花を飾ったり庭仕事をしたりと近年は自然と触れ合う機会が増えた人も多いかもしれません。本記事では、自宅の裏山を開墾し一から庭と畑づくりに挑戦した、グラフィックデザイナーの金谷麻衣さんのお宅を取材。庭をつくるにあたりこだわったポイント、更地だった土地に植物や野菜が育つようになるまでの経過、また今後庭をどのように活用していきたいかなどについても伺いました。
話を伺った人
金谷 麻衣(かねや まい)
多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業後、広告制作会社勤務を経て、アパレルやインテリアメーカーのインハウスグラフィックデザイナーに。のちにフリーランスへ転身。祖母が花屋を営んでいたこともあり、幼いころから植物好き。趣味は陶芸とキャンプ。Instagram @_life_is_flowers_
自邸を建てたことをきっかけに庭づくりにも挑戦
5年前、家を建てるにあたり見つけた土地には日当たりのよい斜面が含まれていました。この斜面は建物を建てるには向いていない形状の土地だったので、家族と「庭や畑として活用しよう!」という話になり、まずは土地造成時から地表を覆っていたグリーンのネットを根気よく取る作業から庭づくりを始めました。建てた家の裏側に位置するこの山は、当初土がカチコチでシャベルを差し込むのもひと苦労でした。しかし、父が斜面を縦断する階段をつくってくれたのがきっかけで、徐々に楽しい場所へと変化しました。(金谷さん、以下同様)
傾斜面をフル活用!アイディアが詰まった金谷家の裏山
庭と畑をつくる上でいちばんこだわったポイントは、庭仕事が苦行にならないような庭にするということでした。子どももまだ小さいし、普段仕事もしているので手の届く範囲で始めないと続かないなと思い、「無理をしない」ということを最初に決めていました。
とはいえ、荒れた斜面はまぁまぁ急なので手入れは常にハード。大きなシャベルや土を運ぶのもひと苦労でした。すでに挫折しそう……と思っていたある日、救世主が現れました!
普段なかなか時間を取れなくて作業できなかった私達夫婦を見かねて、私の父が猛暑の最中に階段をつくってくれたんです。ゆるやかにカーブがかったこの階段が斜面下半分の中央にできたことで、日々の手入れが格段にしやすくなりました。
階段を使い庭の上の方にもラクに辿り着けるようになったので、日当たりが良さを生かしてそこに4段ほどの段々畑をつくりました。こうしてわが家の裏山は少しずつ庭&畑へとその姿を変えていきました。
階段と段々畑が完成した後は、お隣の窓から目隠しになるよう、いくつかポイントとなるような大きな木を植えました。樹形がかわいく風通しのよさを感じることができるオリーブ、暑い夏でも花を咲かせて楽しませてくれるサルスベリ、葉っぱの色が明るいグリーンで目に爽やかなトネリコなどです。あとは食材として重宝する柚子や日向夏など柑橘系の木も植えました。植樹したときは60〜90cmくらいだった苗たちは、4年で3mほどにまで成長しました。また、夫が選んだ赤系のコルディリネやコキアもよいアクセントになっています。
そしてポイントとなる木を植えた後は、その間を埋めるようにさまざまなハーブを植えました。お肉や魚料理のアクセントとしてよく使うローズマリーやフェンネル、お茶に入れて楽しむレモングラス、サラダに欠かせないルッコラ、紫蘇やアップルミントなど。こうしたハーブ類は畑で育てた野菜とともに、日々の食卓に並びます。
庭で育てた花やハーブは、食用以外でも生活のさまざまな場面で活用しています。ホワイトセージはお香として焚いてみたり、独特の香りと殺虫殺菌効果があるルーは見た目も香りも良いので花瓶に生けて楽しむことも。他にも、子どもたちの遊びの時間や仕事の場面でも、庭の草花たちは活躍しています。
庭づくり開始〜今に至るまで、5年間の記録
1年目/2018年 かちこちの更地は想像以上に荒れていた
元々ここは雑木林を切り開いてつくられた土地なので、庭&畑にするにあたって多少の苦労は覚悟していました。いざ始めてみると、造成地が雑草でボウボウにならないように緑色のビニールの網が地表を覆うようにかかっていたり、土の中から造成時の産業廃棄物である釘や鉄の棒が出てきたり……。状態は予想を遥かに上まわるひどさでした。すぐにでも種を巻きたい気持ちをグッと抑え、石を取ったり空気入れたりから始まりました。
2〜3年目/2019年〜2020年 階段を設置し、種や苗を植えたことで徐々に緑を楽しめるように
父が階段を設置してくれたことで上までスムーズに行けるようになりました。傾斜の上にある段々畑にはスナップエンドウ、ラディッシュ、芽キャベツなどの野菜やハーブなどを菜園風に、中間には鉢植えの紫陽花やオリーブの植え替えました。傾斜の下の方は午前中だけ陽が入るので、柑橘系やブラックベリーなどの生命力が強い植物を植えました。肥料はいちばん最初に100%有機のものを使いましたが、そのあとは基本、自然に任せて育てています。
4年目/2021年 季節の草花や果物を収穫できるように
4年目でやっと四季折々に植物を楽しめる庭に成長してきました。若芽が芽吹き始めるころになると、冬に植えておいた球根やワンシーズン前の春にこぼれた種からも徐々に花が咲き始めます。母はこの時期のためにネモフィラの苗をつくって庭に植えてくれます。春から初夏の庭は青や白の多年草の花が所狭しと賑わうので、伸び放題のオリーブやユーカリと一緒に束ねて友人にお裾分けするのも楽しみのひとつになりました。
アーティチョークは株が大きく成長したものの食べどきがイマイチよくわからずまだ食したことはありません。ルバーブは茎丈が倍くらいになったら収穫してジャムへ。
5年目/2022年 季節の移ろいを感じさせてくれる裏山に
今年の春、庭の斜面の下半分はまるで花畑のようでした。また、庭木が3m越えになってきて、少し手入れしないでいるとジャングルみたいで階段も見えなくなるようになってきました。YouTubeの「カーメン君 ガーデンチャンネル」で勉強して見よう見まねで剪定したり、仕事前に30分草刈りをしたりして階段をどうにかキープしています。
初夏の季節がやってくると、傾斜になった庭の下の方でブットレアが咲き始めます。多年草で放っておいても毎年繰り返し花を咲かせてくれます。伸びてしまったら切り詰め枝が暴れないように手入れします。可愛い花で花期も長いのも魅力ですね。
庭ができて思うこと、今後チャレンジしてみたいこと
家の敷地に庭&畑ができたことで、“自然” というものをより身近に、そして家族全員で楽しめるようになりました。コロナ禍でおうち時間が増えたことも庭により一層目をかける時間が増えた要因です。
庭の花や野菜の成長を観察しながら「紫陽花が咲きそうだね、もうすぐ梅雨かな」「コスモスが咲いてるよ夏は終わりかな?」「柚子がなってるよ、柚子湯に入ってみたいな」、そんな言葉も子どもたちの口から聞こえてくるようになりました。
私自身もですが、子どもたちにも四季の移ろいや日本古来の歳時記を楽しんで欲しいと思っています。きっと、普段の生活がちょっとワクワクすることに昇華するはずです。
また、これから先は地球温暖化の影響で身近な自然の変化がさまざまな場所で表面化してくるのではないでしょうか。実際、子どもの頃に道端に咲いているのを見かけた在来種の草花は減ってきていると思います。一方で、外来種などの今まであまり見かけなかった植物が勢いよく増えてきているようにも感じます。
子どもたちにも日ごろから自然に触れることで、現在の自然環境を肌身で感じながら、身近な環境変化に気づき、その先の行動に移すことができるような大人になって欲しいと願っています。
小さいころから自分の好きにできる庭をもつのが夢だったという金谷さん。今後取り組みたいことを伺うと、「自宅にあるキエーロの土をもっと活用したいと思っています。ダメにしてしまった食材の種の発芽や植えつけなどにもチャレンジしてみたいですね。この庭と畑が植物たちの第2のフィールドになり、生命の営み・循環を子どもたちにたくさん感じてもらえたら」と話してくれました。
植物への愛が詰まった、オリジナリティ溢れる金谷家の裏山は、植物の成長や季節の移ろいを五感で楽しみながら、私たちが向き合うべき自然環境の変化を肌で感じられる場所。そんな生命の営みや循環を身近に感じられる「庭」は、私たちと植物の過去と現在、未来をつないでくれる存在なのかもしれません。
【関連ページ】自分の手で生ゴミを土に還す。「キエーロ」の真の魅力とは?
【関連ページ】切り花の寿命がグッと延びる!3つのポイントをおさえて、花のある暮らしを楽しもう
【関連ページ】根っこが出てきた!切り花から鉢植えに、植物を 2度楽しむ秘訣とは?
アリタ チユキ
最新記事 by アリタ チユキ (全て見る)
- おいしいヴィーガンスナックの選び方。おすすめ5選の原材料をチェック! - 2024年8月18日
- 荒地だった斜面を庭&畑に。季節の移ろいを楽しめるようになるまで - 2022年9月30日
- 自分の手で生ゴミを土に還す。「キエーロ」の真の魅力とは? - 2022年9月6日