サステイナブル・レストラン協会CEOジュリアン氏が語る、食と未来へのつながりとは?

Juliane

レストランにサステナブルな取り組みについて尋ねると、「ベジタリアンレストランである」「地産地消を実践している」といった回答がしばしば耳に入ります。しかしながら、これらの取り組みはレストランのサステナビリティを実現する方法の一部に過ぎません。

サステイナブル・レストラン協会(SRA)は、「調達」「社会」「環境」の3つの部門に分けてレストランが取り組むべき項目を示したフレームワークを用いて、持続可能なフードシステムを実現するための飲食店格付けプログラム「FOOD MADE GOOD」を運営している団体です。SRAでは、レストラン業界を通じたフードシステム全体のサステナビリティの実現を目指しており、日本では日本サステイナブル・レストラン協会(SRA-Japan)が、レストラン業界のサステナビリティの向上を目指し、日本のシェフ達のサステナブルな取り組みの支援をしています。
SRA J

今回は、3月に来日した、イギリス・ロンドンにあるSRA本部のCEO Juliane Caillouette Noble氏(以下、ジュリアン氏)に、英国のレストランが取り組むサステナビリティの事例や日本の消費者に期待することなど、直接お話を伺いました。

サステナブルな食の取り組みの第一歩は、食材のルーツや仕組みを知ることから

Juliane
サステナブルフードの大きなテーマの一つは、便利で安価な大量生産食品から、シェフが新鮮な食材を使って作る料理への回帰です。そして、人々を良質な環境で育まれた食材で魅了し、そうした食材の生産者が公正な報酬を受け取ることも重要です。

「なぜ大人たちは食べ物の起源から遠ざかってしまったのでしょうか?便利な食事に慣れてしまい、食に関する意識が薄れたからかもしれません。食べ物がどこから来てどこへ行くのか…子どもの頃から、自分たちの体を作る食について学び、関心を持つ必要があります。こうした習慣は学校や家庭で養われるべきです」とジュリアン氏は語ります。

ジュリアン氏は大学で教育学を専攻し、卒業後に栄養学を学んでいます。その中でも特に興味を持ったのは、食の教育と学校給食を通じて子供たちに良質な食材を提供することでした。その後、英国で活躍するシェフで、学校給食の質の向上に取り組んでいるジェイミー・オリヴァー氏のキャンペーンに携わるためにロンドンに移り住みます。

「ジェイミー氏は学校給食のプロジェクトに情熱を持って取り組んでいましたし、非常に影響力のある人物でもあります。ただ、ジェイミー氏は一人のシェフです。ロンドンには彼以外にも何千人ものシェフがいます。シェフ達のコミュニティに参加し、サプライチェーンに焦点を当てて地域レベルでの影響力を創出できれば、社会に大きな変化をもたらすことができると感じました。一人ではなくみんなで持続可能な食の取り組みを広めるために、SRA(サステイナブル・レストラン協会)というシェフたちの集まるコミュニティに参加することにしました」

ロンドンのシェフも注目する英国レストラン業界の最新トレンドとは?

ロンドン
ジュリアン氏によれば、英国のレストラン業界における最近の注目トレンドは主に2つあります。まず一つは、ソイミートなど植物性の代替食品のオプションの増加と社会全体における肉の消費量の減少です。一方で代替肉の需要が高まるにつれ、食品加工の際に使われる材料の質や安全性など、健康への影響を懸念する声が聞こえてくるようになりました。最近では、肉の代わりに何でも代替肉を使用することには慎重な姿勢の人も増えてきています。

もう一つのトレンドは、リジェネラティブ農業(再生可能農業)です。イギリスでは非常に重要視されており、個人経営のレストランだけでなく、大規模なグループや全国チェーン、さらにはマクドナルドのようなグローバル企業まで、リジェネラティブ農業への投資に積極的です。

ジュリアン氏は「私たちは農地や土壌を使い果たすことをやめ、地域で多様な食品を栽培できるよう、再生可能な農業を増やす必要があります」と語ります。

また、一般の生活者に焦点をあててみると、イギリスの多くの消費者はレストランのサステナビリティに深い関心を持っていると言います。

「ある調査によれば、イギリスの消費者の80%が、利用するブランドがサステナビリティに配慮していることを望んでいます。しかし、それが必ずしも飲食店選びの基準になるわけではありません。お店のロケーション、雰囲気、料理の品質、価格など、人々はさまざまな理由でレストランを選びます。また従業員の適正な賃金支払いや食品の品質、食材の無駄な使用などに問題がある場合、多くの人は再びその店を選ぶことはないと考えています」

ロンドンのシェフたちが挑む、食材を活かしたゼロウェイストな取り組み


ロンドンで活躍するシェフたちの間では、ゼロウェイストが大きな関心ごとのひとつになってきています。彼らは食材を無駄にしないだけでなく、創造的なアプローチでゼロウェイストに取り組み、新たな価値を生み出すことにも力を入れています。

「例えば、あるロンドンのコーヒーショップでは、カプチーノを作る際に残るミルクをチーズに変え、リコッタチーズとして提供しています。これによって、残ったミルクの副産物が無駄なく活用されるのと同時に、コストの節約にもつながっています」
 
また、別のベーカリーチェーンでは、残ったパンを再利用してサワードウを作っています。これは、パンがスターターを養い、スターターが再びパンに戻っていく循環のサワードウです。ゼロウェイストの取り組みから生まれたこの循環的なサワードウは、環境への負荷を減らしながら、おいしいパンを提供する一石二鳥の取り組みです。

ジュリアン氏は「パッケージや肉のプラントベースへの置き換えなど、単に何かを別のものに置き換えるだけでは食の課題は解決できません。私たちが持つ資源は有限です。より多くのレストランやシェフが、材料の循環的な性質を理解し、再利用や再生といった循環の仕組みを取り入れることが基本であり、それが持続可能な食の未来へとつながります」と強調しました。

食の循環を大切に、日本の食文化が持続可能な未来を導く

出汁
ジュリアン氏によれば、日本の食文化や食に対する考え方には、西洋の文化とは異なり、本来は持続可能な習慣が組み込まれているとのこと。

日本の食文化は、食材を無駄なく使うことを重視しており、その考え方は環境への配慮にも繋がります。食材を無駄にせず、多様な部位や食材を使い、食の循環を実現することが日本の食文化の特徴だと、ジュリアン氏は言います。

「日本食には食材のすべてを活用する考え方があります。鶏肉や豚肉などを使用する場合でも、骨や出汁、その他の部分を活用することが一般的です。これに対して、西洋の文化では使わない部位や食材を廃棄してしまう傾向があります」

しかし、近年の日本社会では、西洋の食文化の影響も見られます。また、食のサステナビリティへの意識は欧米の生活者と比べて劣る傾向にあります。ただし、このような状況でも、祖父母の世代が実践していた伝統的な食文化の方法を知り、少しずつ取り戻していくことが可能です。

「日本の食文化は自然との共生を大切にしており、持続可能な考え方が根付いています。現代の日本人が少しだけ過去を振り返り、先人たちの知恵を活かした食材の活用や循環を意識した食習慣を復活させることで、社会全体に持続可能なフードシステムを築くことができるのではないでしょうか」

私たちの食材への関心が、持続可能な食の原動力になる

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レストランがサステナブルな選択をするためには、食材のトレーサビリティが大切です。それは、食材がどの農場から来ているのか、その農場での取り組みはどのようなものなのかを知ること。食材について生産地などの詳細な情報を把握することで、レストランやシェフたちは調達先や方法を見直し、より良い方向に変えることができるようになります。

「レストランで出された魚の産地や獲り方について質問すると、シェフたちはその情報を知らないことがあります。これは、一般的にシーフードのトレーサビリティが低いことが原因です。ですが、レストランやシェフたちも、店に来た客から食材のトレーサビリティに関心があることを示されると、食材について理解を深める必要があると感じるはずです」

また、パッケージも課題です。75%の海洋プラスチックごみはたった10個の製品から来ていて、その10個のうち6つは食品や飲料に関連していると言われています。

「こうした状況の中で私たち消費者ができることは、パッケージを拒否することです。日本でもマイバッグやマイボトルを持つ習慣が浸透しているので、まずは過剰包装やビニール袋を断ることやマイボトルを使うことから始めてみてほしいです」

ジュリアン氏は最後に、次のように締めくくりました。

「私たちは、レストランや食材の選択によって、食のサステナビリティを推進する力を持っています。小さな一歩かもしれませんが、一人一人が毎日の食事の中で意識的により良い選択をすることで、社会に大きな変化を起こすことができます。持続可能な食の未来のため、ぜひ日々の食事のあり方を見直し、環境や社会に良い食のあり方を意識してみてください」

編集後記

Juliane
アメリカ西海岸出身のジュリアンさんが、イギリス・ロンドンでの活動を始めた経緯を聞き、サステナブルフードの領域で輝かしいキャリアを築く一方で、彼女の原点が子どもたちへの教育や学校給食にあったことに感銘を受けました。

私自身も日本の教育現場で仕事をした際に、伝統的な日本の甘味であるシラタマ団子や初めて見る野菜に驚く子どもたちの顔を目にした経験があります。幼少期から良質な食材の喜びを知り、その食を未来に繋ぐために行動すること、また、そうした食の教育の基盤を築くことが大切です。

また、ジュリアンさんが「食べ物、ファッション、育児など、私たちは人生のあらゆる面において、今よりももっと消費を減らすことができる」と述べていたように、私たち大人も、自分たちの生活を見直すことで社会をより良くできる存在です。

この取材はサステナブルな食に焦点を当てていましたが、まさに「食べる」という行為は生きることそのものです。私たちは人生のあらゆる面で、より多くからより少ない消費へと向かい、既存のリソースを効果的に活用する方法を模索し、選択する必要があります。サステナブルなレストランで食事をすることも、そうした選択の一つとして暮らしの中に取り入れていきたいと思います。

【参照サイト】Food Made Good UK
【参照サイト】日本サステイナブル・レストラン協会(SRA-Japan)
【関連ページ】サステナブル・レストランのシェフたちの競演。おいしい食と幸せな時間を未来に繋ぐコミュニティとは
【関連ページ】人と地球のウェルビーイングにつながる一皿とは?持続可能な美食の探求「サステナブル テーブル 最終章」

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Life Hugger 編集部

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