食の問題に取り組む飲食店の最前線を紹介!日本サステイナブル・レストラン協会主催イベントレポート

2023年2月28日(火)、日本サステイナブル・レストラン協会が主催する「飲食店・レストランのSDGs/サステナビリティとは?」が、名古屋のレストラン「ビストロ・イナシュヴェ」およびオンラインで開催されました。

イベントでは、シェフや企業などのスピーカーが集まり、「サステナビリティ」をキーワードに、レストランの持続可能性に向けてさまざまな視点からセッションが行われました。

当記事では各セッションの概要をつかみながら、これからの時代、私たちがどのように食の問題に取り組んでいけば良いのかを考えていきます。

左から下田屋氏、倉田氏、伊藤氏、三輪氏、酒井氏

スピーカー
下田屋毅氏(一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会)
酒井淳氏(ビストロ イナシュヴェ)
三輪昭子氏(NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク)
倉田由紀氏(株式会社クラタペッパー)
伊藤健史氏(ニッコー株式会社)

「飲食・レストランで配慮すべきSDGsとは?」

最初に行われたセッション「飲食・レストランで配慮すべきSDGsとは?」では、一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会(SRA_Japan)代表理事の下田屋毅氏が登壇しました。

ここでは、飲食業界がサステナビリティを推進していくための具体的な方法や、フードシステム全体を変えていくためには何が必要かの説明がありました。

「現在、「食」は多くの課題に直面しています。食品ロス、パッケージなどのプラスチックごみの問題や労働問題など、食の未来を守るためには、現在の在り方を見直す必要があります。

例えば、ビーフよりチキンを選ぶことで二酸化炭素の削減を期待できます。また、サステナブルな魚介類を利用することで生態系の保全にも貢献できますし、労働問題の解決にもつながります。このように料理に使う食材を、より「ベターな選択」するだけで、サステナブルなフードシステムを構築できます。

ただ、飲食店がどれだけサステナビリティに配慮しても、生活者がその大切さを理解していない状況だと選んでもらえない状況があります。まだまだおいしさや安さ、見映えなどが評価の基準となっています。

SRA_Jでは生活者の方にも、サステナビリティにも配慮したレストランを選んでもらえるような働きかけを行っていく必要があると考えています。」(下田屋さん)


【関連ページ】魚が減っているのはなぜ?サステナブルなシーフードについて考えるトークショー開催

フランス料理「ビストロ・イナシュヴェ」

画像は、食べログから引用。

「ビストロ・イナシュヴェ」は、名古屋にあるフランス料理のレストランです。フランス料理の背景には、アフリカなどの植民地から搾取し、先進国の趣味嗜好のために作られていたという背景があることを知ったオーナーシェフの酒井氏は、できるだけサステナビリティに配慮した料理を心がけるようになったそうです。

「独立する前にホテルで料理長をしていた頃から、フードマイレージの短いものを使用したり、地産地消を心がけてきました。そのため自然と安全性やサステナビリティに配慮した、志の高い生産者さんに出会うことができ、今現在もずっと一緒に仕事をしています。

また、農業従事者の方はいいものを作っても評価が低かったり、形が不揃いのものは廃棄せざるを得ないといったことがあり、自分たちの存在意義を常に考えている人が少なくありません。形にはこだわらず、おいしさを評価することで、規格外の野菜も活用してきました。」(酒井氏)

独立後には、SDGsをさらに推進するための取り組みも始めました。

「フランス料理は出汁やソースが大事ですが、作るのに非常に時間がかかります。すぐにできるものはなく、長いものだと1週間ほどかかることがあります。例えば、ベースで使う鶏の出汁は鶏ガラをつぶして水から煮出し、香味野菜を加えて4時間ぐらい抽出しないと骨の髄から出汁が出ていきません。

時間やエネルギーを簡素化する方法を考え、鶏むねミンチを使う方法に変えました。この方法だと30分足らずで同じようなベースの出汁がとれるので、今では全店舗で採用しています。出汁が出終わった後のミンチ肉を廃棄してしまうのがもったいないので、裏ごしした後にポロネーズパスタのソースにしたり、キーマカレーに変換させたりしています。」(酒井氏)

また、成熟したマグロだけしか捕らない漁業者、ホテルで出たパンの廃棄物をリサイクルした飼料を使って豚を飼育している養豚業者、事情があって社会活動ができない方が農業で独立できるように支援をしていく「農福連携」を行っている団体など、社会的な取り組みを行っているところと取引をしたり、幼児や小学生向けにボランティアで食育の授業もしていたりするそうです。

NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク

SRA

名古屋市は日本で2番目にフェアトレードタウンに認定されています。NPO法人フェアトレード名古屋ネットワークはそんな名古屋で、まちぐるみでフェアトレードを応援して行くためにさまざまな活動を行っています。

「フェアトレードタウンとして認定後、名古屋では行政や企業を巻き込んだ活動が行われています。例えば小学校の給食にフェアトレード認証のごまを導入し、フェアトレードについて勉強します。子どもたちが学べば親も学び、そしてそれが地域に広がります。フェアトレード商品を購入すると、生産者と購入者のお互いの立場がフェア(対等)になります。サステナビリティにもつながるので広めていければと思います。」(三輪氏)

フェアトレード胡椒「クラタペッパー」

クラタペッパー

クラタペッパーでは、フェアトレードの胡椒を取り扱っています。中世から60年代まで「世界一おいしい」と言われていたカンボジアの胡椒ですが、1970年代の内戦のため、生産量は激減してしまいました。クラタペッパーでは、そんなカンボジアの胡椒の復活を目指しています。

「クラタペッパーでは、農薬を使わずにその地にある緑肥や牛糞を使い、伝統的な農法で生産を行っています。また胡椒の価格は世界相場によって毎年変動しますが、現地の人が安定的に現金収入が得られるよう、支払いを変動させません。生活が安定することで安心して胡椒作りに励むことができ、厳しい基準を守った質の良い胡椒が作れるからです。」(倉田氏)

陶磁器メーカー「ニッコー」

画像は、ニッコー株式会社から引用。

直接口にする食品だけではなく、料理を楽しむための食器も環境に配慮しているものが選ばれる時代になってきています。大手のホテルやレストランチェーン等では、環境に配慮した企業としての調達方針が制定されている事例が多く、また小規模の飲食店でも様々な取組みを実践しているお店が増えています。陶磁器メーカーのニッコーでは単に生産し販売する垂直的な事業モデルではなく、循環の仕組みを広げていきたいと考えています。

「従来は廃棄するしかなかった不要な食器を回収して肥料にし、その肥料を使って農業事業者に育ててもらった農産物を飲食店が調理してお客様へ提供する、そんな循環の仕組みを作ります。また飲食店向けにお取り皿のサブスク・サービスを提供していて、初期投資を抑えて食器を手ごろな価格で利用してシェアする仕組みを始めています。」(伊藤氏)


【関連ページ】捨てられる食器をリサイクルした肥料「BONEARTH®」、4月に販売

編集後記

このイベントを通じて、飲食業界で行われているサステナブルな取り組みやフェアトレードについて知ることができました。SDGsやサステナブルという言葉を前にすると、私たち生活者側は何もできないと感じてしまいがちです。しかし、何かを選ぶ際に生産者やサービスの提供者がどのようにサステナビリティを考えて事業を行っているのかを調べて選択することが、社会全体を良い方向に変えていく一歩になると感じました。


【参照サイト】日本サステイナブル・レストラン協会
【参照サイト】株式会社さかいや(ビストロ イナシュヴェ)
【参照サイト】NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク
【参照サイト】クラタペッパー
【参照サイト】ニッコー株式会社
【関連ページ】人と地球のウェルビーイングにつながる一皿とは?持続可能な美食の探求「サステナブル テーブル 最終章」

The following two tabs change content below.

Life Hugger 編集部

Life Hugger(ライフハガー)は暮らしを楽しむヒントを紹介するウェブマガジンです。消費や暮らしをサステナブルな方向へと変えていきたいと考えている人に向け、サステナブルなライフスタイル、丁寧な暮らし、子育て、農と緑、健康、家事、レジャーなどに関する情報を紹介しています。
InstagramTwitter