近年、継ぐ人がいない、管理料などの費用がかかるといった理由から、「お墓はいらない」と考える人が増えてきています。そんななか、大阪府豊能郡能勢町に位置する能勢妙見山では、火葬後の遺骨を粉骨し、森林の土中に直接埋葬する「循環葬®」が始まりました。
墓石はどうなるのか、循環することのメリットは、自然環境にはどう影響するのかなど、気になることもたくさん。循環葬®を手がけるat FOREST株式会社の小池さんと正木さんに話をお聞きしました。
森を守り、森に還る循環葬®とは
循環葬®は、火葬後の遺骨を粉骨し、森林の土中に直接埋葬する葬法です。
従来の葬法と異なる大きなポイントは、火葬後の遺骨の扱いです。今まで遺骨は骨壺に収められ、そのまま墓石の下に埋める、もしくは納骨堂などに保管されるのが一般的でした。樹木葬でも、その多くが樹木などを墓標とし、それらの下に骨壺を埋めるという形式を取ります。
循環葬®は土壌学の専門家である鈴木武志助教授の監修のもと、遺骨を専用の機器で細かく粉砕し、森の土壌に混ぜて埋葬します。埋葬された遺骨は、数ヶ月ほどで樹木や微生物によって自然へと戻っていきます。実は人骨の約8割はリン酸カルシウムで、それは肥料と同じ成分だそうです。そのため、木々や土壌にとって遺骨は栄養分となり、森や自然の命の一部となり、循環していきます。
森を健やかに保つために、墓標や墓石はなく、お線香やお供えものも置くことはできません。
循環葬®の値段は、合葬の場合、生前契約で48万円、死後契約で55万円で、管理費等は一切かかりません。また、契約金の一部が森林保全に充てられます。森を切り開いて作られることの多い従来のお墓と違い、森の保全につながります。
循環葬®が生まれた背景
「日本は多死社会に足を突っ込んでいる状態」だと小池さんは言います。現在すでに無縁墓への不安を抱えている人は多く、それに伴って永代供養を考える人も増えています。ヒアリングで一番多く聞かれたのは「子どもに迷惑かけたくない」という声だったとか…。
また、小池さんは親が改葬する際、一緒に葬法などを調べたところ、選択肢の少なさに気づき、「自分の人生の終い方を考えたときに、選びたくなるエンディングない」と思ったそうです。
正木さんもご自身のお母さまが亡くなる際に、ペットと一緒に眠りたいと言われていたそうですが、本人の希望に沿った埋葬ができず、ずっと心に残っていたそうです。さらに、社会福祉士として人の死と接する機会があり、生きる時の選択肢は増えているのに、エンディングの選択肢は少ないと感じていたそうです。こうした経験より、森に還る循環葬®に可能性を感じたと言います。
3人の想いが循環葬®に
循環葬®という選択肢を創案した小池さん。ただ、今までにない葬法であるがゆえ、実際に形にしていくために超えるべきハードルがたくさんありました。
山を購入して始めることも考えたそうですが、海への散骨は民間企業でも行えるものの、山や森への埋葬(土中に遺骨を埋める)は、自治体か宗教法人と組むことが必要と知ります。
そんななか、大阪・北摂にあり1,200年以上の歴史を持つ霊場「能勢妙見山」の植田観肇副住職と出会います。妙見山は天然記念物に指定されている境内のブナ林を守っており、もともと森林保全への意識がとても高く、さらに植田副住職が「最期は森へ還りたい」という声をよく聞いていたことから、循環葬®に興味を持ったそうです。
こうして、小池さん、正木さん、植田副住職の想いが形になって、循環葬®は生まれました。
〝死〟を森林保全に
循環葬®が「海」ではなく「森」への埋葬だったのは、小池さんが森好きだったからだそう。特に2020年からのコロナ禍で、兵庫県の森へ足しげく通ううちに森で過ごす時間の心地よさに魅了されるように…。正木さんも「森のなかにいて気持ちがいいのは時間軸が違うからでは、と植田副住職とも話していました」と言います。
私たちの暮らしが目の前の時間に追われているのに対し、木々が成長するのには10~15年という時間を要することからも納得できる話ですね。
「だからこそ、森に通ってもらえるような機会を作りたいと思いました。心が豊かになり、考え方にも影響しますし、さらに自然への接し方も変わり、未来に豊かさを残したい、と思えるようになるのでは」と小池さんは語ります。
森の小さなお葬式
今後はミニマルな葬儀として、「森の小さなお葬式」も開始予定とのこと。同じく能勢町にある体にやさしい食と本のお店「TOGO BOOKS nomadik」と提携し、おいしく体にいい料理で故人を偲びます。親しい人を失うのは悲しいことですが、森の中で故人の思い出を持ち寄って過ごすひとときは、なにか大きな存在に抱き留められるような豊かな時間となるはずです。
編集後記
死後、何も残さずに自然に還るという、全く新しい葬法である循環葬®。これからの時代にしっくりとくる、何と軽やかな「終い方」なのだろうかとお話を聞いて感動しました。自然に寄り添う暮らしを心がけている人にとっては、特に知っておきたい葬法になるのではないでしょうか。
消去法ではなく、喜んで選びたくなるエンディングの選択肢が、循環葬®の誕生をきっかけに全国に広がる…。そんな未来もそう遠くはないかもしれません。
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