死を考えれば生が変わる。「森の小さなお別れ会」から考える“心地よい死”の迎え方

「あなたはどんなふうに死を迎えたい?」そんなふうに話を切り出したら、周りの人はどんな顔をするだろう。

死は「縁起でもない」と遠ざけられる話題だ。しかし、高齢化が進み、多死社会へと移行しつつある今、死について語ることは避けて通れないものとなっている。

死についてもっと気軽に対話できる文化をつくりたい、人生のエンディングに新しい選択肢を加えたい──そんな想いで活動している企業がある。それが、「循環葬®RETURN TO NATURE」のサービスを展開するat FORESTだ。彼らの手がける「循環葬®」は、遺骨を粉骨し、森林の土中に埋葬するというもの。亡くなった後に森の栄養となり、自然の一部に還っていく新しい埋葬の仕方は、様々な層から支持を集めている。

そんなat FORESTは、2023年10月末、新たなエンディングサービスの一環として、森の小さなお別れ会「Forest Gathering」の提供を開始。今回は、グリーフケア(喪失のケア)につながるForest Gatheringのサービスについて伺いながら、同社のコアにある想いに触れてみたい。

話者プロフィール:小池友紀(こいけ・ゆき)

小池友紀さんat FOREST・CEO。フリーランスのコピーライターとして15年活動。商業施設やホテル、コスメ、子ども園など様々なコピーライティング、コンセプトメイキングを手がける中、両親の改葬(お墓の引越し)をきっかけに日本の墓問題と向き合い、死と森づくりを掛け合わせた「循環葬 RETURN TO NATURE」を創案。

話者プロフィール:正木雄太(まさき・ゆうた)

正木雄太さんat FOREST・COO。英国・サセックス大学にて社会学を学び卒業後、日本の対人支援の世界へ。2014年に障害福祉事業所を設立し、社会福祉士として活動。「お墓に入らず、愛犬と一緒に眠りたい」という母の願いを叶えられなかった心残りがありRETURN TO NATUREを共同設立し、人のウェルビーイングの視点から事業を推進。

癒されるような別れがあっても良い

――「Forest Gathering──森のお別れ会」とは?

小池さん:Forest Gatheringは、簡単に言うと、森の中で行う少人数制の「お別れ会」です。森林浴をしながら地元食材を使った体に優しい食事を楽しむことで心身を癒し、グリーフケア(喪失による悲しみのケア)につなげていきます。

従来のお別れの場といえば「お葬式」がありますが、これは宗教的な儀式を伴うものを指します。私たちは、宗教などに縛られないお別れの場を設けたいと考え、あえてお葬式とは言わず「Forest Gathering──森のお別れ会」という言葉を使うことにしました。

小池さんと正木さん

左から正木さん、小池さん

緑に囲まれたデッキ

Forest Gatheringが行われる、緑に囲まれたデッキ

――Forest Gatheringを始めたきっかけは何でしょうか?

小池さん:従来のお葬式って、「喪服を着ないといけない」「香典を用意しないといけない」「お焼香を何回しないといけない」といったようにやり方がきっちりと決められていますよね。静かに想いを馳せたい、大切な人たちと故人の想い出話をしたい、など弔う方法は人それぞれ違うはずなのに、想いよりも先に形式や慣習を守らなくてはいけないということに違和感を持っていたんです。

それに、お葬式って何となく冷たくて暗い感じがしますよね。すでに悲しい気持ちなのに、そうした雰囲気でさらに悲しくなってしまう。そうではなく、心が癒されたり、少しでも気持ちが明るくなったりするようなお別れのあり方を提供したくて、サービスを立ち上げました。

Forest Gatheringの食事

Forest Gatheringで提供される食事は、ブックカフェ兼レストラン「TOGO BOOKS nomadik(トーゴーブックス ノマディック)」からケータリングしたもの

私は以前、新しいエンディングの仕方を実際に目にしたことがあります。ある先輩が亡くなったとき、お葬式の代わりにパーティーが開かれたんです。このパーティーはご病気を抱えていた先輩が、亡くなる前に企画していたもので、招待状には「いつも通り私に会うように会場に来てほしい」と書かれていました。喪服も着なければ、献花もなく、香典もなし。

参加者が笑ったり泣いたりしながら故人を送り出す──そんなエンディングのあり方が先輩らしかったと思いますし、とても印象に残っていて。「自分の人生を全うしたんだから、亡くなった後、大切な人たちに悲しんでほしくない、みんなには笑っていてほしい」と思う方もいるし、そういった人生の終い方(しまいかた)があっても良いんだなと感じました。

正木さん:また、森という場所にも意味があると思っています。森林浴には、ストレスの減少や免疫効果の増進、生理機能の活性化などの効果があることが分かっています。そして何より、木々が長い時間をかけて成長していく森では、時間もゆっくりと流れていく──そんないつもと時間軸が違う場所で、五感を使って過ごすことは、心のケアにつながると考えたのです。

僕たちは循環葬®やForest Gatheringが万人にとって一番良い方法だ、と思っているわけではありません。いわゆるお葬式や普通の埋葬方法が良いという方もいらっしゃると思いますし、それを否定する気は全くないんです。ただ僕らが問題だと思うのは、葬儀や埋葬の仕方などに制約が多く、弔いの形が限られている、というように「エンディングの選択肢が少ない」ということ。

今のエンディングのあり方に何かしらの違和感を抱いている方の受け皿になれたら、と思っています。

喪失の痛みに寄り添う「グリーフケア」を

――Forest Gatheringで大切にしている「グリーフケア」とはどういうものでしょうか?

正木さん:グリーフケアとは、簡単に言うと、喪失などの悲しみから生じるつらさや痛みをケアしていくこと。痛みを抱え、苦しんでいる当事者の方はもちろん、そのご家族や友人などを含めてケアすることだと解釈しています。

小池さん:海外では、がん患者の方の治療に「グリーフケアカウンセラー」が入るのが一般的です。つらい治療を受けているがん患者の方だけではなく、それを見守るご家族も気にかけ、その方が亡くなった後も心のケアをしていくのです。

日本の場合、人が亡くなるまではケアを受けられることが多いですが、亡くなった後のご遺族に対するケアの観点が抜け落ちていたことに気づきました。だからこそ、サービスのなかでグリーフケアを行いたいと思ったんです。

正木さん:また、死って意外と資本主義的なんです。お金が多ければ棺を豪華にできる、花がどれだけ飾れる、といったようにお金の有無によってできることとできないことが変わってきますし、お墓を探しているときに「このお墓が良いですよ」「オプションはこういうのがありますよ」などとガツガツ営業されることもあります。「そういうものだから仕方ない」と思われている方が多いと思いますが、まさにここでも「ケア」が抜け落ちているな、と思うんですよね。

小池さん:Forest Gatheringは、たった数時間のつどいですが、喪失感のなかで苦しんでいる方や気持ちを整理できていない方たちのケアに少しでもつながるといいなと思っています。

――グリーフケアを行ううえで大切にしていることはありますか?

正木さん:何かしらのつらさを抱える当事者に対して他者ができるケアって、あまりないと思っていて。できるのは「一緒にいること」くらいなのではないかと思うんです。

だからこそ、ただ一緒に森を歩き「待つこと」そして「聞くこと」をすごく大事にしています。ですから、沈黙を怖がることはありませんし、こちらから何かアクションを起こすよりも、その方のタイミングに合わせるようにしていますね。

小池さん:また、その方らしい終い方を一緒に探すこともケアにつながると考えています。

以前、ある契約者の方からお手紙をいただいたんです。その方は、自分に合ったエンディングの形をなかなか見つけることができず、最終的に私たちのサービスにたどり着いてくださいました。その手紙の中に書いてあったのは「死ぬのが怖くなくなりました」ということ。「自分が死ぬとき、自然に還れるんだ、この命が循環するんだ、と思ったら、すごく安心できました」とおっしゃっていたんです。

正木さん:従来のエンディングの仕方に納得できていない方もいる。そんな方たちの「心のよりどころ」を探す過程は、まさに「ケア」を行っていくことなのではないか──手紙をいただいてそう感じました。

死を考えることで、「生」が変わる

――死について語るのはあまり良くないものだ、という風潮があるように感じられます。

正木さん:人間が生まれてから確実に迎えることが決まっているのって、「死ぬこと」だけ。みんなが等しく迎えるものだからこそ、死という概念をタブーのようにして遠ざけてきてしまった風潮は罪深いなと思います。

小池さん:もちろん、生きている人は誰も死んだことがないので、死というものがよくわからないという気持ちは当たり前だと思います。ですが、様々なメディアで「すべての死=怖い、不幸」というふうに描かれ、必要以上にネガティブな感情が植え付けられることには疑問を持っているんです。死は、誰もが必ず迎えるものだからこそ、もっとポジティブな感情で終えられるエンディングのあり方があっても良いのではないかと考えています。

正木さん:死について語り合える文化の醸成は、これからの多死社会を迎えるにあたって大事なこと。「死は触れてはいけないもの」という文化を変え、もっとカジュアルに話せるような雰囲気を作っていけたら嬉しいですよね。

小池さん:私達は亡くなってからのサービスを提供していますが、実は大切なのは死を迎えるよりもっと前の部分。これからの多死社会を迎えるにあたって、死に対面したときにうろたえるのではなく、前々から死について考える機会を持っておくことが必要だと思います。

それぞれが元気なときから、エンディングのあり方について周囲の人たちと話し、自分の理想的な人生の終い方を見つけてもらいたい。それが私たちの一番の望みです。

――死を遠ざけないために、具体的にできることはありますか?

小池さん:やはり、話してみることが大事だと思いますが、急に話し出すのって難しいですよね。そんなときはゲームを利用してみるのも一つの手です。人生の最期についてみんなで考えるカードゲーム(※)などは、話すきっかけになると思いますよ。

また、映画や小説などで多様な人の死を追体験するのも良いのではないでしょうか。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

小池さん:誰かの死を考えることは、その人の人生を映画のように巻き戻して、死に至るまでの人生を辿ることでもあります。同様に、自分の死について考えることは、今後どういう人生を送ったうえで人生を終えたいのかに想いを馳せることです。理想の死を決めたとき、そこに向かうためにはどう生きていこうと考えることができる。つまり、死を考えることで「生」が変わる、と私は考えています。

自らの死について考え、自分らしい死を遂げることで自分が救われるのはもちろん、当人が納得した死を迎えられたのなら周りも救われます。だからこそ、死について日常的に話す機会を作っておくことが大切だと思うのです。

私たちは、それぞれが「自分らしい死」を遂げられるきっかけ作りをこれからもどんどん仕掛けていきたいと思っています。 私たちのサービスをきっかけに、少しでも多くの方が死について考え、周りの人と対話してくださったら嬉しいです。

小池さんと正木さん

編集後記

取材中、頻繁に登場したのが「心地よい死」という言葉だった。「心地よい」と「死」──結びつくことがないように見える単語たち。だが、小池さん・正木さんと話し、様々な死のあり方について一緒に考えていると、その言葉の組み合わせがすんなりと胸に入ってくるように感じられた。

もちろん、だからといって死が怖くなくなったわけではない。それでも良いのだと思う。

「あなたはどんなふうに死を迎えたい?」

人生を締めくくる「死」の場面。それまでの「生」と同じくらい自分らしい「死」が迎えられるように。「心地のよい」死が見つけられるように。少しずつで良いから、この問いに向き合えるようになりたいと、そう思った。

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。

【参照サイト】RETURN TO NATURE
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