コーヒー屋さんが、なぜ森を育てるの? ― スターバックスがみなかみ町で始めた「捨てない」プロジェクト

いつものカフェで飲む一杯のコーヒーが、遠くの森の手入れにつながっている——。そんな仕組みづくりが、群馬県みなかみ町で動き出しています。

スターバックス コーヒー ジャパンは2026年7月6日、みなかみ町で「森のスターバックス プロジェクト」をスタートしました。使われずに捨てられてきた間伐材を店舗の建材に活かし、店で出るコーヒーかすを森の土に還し、苗木を店舗で育てて森に戻す。「捨てない」「絶やさない」を軸に、店舗というビジネスの現場そのものを森とつなげようとする試みです。

寄付や広報にとどまらず、店の運営の仕組みに森林保全を組み込んでいるのが、この取り組みのおもしろいところ。暮らしのなかでコンポストやごみ減らしを続けている人にとっても、ヒントの多いプロジェクトです。順番に見ていきましょう。

そもそも、なぜコーヒーチェーンが森づくりに関わるのでしょう。背景には、日本の森が抱える構造的な課題があります。

日本は国土の約7割が森林という森林大国。それなのに木材需要の低迷で、かつて手入れされてきた里山の多くが荒れたまま放置されています。間伐などの手入れが行き届かない森は、光や雨が地面まで届かず下草が育ちません。その結果、生物多様性の保全、水源の涵養(かんよう)、地球温暖化の防止といった、森が本来もっているはたらきが弱ってしまいます。

みなかみ町は、関東圏の水がめである利根川の源流部に位置するまち。スターバックスはこの流域で多くの店舗を営業しています。両者は2025年4月21日、森のもつ多面的な機能を回復させることを目指して「利根川源流から始める豊かな森林と人を育む連携協定」を締結し、この課題に一緒に取り組み始めました。

みなかみ町側は、地域住民が主体となって森を手入れする「自伐型林業」などを推進する環境先進自治体。スターバックス側は、その森から出た間伐材を店舗の建材として活かすことを目指す——という役割分担です。しかも、使う木材が「どの森から、どの地域の人によって切り出されたか」を追える「顔の見える木材活用」を計画している点も特徴的。木材にストーリーをもたせる考え方です。

この協定から1年あまりを経て、取り組みを具体的な仕組みへと一歩進めたのが、今回の「森のスターバックス プロジェクト」です。

プロジェクトの主軸のひとつが、間伐材のうち「材木として流通しにくかったもの」の活用です。

強度に問題はなくても、柱や梁といった建築用材にはサイズが小さすぎる——。そんな木は流通に乗らず、これまで多くが廃棄されてきました。プロジェクトでは、この未利用の間伐材を店舗の建材として活用することを計画。建築物に向かないサイズの木は店舗の内装材などに回すことで、使い道を広げていく狙いです。

最初の一歩が、間伐材を使った建材の耐久試験。スギ・コナラ・クリの3樹種と、2種類の木材防護剤を組み合わせた5通りのデッキを試作し、自然のなかでどの組み合わせが最も長持ちするかを検証しています。

ここで印象的なのが「捨てない」デザインへの挑戦です。木材はふつう規格や必要寸法ごとに流通するため、廃棄率を下げるのは簡単ではありません。むしろ自然な風合いを狙ってランダムな寸法にしようとすると、そろった材から選りすぐる分だけ廃棄が増えてしまう——そんな現実も現場から学んだといいます。

それでも今回のデッキ制作では、製材と建設の連携によって、通常なら1本あたり60〜70%になる廃棄率を30〜40%まで下げることができたとのこと(廃棄率データ出典:笛木建設株式会社、小林産業株式会社/ともに群馬県みなかみ町)。木の不ぞろいさを、欠点ではなく味として生かす発想です。

暮らしに一番近い取り組みが、コーヒーかすの活用かもしれません。

店舗で日々出るコーヒーかすと、森のなかの自然素材を組み合わせたたい肥づくりの実験が進んでいます。試しているのは次の3通りの組み合わせです。

  • コーヒーかす × 現地の土
  • コーヒーかす × 落ち葉
  • コーヒーかす × 竹チップ

ここで使われている「バイオネスト」とは、落ち葉や枝といった植物発生材の処理コストを抑えつつ、それらを資源として活かすことを目的とした、サステナブルなたい肥づくりの手法。森がもともともっている自然の力を生かせるのが特徴です。

第三者機関の検査でたい肥として効果が認められたものは、群馬県内のドライブスルー店舗の敷地内にある植栽に使われる予定。「捨てるもの」だったコーヒーかすが、店舗の緑を育てる資源として一周まわってくるという循環が生まれます。

コーヒーかすを家庭のコンポストや土づくりに使っている方も多いはず。身近な素材が、まちや森のスケールで活かされていくのは、なんだかうれしい話です。

もうひとつの柱が「山どり苗の保育園制度」です。

これは、森の稚樹(種から発芽して間もない若い木)を動物の食害などから守るために、ドライブスルー店舗の敷地内の植栽へ一時的に移し、約3年ほど育てたうえで、あらためて植樹として森に戻すという仕組みです。

「みなかみネイチャーポジティブプロジェクト」を進める日本自然保護協会の協力のもと、みなかみの森ではコナラやヤマザクラなど約20樹種の稚樹が見つかりました。木が休眠する時期に、群馬県内17か所のドライブスルー店舗の植栽へ数株ずつ移して育てていく計画です。

ふだん森を訪れる機会のない人でも、店舗で苗木に触れることで森を少し身近に感じられる——。そんなきっかけづくりの意味も込められています。

これらの活動の土台にあるのが、人の学びです。

スターバックスでは、社員(同社では「パートナー」と呼びます)がみなかみの森での整備体験を通じて、森を知り、地球環境について学ぶ場を用意しています。背景には「コーヒーの2050年問題」があります。気候変動により、2050年までに世界のコーヒー豆生産量の約6割を占めるアラビカ種の栽培適地が、現在の半分にまで減ってしまうともいわれる課題です。壁も天井もない森のなかでコーヒーを味わう「地球と話すサードプレイス体験」を通じて、これからもコーヒーを楽しみ続けられる環境に思いを馳せる、というねらいです。

活動の広がりは企業と自治体だけにとどまりません。群馬県立利根実業高校グリーンライフ科の授業とも協業が生まれ、生徒たちが森林整備や苗木の育成、バイオネストづくりに関わっています。地域の学びの場としても育ちはじめているのです。

環境面の効果についても目安が示されています。連携協定の発表時点で、みなかみ町のサンプル森林を基準に林野庁の簡易計算ツールで試算すると、間伐材を活用した店舗1店舗あたり約45t-CO2のCO2吸収量が見込めるとされています。

ただし、これはあくまで試算値であって、実績として確定した数字ではない点には注意が必要です。同じく、間伐材を活用した店舗の第1号店開業も「数年以内を目指す」という目標の段階で、まだ実現途上です。

つまり数字や目標はこれからのもの。それでも、大手ブランドが自社の店舗運営に森林保全の具体策を組み込んだ事例として、進捗が注目されます。

「森のスターバックス プロジェクト」がおもしろいのは、大きな企業の取り組みでありながら、その発想が家庭の暮らしとも地続きなところです。

  • 使いにくいからと捨てられていたものに、あえて使い道を見つける
  • コーヒーかすのような身近な「ごみ」を、土や緑を育てる資源に変える
  • 木を使うだけでなく、育てて森に返す

どれも、規模こそ違えど、わたしたちがコンポストやリユースで意識していることと同じ方向を向いています。捨てないための工夫は、暮らしのなかからでも始められる——そんなことを、あらためて感じさせてくれるプロジェクトです。

プロジェクトの進捗は、スターバックスのオウンドメディア「STARBUCKS STORIES JAPAN」で公開されていくとのことです。

【参照記事】「『森のスターバックス プロジェクト』を群馬県みなかみ町でスタート
【参照記事】スターバックス コーヒー ジャパン公式プレスリリース「みなかみ町と『利根川源流から始める豊かな森林と人を育む連携協定』を締結

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Life Hugger 編集部

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