コーヒーは世界で最も飲まれている飲み物であり、毎日23億杯も消費されていると言います。一方、気候変動の影響でコーヒー生産に適した地域が変動してしまう可能性も指摘されており、コーヒーの生産で生計を立てている1億2,000万人もの人たちの、持続可能なコーヒー生産も世界的な社会課題となっています。
世界最大の食品・飲料会社であるネスレは、自社の主力商品である「ネスカフェ」を通じて、コーヒーにまつわるサステナブルな取り組みを行っています。今回はその取り組みについてネスレ日本株式会社飲料事業本部レギュラーソリュブルコーヒー&システム・ギフトボックスビジネス部の中西弘明さんと、コーポレートアフェアーズ統括部メディアリレーションズ室の小川直子さんからお話を伺いました。
持続可能なコーヒー生産者への生活支援
――昨今のコーヒー豆やコーヒー業界をめぐるサステナブルな課題のなかで、御社が特に危機意識を持っているのはどのようなことでしょうか。
中西弘明さん(以下、中西):ネスカフェは世界で毎秒6,000杯飲まれていると言われており、大規模で消費され続けているコーヒーです。そんなコーヒーは生産過程の問題が多く、気候変動の影響で2050年までにコーヒー生産に適した地域が最大50%減少してしまう可能性が指摘されています。
それに伴い、コーヒー生産で生計を立てている1億2,000万人の生活が脅かされる可能性も。コーヒー生産世帯の8割が貧困ライン以下で生活していると言われていることから、弊社ではコーヒー栽培をさらに持続可能なものとする包括的な計画「ネスカフェ プラン2030」を2022年10月に発表しました。農園から1杯のカップに至るまで、苗木から口にするまでポジティブなインパクトを与えるべく、危機意識を持って取り組んでいます。
――「ネスカフェ プラン2030」はコーヒー生産者の再生農業への移行を推進し、温室効果ガス排出量を削減、そしてコーヒー生産者の生活向上を支援するといった内容ですね。
中西:コーヒー生産者の生活支援については、寄付をして終わりという一過性のものではなく、ビジネスとして継続的にお互いが成長するため、収益性の改善が大切です。たとえば病気に強い苗木を開発して渡したり、コーヒー以外にもその地域に適した作物を周辺に植えて二酸化炭素の回収と収益性向上を狙ったりといった取り組みをしています。国や地域によって植える作物は違いますが、お互いに共存できる作物栽培のノウハウを伝えることで、持続可能な生活支援を行っています。
沖縄産コーヒーが飲めるようになる!?「ネスカフェ 沖縄コーヒープロジェクト」
――「ネスカフェ プラン」で培った知見を活かし、沖縄県産のコーヒー豆の生産量を拡大し、日本初の大規模な国産コーヒー豆の栽培を目指す「ネスカフェ 沖縄コーヒープロジェクト」というものがあるそうですね。本プロジェクトが生まれたきっかけを教えてください。
小川直子さん(以下、小川):そもそもコーヒー豆の生産は、地球上の赤道を中心にして、南回帰線から北回帰線の間にある熱帯地方「コーヒーベルト」での栽培が適していると言われています。これは日本だと沖縄県の離島の地域がギリギリ入るほどでして、実はこれまで沖縄県でも小規模ながらコーヒー栽培が行われてきました。しかし、商品化するほどの規模ではなく、他の作物と一緒に農家さんが試しに栽培していた程度です。
「ネスカフェ 沖縄コーヒープロジェクト」のきっかけは、元サッカー日本代表で、現在は沖縄県を拠点とするスポーツクラブ「沖縄SV」のオーナーを務めている髙原直泰さんでした。髙原さんは沖縄でチームを立ち上げるにあたって、地元に根差した産業を地元の人と一緒にやっていきたいと、沖縄産コーヒーに着目。以前所属していたジュビロ磐田時代のスポンサーがネスレだったことを思い出し、コンタクトを取ったことから2019年4月に始まりました。
――具体的にはどのようなプロジェクトですか。
小川:沖縄県内の耕作放棄地などを活用し、これまで限定された量にとどまってきた沖縄県産のコーヒー豆の生産量を拡大することで、沖縄県産のコーヒー豆やコーヒー製品を新たな特産品とするとともに、農業就業者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地への対応など、沖縄県の一次産業における問題解決の一助となることを目指しています。コーヒー栽培の規模だけを求めるのではなく、放棄地の存在周知や地権者への橋渡し、コーヒー栽培に興味がある農家への紹介など、行政も関与していることが特徴かと思います。
沖縄SVだけではなく耕作放棄地など、土地の問題については自治体が、沖縄県の土壌や気候については琉球大学の農学部にもお手伝いいただいていて、産学連携で立ち上げているプロジェクトです。ネスレとしては、資金提供やスポンサーになっているのではなく、「一緒にやっていこう」ということで、これまでに培ったコーヒー豆の苗木や種、また栽培に関するノウハウや知識を提供することで協力している状況です。現在は沖縄SV直営の農場3つを含め、協力農家や大学など、合わせて15か所で栽培をしています。
――沖縄県でのコーヒー栽培はどのような点が難しいのでしょうか。
小川:コーヒー豆は種を蒔いてから収穫までに約5年かかります。かつ沖縄県の大きな問題が、台風被害や海に近いという気候面です。そのため、まだまだどのような品種が適しているのか、どのような環境で育てるのかなどに試行錯誤している段階で、かなり中長期的な取り組みとなっています。
プロジェクトでは段階的な目標を立てており、まず今の目標は栽培方法の確立です。次に沖縄現地での収穫体験や観光農園の発展などで、多くの人に沖縄産コーヒーを知って飲んでもらうこと。次に沖縄に来た人がお土産屋やカフェなどで買えるように。最終的には通信販売などで、一般の人が気軽にアクセスできて買えるようになってほしい。量を追い求めるよりも、まずはおいしさと質を重視したコーヒー豆を収穫すること、そして沖縄に来たら飲めるようにしたいというのが直近での目標です。
昨シーズンの沖縄コーヒーはフルーティーでスッキリとした味わい!
――同プロジェクトの今後の展開を教えてください。
小川:「沖縄産のコーヒー」と聞くだけでもワクワクして飲んでみたいと思いますよね。現在はまだ複数の品種と栽培場所を確保中ですが、昨シーズンのコーヒーを飲んだ関係者からは「フルーティーでスッキリとして飲みやすかった」という感想を得られました。
今は試行錯誤の段階ですが、髙原さんのインパクトもあって注目されてきており、沖縄県内でも「参画したい」という農家さんからの問い合わせが増え続けています。県内での収穫体験によって沖縄コーヒーが飲めるという次の段階に持っていきたいです。「沖縄コーヒーを飲みたい」と思った人が、何かしらの手段で飲めるようにしていきたいですね。
【参照サイト】 ネスカフェ Make your world
【参照サイト】 ネスカフェ 沖縄コーヒープロジェクト
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