ファッション業界の「大量生産・大量消費・大量廃棄」という産業構造は、地球環境に負荷を与え続けていると言われています。こうした業界の仕組みを変えるために私たちは何ができるのでしょうか。
Life Huggerでは、環境省の「サステナブルファッションタスクフォース」に、ファッション業界の課題やその解決に向け、生活者である私たちや企業ができることなどについて取材を行いました。今回、対談に参加していただいたのは、国立公園課国立公園利用推進室の岡野隆宏室長をはじめ、清家裕課長補佐、福田朋也審査官、金井塚彩乃さんの4名です。
取材の前半では、企業と個人の双方向のコミュニケーションの重要性や、ファッションロスを出さない購入する服の選び方についてお話を伺いました。
後半では、服の「大量廃棄」について、不要になった服の処分やリサイクルの場面で、私たち生活者ができることや企業に期待する取り組み、環境省として注目しているトピックについて語っていただきました。
いつかはやってくる、大切に使った服を処分するときに考えたいこと
環境負荷が軽い「リユース」は、手放す時も相手とのつながりを感じられる
福田さん:まずは服をごみとして廃棄しないこと。僕も以前は服をごみとして捨てていましたが、近所の区役所に回収ボックスがあることを知り、そこに服を出しに行くことから始めました。僕のように偶然家の近くに回収ボックスができたからなど、そういうきっかけでもいい。できることから始めてみるのがいいと思います。
清家さん:環境省としては服の「リユース」も進めていきたいです。リユース市場はこれまで日本ではあまりメジャーではありませんでしたが、例えばメルカリのようなサービスも広がり、ある程度は日常に浸透しつつありますし、リユース市場が少しずつ盛り上がっているという話も聞くようになりました。
岡野さん:リユースって誰かにモノを伝えていくことでもあります。以前参加した服の交換会では「私の服は誰が着る?」といった、物物交換のようなコミュニケーションが活発に交わされていました。リユースを通して、新しいつながり生まれるのもおもしろいと思いました。こうした服の交換会は、ものを無駄にしないで大事にするということや、生活コストを下げることにもつながるので、多くの方に参加してみてほしいですね。
清家さん:リユースといえば、子どもが通っている学校に、制服のリユース品を譲り受けるというプロジェクトがあります。制服は学校に通っている期間だけしか使用しないですし、子どもの成長スピードに合わせて買い替える必要もあるのでもったいない。そうした観点で、制服のリユース品の譲渡は環境にも家計にも良い取り組みだと言えます。こうした活動が全国で広がるといいなと思いますね。
リサイクルしやすい服を選ぶことで、作り手の意識を変えていく
金井塚さん:リサイクルはコストがかかるため、なかなか普及しづらいところがあります。特に合成繊維やいろいろな素材を混ぜて作られている服には、リサイクルが難しいという問題があります。
福田さん:最終的にリサイクルすることを前提に、企業が商品を作ってくれるようになるといいですよね。特に衣服の場合は、生地はポリエステル、ボタンは金属など、異なる材料が使用されていることが多いものです。今後は設計段階からリサイクルの概念を入れた新しい価値のある服が出てくることに期待しています。
岡野さん:そうですね。例えば、リサイクルポリエステルにはペットボトルが使用されています。ペットボトルは最初からリサイクルしやすいように設計されています。再生素材として、今世の中に出ているなかでリサイクルポリエステルが多いのは、材料のペットボトルがリサイクルしやすいからです。
清家さん:リデュースやリユースにいくら取り組んだとしても、最後には使うことができなくなる時がきます。回収したモノから同じモノへとリサイクルする「水平リサイクル」が実現できるかどうかが資源循環の実現のひとつの鍵になります。技術やコストの課題はあるにせよ、「水平リサイクル」は国と企業とで一緒に目指していきたいテーマですが、今すぐに実現するのは難しいので、将来に向けた中長期的な課題です。
金井塚さん:リサイクルに関しては技術革新の部分が大きいように感じます。ただ、衣類に限らず、私たち生活者も日頃から分別を徹底して行うなど、できることもあるので、そこは取り組んでいただきたいです。
環境省のタスクフォースメンバーが日頃心がけていることや注目していることは?
ファッションの「地産地消」は難しい?その理由とは
清家さん:ファッションに限らず、普段から「地産地消」は意識しています。住む地域とか広い意味でいうと国産であるとか、そういうことを意識して生活するとモノに愛着がわきますし、ファッションや食、その他のものも含めて地産地消を進めると、輸送や保存などの観点で環境保全にもつながるのではないかと思います。
岡野さん:ただ日本って資源が少ないので、どうしても自分たちの国の中だけでは自給自足できない。その場合、地産地消をどこに置くのか、どういう視点で見るのかを考える必要があります。原材料から全部国産は難しいですが、なるべく国内縫製のシャツを選ぶようにしています。
清家さん:ファッションに関しては、材料も含めた完全な地産地消は難しいところです。現在日本で販売されている衣類の98%が輸入品ですが、残り2%は国産品も存在しています。オーガニックコットンを作っている農家さんや、それを製品にするまでのプロセスを行っている企業も少ないですが探せばあります。そうした国内のファッション産業を盛り上げていきたいです。
岡野さん:今後、環境や人権などの問題へのチェックが厳しくなっていくなかで、海外生産は相対的にコストが上がっていくことが予測されます。そういう点でも、生産については国内回帰もあるのではないかと思います。
意識しなくてもサステナブルファッションが当たり前になる社会をめざして
金井塚さん:服を選ぶ時には、サステナブルだからではなく、かっこいいから、かわいいからで選びますよね。もう少しサステナブルが当たり前に、自分がいいなと思って手に取った服が、結果的にサステナブルだったという社会になってほしいです。そのためには、生活者も企業もどちらの努力も必要なので、環境省として両者をサポートしていきたいです。
福田さん:服を選ぶ時に、価格がリーズナブルであるというところに価値を置くのもいいかもしれませんが、「環境に良い」という観点も価値のひとつとして認識してもらえるようにしたいです。多少高くても環境に良いという価値があるから購入するという流れが生まれれば、それが経済成長にもつながっていくはずです。
岡野さん:ファッションからは少しはなれたトピックですが、私たちの暮らしを支えていることの一つに「生物多様性」があります。例えば、服の場合は天然素材が3割、合成素材が7割で地下資源に頼っています。地球環境を守るためにも地下資源への依存を減らすことは重要ですが、頼らない部分をオーガニックコットンのような天然素材がちゃんと埋めてくれるのかどうかも考えなければいけません。天然素材を含む生物多様性をいかに大切に未来に引き継いでいくかというのはとても大事なことです。
環境省ってどんなところ?環境省で日々取り組んでいるアクションを紹介
岡野さん:まずは、クールビズ。環境省に関しては、もはやファッションのルールがなくなったのはすごくいいと思いますね。毎日好きなファッションで1年中を楽しめます。
金井塚さん:環境省の地下にあるコンビニでは、レジ袋はお金を出しても買えません。エコバッグなどを各自で持って行く必要があるのですが、袋を持っていない場合は熱いうどんでもがんばって手で運びます。
清家さん:マイボトルでいうと、コロナ禍で衛生面からウォータークーラー(冷水機)が使えなくなり、代わりにマイボトルに水を入れる(リフィル)ための給水口が付きました。
福田さん:あれいいですよね。それまではマイボトルを持ってきていても、中身を飲み切ったらペットボトルを買うしかなく、あまり意味がないと思っていました。でも今はいつでもマイボトルに水をリフィルできるようになったので、ペットボトルを買わなくなりました。
清家さん:食の部分では、環境省の26階の食堂には毎日必ずプラントベースのメニューがひとつ週替わりで入っています。職員からお願いして導入してもらいました。
岡野さん:あとはパワーシフトじゃないですか。電気を再エネに切り替えました。環境省もですが、新宿御苑も100%再エネに切り替えました。僕の家の電気も再エネです。
編集後記
実は環境省のサステナブルファッションのページは、今回の対談に参加してくださった福田さんと金井塚さんが手がけたんだそう。「環境問題の深刻さよりもファッションの楽しい感じを前に出し、気軽に取り組んでもらえるようなサイトを作りました」(福田さん)「何度も繰り返し訪れたくなるよう、イラストを使用して親しみやすいデザインを心がけました」(金井塚さん)と言うように、サイト全体がおしゃれで見やすいデザインなので、大人も子どももサステナブルファッションについて簡単に学ぶことができます。
今回の取材を通して、環境省の皆さんがいち生活者として、日々迷いながらファッションをサステナブルに楽しむことに挑戦し、暮らしのなかでできることを自分ごととしても考えていることを知りました。私たちLife Hugger編集部も、さまざまな暮らしのアイデアを試しながら、無理なく続けられるサステナブルな暮らしを模索して続けているので、タスクフォースの皆さんの姿勢に共感を覚えました。
今後も、さまざまなイベントを企画しているという環境省のサステナブルファッションタスクフォース。ファッションのサステナビリティは、これまでLife Huggerでも取り上げてきた大切なテーマの一つです。私たちも、環境省が示しているサステナブルファッションの実現に向け、多くの人の暮らしがほんの少しでもサステナブルになるよう、アイデアや情報を届けていきたいです。
(取材・文:わだみどり)
【参考サイト】環境省 サステナブルファッション
【関連ページ】【環境省のサステナブルファッション担当者に聞く(前編)】服を買う時に私たちにできること
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