近年、健康志向ブームと相まってプラントベース(植物性)食材のみを使用したり、ヴィーガンをターゲットにしたりした飲食店が増えています。なかには単に植物性食材を使用しているだけではなく、地産地消や自給自足、地元の人との関わりなど、幅広くサステナブルな取り組みを実践しているお店も。埼玉県川口市にある「1110 CAFE/BAKERY」もそのひとつです。今回は「1110 CAFE/BAKERY」を実際に取材しました。
3,000坪の広大な敷地を誇る川口市のカフェベーカリー
「1110 CAFE/BAKERY」は、川口市を代表する産業・鋳物の工場を営んでいた株式会社大泉工場が、カフェベーカリーとして2020年6月にオープン。
国内の有機農家で愛情たっぷりに育てられた無農薬野菜のみを厳選し、動物性食品(肉・卵・乳製品)を一切使用せずに野菜本来のうま味を引き出したプラントベースフードを、川口市で提供しています。こだわりの素材を独自に組み合わせて創作したプラントベースフードと、職人が丁寧に焼き上げたできたてのパンを楽しめます。
オープン以来、地元客を中心に人気を集め、2023年2月には渋谷の道玄坂にある期間限定ショップに都内初上陸し、メニューを提供しました。なお、直営店である同カフェの敷地内で作られている、国産ナチュラルな原料を使用した非加熱製法の発酵スパークリングティー・KOMBUCHAやCOLD PRESSED JUICE、PLANT BASED GROCERY、オーガニック野菜などを販売している「大泉工場NISHIAZABU」も展開しています。
「1110 CAFE/BAKERY」の特徴は、なんと言ってもその広大な敷地です。お店に向かう途中には周囲一帯に物流倉庫が連なっており、到着したときには3,000坪の緑豊かなガーデンに驚かされました。桜の時期には満開のソメイヨシノを眺めることができる、絶好の花見スポットです。
敷地内には大小さまざまな木々が植えられたメインガーデンのほか、現在は株式会社大泉工場の本社オフィスとして活用されている、昭和13年から現存する大谷石造りの洋館、洋館裏に広がる庭園、木造平屋建ての和館など、歴史的にも価値のある建物が点在。和館では食や暮らし、文化芸術を学ぶ企画「JUKUBOX」も行われています。
また、2008年まで電動機工場として稼働していた鋳物工場跡地も。
ここはフリースペースとなっていて、カフェベーカリーの飲食など、自由に利用することが可能なのだとか。広々としたガーデンで四季折々の自然を感じながら、飲食だけではなく健康や文化に思いを馳せることができるのは、郊外の川口市だからこそかもしれません。
ベジベネディクトと花酵母を使ったフレンチトーストは必食
「1110 CAFE/BAKERY」の店内にも、サステナブルなこだわりがたくさん散りばめられていました。
まず壁には地元のアーティストによる作品が期間ごとに飾られています。
そしてメインテーブルとソファは、廃材を集めて再構築した作りになっています。こうした小さなポイントからも地球環境への思いが見て取れますね。
気になるメニューは、開店の朝8時から15時までが「ALLDAY BREAKFAST」。その日最初に食べる食事=朝食として、身体にも環境にもいいものばかりを集めた、こだわりのメニューになっています。
看板メニューの「1110・シグネチャープレート(スープ付き)」(1,700円)は、卵を使用せずに作ったエッグベネディクト「ベジベネディクト」を堪能できるプレートです。卵を使用せずにたっぷりの野菜と野菜本来のおいしさを引き立てる乳製品不使用の自家製ソース「オランデーズソース」で、濃厚な味わいに仕上げていて絶品!
フレンチトーストは、敷地内に咲くモモの花から抽出した天然酵母を使用して焼き上げた、パンドミを使った一品。植物性のバターを使って風味豊かに。食感は外がカリッと、中はモチっとしていてたまりません。
ちなみにベーカリーのパンにはバターや乳製品を使っておらず、モモの花から抽出した天然の花酵母を使用。花酵母のパンは豊富な乳酸菌を含んでいるため、腸内フローラを整えてくれるのです。化学薬品不使用で安心安全なだけではなく、酵母と乳酸菌の力で日持ちもするなど、数多くのメリットがあるのだそうです。
プラントベースフードはおいしくなければリピートがない
シェフ兼店長の西川浩康さんは、もともと都内の有名ホテルで勤務後、料理家の栗原はるみさんのスタッフとして活躍した経歴の持ち主。藤沢にある自然食レストラン「ecomo」の店長を経て、当店のシェフとしてプラントベースメニューの開発を手掛けています。
メニュー開発についてお話を伺うと、全国から取り寄せたナチュラルな野菜本来の旨味を引き出し、余すことなくおいしさを表現することに注力しているのだそう。「ヴィーガン食」「プラントベースフード」と聞いても、「本当においしいのか?」と疑問を持つ人はまだまだ少なくありません。そのため「やっぱりおいしくないと持続的に食べてもらえないので、どんなサステナブルな作り方をしているかというよりも、どれだけおいしいかということが入口として大事だと思っています」と語っていました。
「1110 CAFE/BAKERY」には、プラントベースカフェであることに気付かず来店するお客さんも少なくないそうです。楽しく飲食をして「こんなにおいしいんだ」というプラントベースフードへの気付きや地球環境、食、健康などについて考えるきっかけとなる場所になっていることが伺えます。荒川が近いという場所柄、ペットを連れた方やサイクリングの行き帰りの方、ママ友同士のランチ会やカフェ会、ファミリー層など、さまざまな人が行き交う場所になっているのです。
生産者と消費者をつないでゴミ0を目指すアルチザンファーマーズマーケットも定期開催
その他の環境への取り組みとしては、カフェの生ゴミや使えない部分を肥料としてコンポストし、別事業で行っている自社農場で肥料として使用。その農場で育った野菜をカフェの食材として使うなど、自社内でサーキュラーエコノミーを展開しているそうです。
広報の高橋さんによると、株式会社大泉工場は2008年に鋳物工場を閉鎖後、現在の4代目にあたる社長が食にフォーカスしようとするなかで、オーガニックや地球環境に関係する事業に注力していった背景があるそうです。
川口に根付き、川口でずっと鋳物工場をやってきたからこそ地元を活性化していく動きにも積極的。毎月第2土曜日と日曜日には新鮮なオーガニック野菜や、安全・安心な食品、職人の技が光るクラフト品など、オンリーワンの商品を扱う「アルチザンファーマーズマーケット」も定期開催しています。手から手、人から人へと思いをつなぎ、生産者と消費者をつなげるマーケットは、毎回大盛況となっています。ちなみにマーケットではゴミ0を目指して使い捨て食器を廃止してリユース可能な食器のみを使用し、会場内にもゴミ箱を設置していません。毎回マイ食器とマイバッグの持参を呼び掛けています。
2023年2月の「1110 CAFE/BAKERY」都内初出店をはじめとして、今後も新しい取り組みをどんどんしていくという株式会社大泉工場。2023年4月末からはフリースペースとなっている鋳物工場跡地で、不要になった本を交換できる「シェア図書館」も構想中なのだとか。さらには和館の庭に小さなファームを開設し、みんなで作物を育てていく企画も進行中とのことです。
東京から電車に乗ってでも行く価値がある「1110 CAFE/BAKERY」。みなさんもぜひ遊びに行ってみてはいかがでしょうか。
【参照サイト】大泉工場
【参照サイト】1110 CAFE/BAKERY
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