫次第で節水可能です。さらに、歯磨きや洗顔の際にも、水を出しっぱなしにせず、コップに水をためて使うようにするなど、ちょっとした習慣を変えるだけで、かなりの量の水を節約できます。
これらの節水対策は、水道料金や電気代の節約にもなり、さらにCO2削減にも貢献することにつながります。
【関連ページ】サステナブルランドリーとは?洗濯回数を見直して、エコで快適な洗濯ライフを!
生活排水の汚れを減らす
生活排水による水質汚染を減らすことは、身近なところから取り組める大切な取り組みです。私たちの日常生活の中で工夫できる具体的なアクションを紹介します。
- 食器についた汚れは、水で流す前にこそぎ落とすなどして、排水口への負担を減らす
- 調味料の使いすぎに気をつける(お皿に残ると汚れの原因に)
- 油は捨てずにできるだけ使い切る
- 米のとぎ汁を畑の肥料、掃除時の利用水などとして再利用する
- 洗剤やシャンプーなどの使用量は適量を守る
お風呂の残り湯を有効活用する
私たちの生活で欠かせないお風呂の浴槽には、大量の水が使われています。このお風呂の残り湯を有効活用することで、節水に貢献できます。
残り湯は、植物の水やりや、掃除、洗濯など、様々な用途に再利用可能です。ただし、残り湯は時間が経つにつれて雑菌が繁殖するため、洗濯に利用する際は、できるだけ早めに使い切るようにしましょう。また、残り湯を貯めておく際は、清潔な容器に移し替え、こまめに交換することが大切です。
さらに、残り湯は災害時の備えとしても役立ちます。断水時などに、トイレを流す水として活用できます。普段から残り湯を溜めておく習慣をつけることで、いざという時の備えにもなるでしょう。
水の使用量が少ない商品やエコラベル製品を選ぶ
日々の生活の中で、水不足の解消に貢献できる商品選びを意識できると良いでしょう。
例えば、洗剤を選ぶ際には、生分解性の高いものや、無リンの洗剤などエコ商品を使用するのがおすすめです。これらの商品は、水への負荷が少なく、環境にも優しい製品です。他にも、水なしで掃除ができるトイレ洗剤やすすぎ1回で済む仕様の衣類用洗剤などの使用で節水に貢献できます。
まとめ
今回は、水不足問題について解説しました。水は私たちの生活に欠かせない資源です。水不足問題は、もはや他人事ではなく、私たち一人ひとりが真剣に考え、行動に移さなければならない問題と言えるでしょう。ぜひ今回の記事を参考に、日常生活の中でできることから始めてみてください。
【参照ページ】安全な水 | 水と衛生 |(日本ユニセフ協会)
【参照ページ】Wake up to the looming water crisis, report warns (世界気象機関)
【参照ページ】Press Release | UN projects world population to peak within this century – United Nations Sustainable Development(国連)
【参照ページ】日本の水(国土交通省)
【関連ページ】サステナブルな食について考える
【関連ページ】魚が減っているのはなぜ?サステナブルなシーフードについて考えるトークショー開催
飯田千聖
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