地域のみんながハッピーになる「種の図書館」とは?京都府・南山城村のワクワクする取り組み

種

photo by 川上悠介

みなさんは「種の図書館」という言葉を聞いたことがありますか? これは、図書館で本を借りるように、花や野菜、ハーブの種を借り、半年から1年後に、育ててできた種をとって返す仕組み。種とりに成功しなかったら、返さなくてもOKです。

「種の図書館」が始まった背景にあるのは、種への危機感です。実は今、大きな種苗会社が種の特許を取得し、種子の独占を進めています。また、市販の種の多くは、効率的に栽培・収穫・流通することを目的に作られていて、次世代に同じ形質のものを受け継ぐことができません。「このままだと、みんなが使える公共の種がなくってしまう。種を採って、蒔いて、分かち合う。種と人とコミュニティの循環を取り戻したい!」そんな想いを持った人々の呼びかけで、米国やヨーロッパの公共の図書館を中心に、種の図書館が広まっています。

種の図書館には、こんなメリットがあります。

  • 誰でも、自由に種を使える
  • 地域の緑を豊かにする
  • 食料の自給自足の手助けになる
  • 「シードバンク(種の銀行)」として多様な種を保管し、絶滅の危機から救える

さらに、種の図書館には「地域のつながりを豊かにする」という素敵な特典がついてくるらしい……。ということで今回は、南山城村(京都府)で2021年に「種の図書館」を始めたウチダヨウさんに、種の図書館の魅力と、種を通じた交流の楽しさをお聞きしました。

話者プロフィール:ウチダヨウさん
ウチダさんプロフィール写真

photo by 川上悠介

福井生まれ、大阪育ち。2021年から南山城村在住。『たねの図種館』キュレーター。たねの会、ポッドキャスト配信、コラム執筆を通じて、植木屋の夫と共に村の暮らしを発信中。SE、自然体験レンジャー、スウェーデン留学、大学勤務などを経て、木のおもちゃ工房スタッフ。今関心のあることは、たねとり、サーキュラーエコノミー、web3。

ポッドキャスト(内田家夫婦がナビゲートする南山城村の暮らしのネットラジオ 二十四節気ごとに配信中)
Instagram @tanenotoshukan(たねの会のイベント告知や報告、ネットラジオ配信ニュースなど)
Twitter @tanenotoshukan

移住先で意気投合!「種の図書館」を立ち上げることに

取材を受けるヨウさん

取材を受けているヨウさん

職場との距離、村の雰囲気、紹介された空き家がイメージにぴったりだった、といった理由で、縁あって2021年に京都府唯一の村、南山城村に移住したヨウさん。ヨウさんは、もともと農に興味があり、中でも「種」の奥深さに魅了されていました。「移住前から、いろんな種を集めては、仲間と種の交換会をしたり、映画『タネは誰のもの?』の上映会をしたりしていました。米国の図書館に『種の図書館』があることは知っていたのですが、日本の公共の図書館ではどこに持ちかけていいのか、どういう風にやるのか想像もつきませんでした」。

そんななか「種の図書館」を開く大きなきっかけになったのは、南山城村の移住交流スペース「やまんなか」のスタッフ山﨑 桃子さんとの出会いでした。「種の図書館の話をしたら、とても面白がってくれて。『やまんなか』に、そういう棚があったら面白そうだね、と盛り上がりました」。

そこで、まずは「やまんなか」で、種について話す「たねの会」というイベントを開催。2021年8月の1回目の会には20人が参加し「みんなけっこう、興味があるんだ!」と手ごたえを感じたそう。それから毎月1回「たねの会」を開くように。次第に参加者が好きな種を持ち寄るようになり、種の種類も増えていきます。そして2022年2月、まずはお試しで「やまんなか」内のスペースに「種の図書館」を設置することにしました。

大切にしているのは「楽しさ」や「うれしさ」、そして「ゆるやか」であること

種の図書館
現在は、「やまんなか」がオープンしている水曜、金曜、土曜はいつでも、好きな時に種の図書館を利用できます。利用は簡単。引き出しの中に約60種類ほどの封筒があり、そこから種を選択。ボードに書かれた貸出ルールに従って、ノートに、借りた日付、名前、借りた種を書きます。種を置いていきたい人は、封筒に種の名前とまきどき、自分の名前を書いていきます。「そんなにゆるくていいの? というくらい、ゆるいシステムです(笑)。最近は苗や野菜を持ってきてくれる人もいて『種だけじゃなくてもいいんじゃない?』という感じになってきています」。

ボード

使い方が書かれたボード

ふうとう

種が入っている封筒

運営するにあたり、ヨウさんは「どんな種を持ってきてもらうか」について、山﨑さんと話し合いました。「種は自然農とか無農薬の種に限定せず、どんな種でもOKということにしたんです。その理由は、種を『闘うもの』として扱いたくなかったから。農薬を使うかどうかは、時に人を分断してしまいます。図書館で扱う種を無農薬に限定したら、それが分断の火種になってしまう。それは、目指す方向ではないんです。だから、どんな種でもOKにして、楽しい、嬉しいから続けたくなる、やってみたいことが増える、という形にしました」とヨウさんは説明してくれました。

そんな想いが伝わっているのか、参加者からの発案で「種の図書館」発の取り組みは、いろんな方向に広がり続けています。豆料理のランチ会から農家さんツアー、地元のおばあちゃんに郷土料理を習いに行くツアーまで、どれもこれも面白そうな活動ばかりです。

たねの会×ランチ会 in やまんなか

たねの会×ランチ会 in やまんなか

たねのレジェンドツアー in 堂仙房 柿木農園

たねのレジェンドツアー in 堂仙房 柿木農園

たねのレジェンドツアー in 堂仙房 柿木農園

たねのレジェンドツアー in 堂仙房 柿木農園

種の図書館は「豊かになっていくだけの文化」

種の写真

種の図書館の利用者は、年齢も仕事も、村とのかかわり方も、それぞれ異なります。「利用者を結ぶのは『種が好き』という想い、ただそれだけ。月1回開催で平均10人ほどが集まる『たねの会』の参加者も、村の人、他県から来てくれた私と夫のポッドキャストのリスナーさん、移住希望者など本当にさまざま。毎回どんな人が来るのか、全く読めないです!」とヨウさんは嬉しそうに教えてくれました。

種の図書館を開いてから「やまんなか」には嬉しい変化が起こりました。それは、「どんな種があるの?」と見に来たり、余っている種を提供したりする地元の人が増えてきたこと。「種の図書館って、豊かになっていくだけの文化なんです。お店で買う種と違って、発芽しにくいものもあるけれど、だからこそ、芽が出た時の喜びが大きいんです。種の貸し借りや情報交換を通じて、人と人とのつながりもでき、種にも行き場ができます。種をきっかけに、面白いコミュニティができています」。

やまんなかの外観

「やまんなか」の外観。隣に郵便局があり、人の往来の多い場所にあります。

すでにヨウさんは、次にやりたいことをいろいろ思い描いています。「夫が、生ごみから堆肥を作る勉強をしているので、その堆肥を使っていろんな種を育てていきたいです。また、種は古くなると発芽しにくくなるので、その前に苗にして近くの農産物直売所で販売し、種の活動をする時の資金にしたいです。ただ、種自体はこの先も売り物にせず、誰もがアクセスできる、オープンなものにするつもりです。これからもライフワークとして種に関わり続けます」。

ヨウさん

photo by 川上悠介

おまけ:今日からできる、種の図書館のはじめかた

ヨウさんに「種の図書館」の簡単な始め方をお聞きしました!

  1. 種を集める
  2. 種の交換や、情報交換をするイベントを開く
  3. 種が集まってきたら「種の図書館」を開く(不定期開催でOK!)

ポイント

  • 仲間を見つけること(チームでやると楽しいし、実現までのスピード感が違います。)
  • 無理のないペースで開催すること(いきなり毎月にせず、季節ごと、不定期でもOK!)
  • 無理せず、できる範囲でやること(職場や友人、仕事仲間とやったり、自分や友人知人のお店でやったり、フリマに出店してやってみるのも手です。)
  • 種の返却率にこだわりすぎない(長い目で見て、種が広まればOK!)

編集後記

ヨウさんの話を聞いた後、ちょっと大げさな書き方ですが「こういう取り組みから、平和が広まっていくのかもしれない」と感じました。種を通じて、会話やつながりが生まれ、それが続いていく。地域の、そして世界の自然がより豊かになり、人もハッピーになっていく。

「種が好きな人って、自分の種を分けたくて仕方ないんです。ギブアンドギブみたいな感じ」と話すヨウさんの笑顔には「種は楽しい!」という想いがにじみ出ていました。私も、自分ができる形で、種を通じた交流をやってみたいと思います。

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曽我 美穂

曽我 美穂(そが みほ)。2008年にエコライター・エディター・翻訳者として独立。雑誌やウェブサイトで編集、撮影、執筆、翻訳などをおこなっている。主なテーマはエコな暮らしやSDGs、環境問題。私生活では2009年生まれの娘と2012年生まれの息子の二児の母でもある。現在、富山県在住。個人サイト:https://sogamiho.mystrikingly.com/